旧優生保護法国賠訴訟の被害者勝訴判決の集積を受け改めて一時金支給法の抜本的見直しを求める会長声明


全国各地で提起されている旧優生保護法国家賠償請求訴訟について、本年(2023年)に入り、1月23日に熊本地方裁判所、2月24日に静岡地方裁判所、3月6日に仙台地方裁判所、3月16日に札幌高等裁判所、3月23日に大阪高等裁判所において、それぞれ、被害者である原告(控訴人)勝訴の判決が言い渡された。


これらの判決は、昨年(2022年)2月22日の大阪高等裁判所判決及び同年3月11日の東京高等裁判所判決に続き、旧優生保護法が憲法第13条及び第14条第1項等に反する違憲の法律であったことを認め、正義・公平の理念から除斥期間の適用を制限し、被害者への賠償を命じたものである。


これらの判決の集積によって、長年にわたり強度の人権侵害を受けてきた旧優生保護法の被害者に対し、除斥期間の適用を制限すべきであるとの司法の判断は、大方固まったと言うべきである。


また、これら7つの勝訴判決の全てが、優生手術を受けた者に対し、「旧優生保護法に基づく優生手術等を受けた者に対する一時金の支給等に関する法律」(以下「一時金支給法」という。)で定められた一時金の額320万円を大幅に上回る額の慰謝料を認め、かつ、うち5つの判決が1500万円の慰謝料を認めたこと、及び、2つの大阪高等裁判所判決が一時金の支給対象外である優生手術を受けた者の配偶者に対する慰謝料を認めたことは、特に重視されなければならない。


一時金支給法は、2019年4月24日に成立し、即日公布・施行されたが、同法には、一時金の額や配偶者が支給対象外である点以外にも、旧優生保護法の違憲性が明記されていないこと、人工妊娠中絶を受けた者が支給対象外であること、行政が把握している被害者へのプライバシーに配慮した個別通知が明記されていないことなど、不十分な点が多くある。


当連合会は、一時金支給法が成立した同日から、被害回復が一層充実されるように同法の見直しも含めて検討することを継続的に求め、さらに、昨年9月30日に行われた第64回人権擁護大会において、「arrow_blue_1.gif旧優生保護法下において実施された優生手術等に関する全面的な被害回復の措置を求める決議」を採択し、一時金支給法の抜本的見直しを含む全面的な被害回復の実現を求めた。


しかしながら、今日に至るまで、一時金支給法の抜本的見直しに向けた目立った動きはなく、この間にも、被害者の高齢化が進み、亡くなった被害者も多くいる。


旧優生保護法国家賠償請求訴訟の原告となっているのは被害者全体のうちのごく一部である。原告らは、大きな勇気と決断をもって訴訟を提起し、継続しているが、高齢の原告らに過大な負担をかけ続けることは適切ではない。


全ての被害者に対して、全面的な被害回復を実現するためには、法改正によるほか途はないのであり、国は即刻、一時金支給法の抜本的見直しを行うべきである。


それとともに、国は、国家賠償請求訴訟について、原告らとの間で話合いを行い、和解による早期の全面的解決を図るべきである。


当連合会は、昨年12月19日に、旧優生保護法の被害に関する全国一斉の電話相談を実施したが、寄せられた相談件数は、24件にとどまった。改めて、本問題に関しては、被害者に必要な情報を届けること、情報に接した被害者から相談してもらうことが困難であることを痛感させられた。今後も継続的な相談会の実施や広報の工夫が必要であり、さらには国による情報の周知徹底のための積極策も検討されるべきである。


当連合会は、今後も、旧優生保護法による被害の全面的な回復が実現し、被害回復が全ての被害者に行き届くまで、真摯に取り組んでいく所存である。



2023年(令和5年)4月7日

日本弁護士連合会
会長 小林 元治