政府の「日本学術会議の在り方についての方針」に反対する会長声明


内閣府は、2022年12月6日「日本学術会議の在り方についての方針」を発表し、同月21日「日本学術会議の在り方について(具体化検討案)」としての追加説明文書を示した(以下、併せて「本件方針」という。)。


当連合会は、2020年10月1日になされた内閣総理大臣による6名の日本学術会議会員候補者の任命拒否を受けて、同月22日に「arrow日本学術会議会員候補者6名の速やかな任命を求める会長声明」を、2021年11月16日に「arrow日本学術会議会員任命拒否の違法状態の是正を求める意見書」をそれぞれ発表し、この任命拒否は従来の政府の解釈に反し、日本学術会議法の関係規定にも違反する違法なものであるとともに、政府の政策に批判的な活動を理由とする懸念があり、学問の自由の脅威となりかねないとして、6名の速やかな任命とともに、任命拒否の経緯と判断過程等について説明責任を果たし、今後、日本学術会議の独立性と自律性を尊重して会員の選任過程に介入しないこと等を求めてきた。


その後、日本学術会議は、自ら改革や組織の在り方等の検討をし、2021年4月に「日本学術会議のより良い役割発揮に向けて」を公表し、説明責任を果たしつつ厳正に行うことを旨とした新たな方式により会員選考を進めるなど改革を進めてきた。ところが、今般、内閣府は本件方針を提示して、日本学術会議会員の選考及び任命の手続の改定を含め、日本学術会議の在り方を改変する法改正等を政府の方針として提示した。


本件方針は、日本学術会議に対し、政府と科学者が国の科学技術政策とその課題履行のために「問題意識や時間軸を共有」して協働することを求め、中長期的・俯瞰的分野横断的な課題に関する質の高い科学的助言を適時適切に発出することが求められているとして、日本学術会議が「新たな組織に生まれ変わる覚悟で抜本的な改革を断行することが必要である」とする。そのため、会員・連携会員に求められる資質等を明確化し、会員候補者の第三者による推薦や、選考に意見を述べる第三者委員会の設置とその意見の尊重など、「選考・推薦及び内閣総理大臣による任命が適正かつ円滑に行われるよう必要な措置を講じる」とし、その法制化のための関連法案を本年の通常国会に提出することを目指すとしている。


しかしながら、日本学術会議が課題とする政府への科学的助言は、本件方針にいうような「協働」とは異なり、政府の利害から学術的に独立に自主的に行われるべきものであり、その独立性を保障することこそ科学が人類社会の福祉に貢献するためには必要である。そのような独立性は会員選考の自律性を不可欠とするが、本件方針の「第三者から構成される委員会」の組織内容や権限、委員の人選等さえもいまだ明らかでなく、その制度内容と運用次第で会員の選考が政府の意思によって左右されることにより、日本学術会議の自律性を損なうことが強く危惧される。


国際的にみても、多くのナショナル・アカデミーは、その会員を自ら選考する方式(コ・オプテーション方式)を採用しており、また、1983年に日本学術会議の会員の選定方式が従来の公選制から任命制に変更されるに当たって、政府が、内閣総理大臣による任命は形式的行為に過ぎず、日本学術会議から推薦された者を拒否することはないとの見解を明確にしたのも、学術的観点からの会員選考の自律性を確保する趣旨であった。


日本学術会議は、2022年12月21日に発表した「声明」において、既に学術会議が独自に改革を進めているもとで、法改正を必要とすることの理由(立法事実)が示されていないこと、会員選考のルールや過程への第三者委員会の関与が提起されており、それは学術会議の自律的かつ独立した会員選考への介入のおそれがあり、また、先の任命拒否の正統化につながりかねないこと、政府等との協力の必要性は重要な事項であるが、同時に、学術には政治や経済とは異なる固有の論理があり、「政府等と問題意識や時間軸等を共有」できない場合があることが考慮されていないこと等を指摘し、本件方針が日本学術会議の独立性に照らしても疑義があり、その存在意義の根幹に関わるものであるとして、拙速な法制化に対して強く再考を求めている。


日本学術会議が指摘する内容は、当連合会がこれまで発出した声明や意見とも基本的に方向性を同じくするものである。政府が日本学術会議に「新たな組織に生まれかわる覚悟」を迫り、その独立性・自律性と存在意義の根幹にも関わる制度の改変を行おうとするのであれば、まず日本学術会議との十分な協議や国民的議論を尽くすべきであり、それを欠いたまま性急に法改正を行うべきものではない。


よって、当連合会は、政府に対し、かかる本件方針に反対しその撤回を求めるとともに、改めて2020年10月の会員任命拒否を是正してその正常化を図り、日本学術会議の独立性と自律性を尊重し、相互の信頼関係を構築することを求めるものである。



2023年(令和5年)2月28日

日本弁護士連合会
会長 小林 元治