改正入管法の成立を受けての会長声明


本年6月9日、出入国管理及び難民認定法の改正法案が、参議院で可決され、改正法が成立した。


改正法案には、収容期間の上限の設定や司法審査の見送り、支援者や弁護士にその立場とは相容れない役割を強いる監理措置制度の創設、ノン・ルフールマン原則に反するおそれのある難民申請者に対する送還停止効の一部解除、退去命令違反罪の新設等、多くの問題点があり、当連合会は、改正法案に一貫して反対してきた。


改正法案については、国連人権理事会によって指名された特別報告者らも、日本政府に対し、「国内法制を国際人権法の下での日本の義務に沿うものにするため、改正法案を徹底的に見直す」ことを求める共同書簡を送付している。しかし、政府の対応は、これを真摯に受け止めるどころか、「一方的に見解を公表したこと」に抗議するというものであった。


国会審議の過程においても、2021年当時の国会審議において、参考人として自身が担当した難民申請の不服申立手続では難民はほとんどいなかったと発言した参与員について、2021年・2022年の2年分で計2,609件を審査し、2022年は全件の4分の1以上を年間32日の勤務日数で処理していた事実が判明した。他の参与員の処理件数に比して大幅な偏りが存し、丁寧な審査など期待できない処理件数であって、送還停止効の例外を設ける前提として、難民認定手続が適正に行われているかについて深刻な疑義が認められた。また、政府は、大阪出入国在留管理局における常勤医師の確保等を挙げて入管における医療体制は改善されていると説明していたが、昨年7月に着任した同局の常勤医師が、本年1月に酒酔い状態で勤務し、それ以降は医療業務を行っていなかった事実も判明した。


以上のとおり、改正法案の立法事実(法律制定や改正の必要性を支える事実)の存在に深刻な疑義が認められる事態となっていたにもかかわらず、改正法が成立したことに強く遺憾の意を表する。あわせて、2022年9月15日付けで公表した意見書「arrow_blue_1.gif出入国在留・難民法分野における喫緊の課題解決のための制度改正提言~あるべき難民、非正規滞在者の正規化、送還・収容に係る法制度~」で指摘したとおり、在留判断や収容に関する国際人権条約の遵守の確保、出入国在留管理庁から独立した難民認定機関の設置、外国人の出入国に関する処分についての行政手続法等の適用など、憲法上、国際法上求められる人権の保障や適正手続の要請にかなう制度を早急に実現することを求める。


それまでの間も、少なくとも参議院での附帯決議を尊重し、①国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)の基準や見解に基づいた上、難民条約締約国における処分例や裁判例も踏まえた明確かつ適正な難民認定の基準と手続に基づいて難民を初回の申請から確実に保護すること、②その上で、改正法第61条の2の9第4項第1号の「相当の理由がある資料」を幅広く認める等して、安易に送還停止効の解除によるノン・ルフールマン原則違反が生じないようにすること、③監理措置制度において、監理人や被監理者のプライバシー等が侵害されず、監理人に被監理者との間の信頼関係と報告義務との相反状況が生じないようにすること、④在留特別許可のガイドラインの策定に当たり、子どもの最善の利益や家族の結合等の国際人権法を遵守することが実現される必要がある。


当連合会は、人権の守り手として、改正法によってその生命や身体が危険にさらされ、自由や権利を侵害されるおそれのある人々を守り抜くため、今後も最大限の努力を行うことを誓う。



2023年(令和5年)7月6日

日本弁護士連合会
会長 小林 元治