関東大震災から100年に当たっての会長談話
関東大震災が発生した1923年9月1日から100年が経過した。関東大震災は、災害対策や被災者支援・復興支援の問題のみならず、災害下における人種差別・差別的言動などの問題をも浮き彫りにした。私たちは、この節目の日を迎えるに当たり、改めて、災害と人権について思いを致さなければならない。
関東大震災は、揺れによる倒壊、液状化、津波、土砂災害のみならず、多くの火災が発生し、大規模な延焼火災へと拡大したことで、全半壊・焼失・流出・埋没の被害を受けた住家は総計37万棟にのぼり、死者・行方不明者は約10万5000人に及ぶなど、未曾有の被害をもたらした。その後も、日本では、阪神・淡路大震災、東日本大震災を始めとする数多くの災害が全国各地で発生しており、いつでも、誰しもが被災者になり得る状況にある。
当連合会は、災害からの復興について、憲法が保障する基本的人権を回復するための「人間の復興」でなければならないことを訴え、災害発生の都度、各種の法律相談、被災者・支援者等への情報提供、立法及び制度運用に係る提言、支援者間の連携構築への働きかけ等の様々な活動を展開してきた。しかし、現在もなお「人間の復興」に至ったとはいえない被災者も多数存在し、被災者への誹謗・中傷・差別等の二次的な被害も生じている。
また、災害に起因する死亡には、直接死だけでなく災害関連死も含まれており、直接死を減らすための事前の防災・減災活動のみならず、事後の災害関連死を減らすための取組も重要である。
当連合会は、改めて、基本的人権の擁護を使命とする弁護士にとって、被災者支援が重要な本来的業務であることを確認し、引き続き、被災者支援・復興支援活動に全力を尽くす所存である。また、全国のどこで災害が発生しても「人間の復興」があまねく実現されるよう、各弁護士会における災害ケースマネジメントに関する体制整備や、行政及び各種支援団体との連携強化を推し進めていく所存である。
過去の大災害時においては、人種差別・差別的事象が発生している。関東大震災の直後には、「朝鮮人が暴動を起こしている」「朝鮮人が井戸に毒を入れた」などの流言飛語を端緒として、わずか数日のうちに、軍隊や自警団等によって多数の朝鮮人・中国人が虐殺された。当連合会は、2003年8月、この虐殺に関し、政府に対して、軍隊及び自警団による虐殺の被害者・遺族に対し、その責任を認めて謝罪すべきであり、また、虐殺の全貌と真相を調査し、その原因を明らかにすべきである旨勧告した。
この虐殺の背景には、当時の日本人の朝鮮人・中国人に対する民族的差別意識があった。日本が1995年に加入した人種差別撤廃条約は、人種差別の根絶を目的とする「迅速かつ積極的な措置」を採ることを締約国に義務付けている。にもかかわらず、日本は、同条約上の約束を果たすための国内法を制定せず、国連人種差別撤廃委員会から繰り返し人種的差別を禁止する包括的な立法措置を講ずるよう勧告を受けている。当連合会としても、改めて、国に対し人種的差別撤廃についての基本法の制定を求める。
また、この虐殺は、流言飛語を端緒としてなされ、差別的言動がヘイトクライムやジェノサイドといった物理的暴力を誘引したものであった。そして、今日では、AI(人工知能)を用いて容易にフェイク画像が作成されたり、真偽の確認が不十分なままSNS等を通じて情報が拡散されたりするおそれがあり、流言飛語が拡散しその影響が拡がる危険は飛躍的に高まっている。当連合会は、本年4月「人種等を理由とする差別的言動を禁止する法律の制定を求める意見書」を公表したところであり、引き続き、人種等を理由とする差別的言動を禁止する法律の制定を求める活動を行っていく所存である。
2023年(令和5年)9月1日
日本弁護士連合会
会長 小林 元治