特例貸付の償還免除範囲の抜本的拡大と支援体制の整備を求める会長声明


2020年3月から社会福祉協議会(以下「社協」という。)を窓口として行われている、生活福祉資金の「緊急小口資金」と「総合支援資金」の特例貸付については、新型コロナウイルス感染症の影響で生活費不足に陥った市民からの申込みが殺到し、実に、累計貸付件数は334万件、累計貸付決定額は1兆4242億円をそれぞれ超えている(2022年9月24日時点の速報値)。


貸付上限額は、緊急小口資金が20万円、総合支援資金が単身世帯で月15万円、複数世帯で月20万円であり、緊急小口資金、総合支援資金の初回貸付(3か月)、延長貸付(3か月)及び再貸付(3か月)の全てを利用した世帯の借入総額は、単身世帯で155万円、複数世帯で200万円に達する。2023年1月からは、これらの借入れの償還(償還期間最大12年)が順次開始される予定であるが、もともと生活に困窮した世帯にとっては、上記のように多額の債務の長期にわたる返済自体が生計破綻の引き金となる危険が高い。


一方、制度開始時、国は、「償還時において、なお所得の減少が続く住民税非課税世帯の償還を免除することができる」ことを強調し、全国の相談現場では、柔軟な一括償還免除がされることを期待した借入申込みが殺到し、積極的な貸付けが行われてきた。ところが、現在国が公表している償還免除の要件は、①緊急小口資金と総合支援資金の初回貸付、②総合支援資金の延長貸付、③総合支援資金の再貸付ごとに判定年度をもうけ、当該年度又はその前年度において、原則として借受人と世帯主が共に住民税非課税であることとされており、細切れに償還免除していく内容となっている。


しかしながら、このように限定的な要件では、おびただしい数に及ぶ特例貸付利用世帯の多くは、長期にわたる償還を強いられることとなり、当該世帯の生活再建が阻害されることになる上、社協の窓口事務にも混乱と負担が生じることが予想される。当連合会は、2009年9月18日付け「arrow_blue_1.gif生存権保障水準を底上げする『新たなセーフティネット』の制度構築を求める申入書」において、創設当初の総合支援資金について、償還猶予や免除を十分活用するよう求めていたところである。本来、新型コロナウイルス感染症の影響で生活困窮に陥っている世帯の支援を「貸付」で行うという制度設計自体に問題があったことも勘案すれば、国は、例えば以下のような方法で、償還免除の範囲を抜本的に拡大すべきである。


1 償還時期を迎えた借受人のみが、借入開始後いずれかの年度において住民税(所得割)非課税であれば、償還未済額及び償還計画額の残額の全額を一括免除する(償還開始後に同様の状態となった場合も同様に取り扱う)。


2 住民税非課税に該当せずとも、新型コロナウイルス感染症の感染拡大後において、その他の生活困窮者支援制度(児童扶養手当、就学援助、住居確保給付金、求職者支援制度の職業訓練受講給付金、生活困窮者自立支援金、住民税非課税世帯等に対する臨時特別給付金、低所得の子育て世帯に対する子育て世帯生活支援特別給付金など)の利用実績のある世帯についても一括免除の対象とする。


3 生活困窮者自立支援制度における家計改善支援事業を任意事業(国庫補助3分の2)から必須事業(国庫補助4分の3)化し、担当相談員による意見書等を根拠として償還免除とする余地を認め、又は、12か月分以上の償還遅延等を前提とすることなく社協が償還の見込みがないと判断する余地を認めるなどして、更にきめ細やかで柔軟な償還免除を可能とする。


また、償還開始となる世帯の中には、自己破産その他の債務整理手続を必要とする世帯も相当数見込まれるところ、生活困窮者の中には障がいや傷病等によって独力でこうした相談窓口にたどり着けない者も少なくない。厚生労働省が、2022年9月9日付けで社協及び自立相談支援機関における支援体制の整備を求める事務連絡を発出しているところであるが、当連合会は、国に対し、支援体制の整備を単に現場任せにするのではなく、国の責任で、必要な人員確保等体制構築のための費用算定の基準を示し財源措置を講じるとともに、市民に対する広報を徹底することを求める。


当連合会としても、各地の弁護士や弁護士会等が社協及び自立相談支援機関と緊密に連携して相談等にあたることができるよう協力を惜しまない決意である。



2022年(令和4年)10月6日

日本弁護士連合会
会長 小林 元治