性的少数者に対する差別発言に抗議し、速やかな同性婚法制化を求める会長声明


岸田文雄内閣総理大臣は、本年2月1日の第211回通常国会予算委員会において、同性婚に関する質問を受け「極めて慎重に検討すべきだ」と消極的な見解を述べるとともに「家族観や価値観、社会が変わってしまう課題だ」と答弁した。


そして、報道によれば、内閣総理大臣前秘書官は、同月3日、記者団から総理大臣の前述の発言について質問され「(同性婚制度の導入について)社会が変わる。社会に与える影響が大きい」「秘書官室もみんな反対する」「隣に住んでいるのもちょっと嫌だ」「同性婚を認めたら国を捨てる人が出てくる」などと発言したとのことである。


前秘書官の当該発言は、多様な性的指向や性自認を認めず、性的少数者の尊厳を否定し社会から排除するに等しい差別発言であり、憲法13条及び14条並びに市民的及び政治的権利に関する国際規約(自由権規約)2条1項、17条及び26条により保障される性的少数者の権利を侵害するものであり、断じて許されない。行政府の長である内閣総理大臣の秘書官という立場からこのような差別発言が出る日本の現状は、極めて深刻である。


また、そもそも総理大臣による前述の答弁自体「性自認、性表現あるいは性的指向に関係なく、誰もが同じ機会を得て、差別や暴力から保護されることを確保することへの我々の完全なコミットメントを再確認する」とした2022年6月28日のG7エルマウ・サミット首脳コミュニケにも反し、性的少数者の権利についての政府の姿勢が厳しく問われていると言わざるを得ず、極めて遺憾である。


当連合会は、2019年7月18日付け「arrow_blue_1.gif同性の当事者による婚姻に関する意見書」を取りまとめ、法務大臣、内閣総理大臣、衆議院議長及び参議院議長に提出した。


憲法24条1項は「婚姻は、両性の合意のみに基いて成立」するとしているが、これは婚姻が当事者の自由かつ平等な意思決定に委ねられるべきものを明らかにする趣旨であって、憲法制定時の想定や議論等に照らしても同性婚法制化を禁止するものではない。同性間の婚姻が認められていない現状は、性的指向が同性に向く人々の婚姻の自由を侵害し、法の下の平等に違反するものであり、憲法13条、14条に照らし重大な人権侵害と言うべきである。国は、当事者の性別に関わりなく同一の婚姻制度を利用しうるようにすべく速やかな同性婚の法制化を行うべきである。


当連合会は、前秘書官による性的少数者に対する差別発言に強く抗議するとともに、国に対し、速やかに、LGBT等の性的少数者に対する理解を深め差別を撤廃するための施策を進め、同性婚法制化を実現することを求める。



2023年(令和5年)2月16日

日本弁護士連合会
会長 小林 元治