当事者の性別に関わりなく婚姻を可能とする立法を改めて求める会長声明


近時、法令上同性にある当事者が婚姻できないことの合憲性が争点となっている地方裁判所の違憲判断が相次いで出された。


名古屋地方裁判所は、2023年5月30日に「同性間の婚姻を認めていない民法及び戸籍法の諸規定」について「同性カップルに対して、その関係を国の制度によって公証し、その関係を保護するのにふさわしい効果を付与するための枠組みすら与えていない(中略)その限度で、憲法24条2項に違反すると同時に、憲法14条1項にも違反する」と判示し、福岡地方裁判所は、同年6月8日に「同性カップルに婚姻制度の利用によって得られる利益を一切認めず、自らの選んだ相手と法的に家族になる手段を与えていない本件諸規定はもはや個人の尊厳に立脚すべきものとする憲法24条2項に違反する状態にある」と判示し、いずれも違憲の判断を示した。


これらの判断は、既に札幌地方裁判所が2021年3月17日に「本件規定が、異性愛者に対しては婚姻という制度を利用する機会を提供しているにもかかわらず、同性愛者に対しては、婚姻によって生じる法的効果の一部ですらもこれを享受する法的手段を提供しないとしていることは、立法府が広範な立法裁量を有することを前提としても、その裁量権の範囲を超えたものであるといわざるを得ず(中略)本件規定は、上記の限度で憲法14条1項に違反する」と判示し、さらに、東京地方裁判所が2022年11月30日に「現行法上、同性愛者についてパートナーと家族になるための法制度が存在しないことは、同性愛者の人格的生存に対する重大な脅威、障害であり、個人の尊厳に照らして合理的な理由があるとはいえず、憲法24条2項に違反する状態にある」と判示して違憲の判断を示したことに続くものである。


当連合会は、455名の当事者から同性間の婚姻が認められていないことについて人権救済の申立てを受けたことをきっかけとして、2019年7月18日付けで「arrow_blue_1.gif同性の当事者による婚姻に関する意見書」を取りまとめている。憲法13条により自己決定権としての婚姻の自由が認められており、その根拠は婚姻が人格的生存に深く関わる価値を有することにあり、同性同士の婚姻にも異性同士の婚姻と同様に人格的生存に深く関わる価値がある。同性婚が認められていないことは、憲法13条の婚姻の自由を侵害している。また、性的指向は、本人の意思によっては左右できないものであり、歴史的にも強固な差別の根拠とされてきたものであるから、人種、信条、性別による場合と同様の厳格な基準によって別異取扱いの正当化事由の有無を判断すべきであるところ、性的指向により婚姻について別異の取扱いをすることを正当化する事由は見当たらないから、法制上同性婚を認めないことは、憲法14条の平等原則に反するものである。かかる重大な人権侵害を是正するため、当連合会は、国が同性婚を認め、これに関連する法令の改正を速やかに行うことを求めたものである。


今般、札幌・東京・名古屋・福岡地方裁判所の各判決が、民法及び戸籍法の諸規定に関し、同性愛者に対しては婚姻によって生じる法的効果の一部ですらもこれを享受する法的手段を提供しないとしていることについて、あるいは同性のカップルには家族になるための法制ないしその関係を国の制度で公証する枠組みが存在しないことについて憲法違反を認めた点では、評価できる。


しかし、これらの判決が異性間の婚姻とは法的効果や名称の異なる制度を設けることがありうるかのように述べている点は、そのような未だ存在しない制度の合憲性について判断したものではないとしても、やはり問題がある。憲法14条の平等原則からは、異性間の婚姻よりも法的効果の劣る制度を構築することは、正当な理由なく同性同士の婚姻を不利益に扱うものであり、許されない。また、異性間の婚姻と法的効果が同一であっても名称の異なる制度を導入することは、そのこと自体により同性のカップルは異性のカップルに劣る存在とのメッセージが発せられることになり、やはり平等原則に反する。


そして、法令上同性の人たちが婚姻できないことによる人権侵害が日々続いていることも見逃すことはできない。この状態を解消する方法は、関連する法令を改正して同性婚を認めること以外にはない。


当連合会は、国に対し、改めて、婚姻しようとする当事者の性別の組合せに関わりなく誰もが同一の婚姻制度を利用しうるように、法令の改正を速やかに行うことを求める。



2023年(令和5年)6月30日

日本弁護士連合会
会長 小林 元治