東日本大震災及び東京電力福島第一原子力発電所事故から12年を迎え、「人間の復興」の実践と被災者支援を継続する会長談話


東日本大震災及び東京電力福島第一原子力発電所事故(以下「原発事故」という。)から12年を迎えた。東日本大震災による死者は1万5900人、行方不明者は2523人(警察庁調べ。2022年3月9日現在)に上る。被災地では、今なお多くの被災者が困難な状況に置かれている。


当連合会が2021年10月15日付け「arrow_blue_1.gif弁護士の使命に基づき、被災者の命と尊厳を守り抜く宣言~東日本大震災から10年を経て~」においても確認したとおり、災害からの復興は憲法が保障する基本的人権を回復するための「人間の復興」でなければならない。しかし、例えば生活の基盤である住環境の再構築についてみれば、住家被害認定、被災者生活再建支援制度、応急修理制度や応急仮設住宅制度等の各制度自体が課題を抱えていることに加え、複雑な制度設計となっており、被災者支援の制度として十分に機能しているとは言えない。12年が経過した現在でも不安定な状況での生活を余儀なくされている被災者が多く存在することを忘れてはならない。


また、上記東日本大震災による死者の他に災害関連死と認定された方は3789人(復興庁調べ。2022年6月30日現在)に上る。当連合会は、2018年8月23日付け「arrow_blue_1.gif災害関連死の事例の集積、分析、公表を求める意見書」及び上記宣言において、東日本大震災を含めた過去の災害関連死の事例について、具体的な分析、検証をし、結果を公表することを提言しているが、現状の対策は不十分であると言わざるを得ない。亡くなられた方々の無念さを無駄にしないためにも速やかに国が実施した分析、検証とその結果が公表され、それを基に今後の大規模災害の発生を見据えた避難体制の構築や避難所の環境整備、災害時の医療体制の改善等が進められなければならない。


原発事故に伴う損害賠償については、2022年3月の最高裁判所決定により、7つの集団訴訟において東京電力ホールディングス株式会社の損害賠償額についての各控訴審判決が確定した。このような動きを踏まえ、原子力損害賠償紛争審査会(以下「原賠審」という。)が、昨年12月に東京電力株式会社福島第一、第二原子力発電所事故による原子力損害の範囲の判定等に関する中間指針(以下「中間指針等」という。)の第五次追補を制定した。


しかし、当事者による自主的な解決に資する一般的な指針を策定することを業務とし、できる限り迅速な解決を促すことを目的としている機関である原賠審が、被害者が切実に求めてきた中間指針等の見直しを怠り、集団訴訟の判決確定を待っていたことは、遅きに失すると評価せざるを得ない。原発事故から12年が経過し、避難等が長期化する中、家族の分離、相続等が発生し、中間指針等に記載のある賠償の請求権を実際に行使するには、様々な問題が生じている。


そして、5回の追補制定を経てもなお中間指針等には見直しを要すべき点が多々存在する。そのため、原賠審は、本来のその役割に鑑み、今後も引き続き、自主的避難等対象区域を含めた現地視察、専門家調査などの方法により、原子力損害の実態について、調査及び評価を行い、その結果を公表するとともに、被害の実態に見合った十分な賠償を迅速に行うために、更なる中間指針等の見直しを早期に実現すべきである。


原発事故に限らず、時間の経過に伴い、被災者が置かれている状況は一層多様化、複雑化している。「人間の復興」を目指し、どの被災者も取り残すことなく支援するためには、一人ひとりの状況を的確に把握し、様々な施策や制度を組み合わせて個別の生活再建計画を立て、人的支援を含めて総合的に被災者を支援する仕組み(災害ケースマネジメント)を全国的に実現することが有益である。加えて、効果的な支援に繋げるため、自治体内の部署間及び支援者・自治体間の被災者情報の共有の促進も望まれる。


当連合会は、東日本大震災及びそれ以降に相次いで発生した大規模災害において、被災者向け法律相談、ADR及び被災ローン減免制度等の支援に取り組んできた。2020年からは、世界中で猛威を振るう新型コロナウイルス感染症の影響も重なって、被災者を取り巻く環境は厳しさを増している。今後も引き続き「人間の復興」を目指し、全国各地の弁護士、弁護士会の経験と法律家としての英知を結集し、一人ひとりの被害者に継続して寄り添いながら被災者支援のための活動を継続していく所存である。



2023年(令和5年)3月11日

日本弁護士連合会
会長 小林 元治