福島原発事故損害賠償請求訴訟における最高裁判所の裁判を受け、国及び原子力損害賠償紛争審査会に対し、原子力損害の実態に関する十分な調査、評価及び迅速な結果の公表並びにそれらを踏まえた中間指針等の改定を行い、被害回復に向けた具体的対応に取り組むことを改めて求める会長談話
本年6月17日に、最高裁判所第二小法廷は、福島第一原子力発電所(以下「福島原発」という。)事故損害賠償請求集団訴訟4件について、国の法的責任を認めない判決を言い渡した。
同判決では、国の過失責任を認める反対意見が付されたほか、被害者の救済は、過失の有無に関わらず、国が最大の責任を負うべきとする補足意見が付された。
これに先立つ本年3月2日、7日及び30日に、最高裁は、同訴訟4件を含む福島原発事故損害賠償請求集団訴訟7件について、東京電力ホールディングス株式会社(以下「東京電力」という。)の上告及び上告受理申立てを退ける決定(以下「3月決定」という。)を行い、東京電力の損害賠償責任を認めた各控訴審判決が確定した。
これら各控訴審判決は、東京電力の損害賠償責任について、いずれも原子力損害賠償紛争審査会(以下「原賠審」という。)が定めた「東京電力株式会社福島第一、第二原子力発電所事故による原子力損害の範囲の判定等に関する中間指針」及びその追補(以下「中間指針等」という。)の水準を上回る内容の損害賠償を認めていたものである。
また、本年4月27日に開催された原賠審では、3月決定を受けて、中間指針等の見直しの要否の判断のために、専門委員を新たに選任し、3月決定の調査・分析を行う方針が決定された。
当連合会は、2019年7月19日付け「東京電力ホールディングス株式会社福島第一、第二原子力発電所事故による原子力損害の判定等に関する中間指針等の改定等を求める意見書」、2021年11月15日付け「福島第一、第二原子力発電所事故による原子力損害の実態に関する調査・評価・結果の公表の実施及び中間指針等の改定を改めて求める会長声明」及び3月決定を受けた2022年3月28日付け「福島第一原発事故損害賠償請求集団訴訟についての最高裁決定を受け、改めて国に対し、原子力損害賠償に係る中間指針等の見直しを求める会長談話」において、国及び原賠審に対し、現在の原子力損害の実態に関する専門家調査を改めて実施し、評価及び結果を公表すること及びこれまで原子力損害賠償紛争解決センター(以下「原紛センター」という。)で提示された和解案や集団訴訟の裁判例の分析等を踏まえ、中間指針等の見直しを行うことを繰り返し求めてきた。
この度、原賠審が、3月決定により確定した各控訴審判決の内容の調査・分析を行うこととしたのは、当連合会がこれまで求めてきた対応に一定程度沿うものである。
しかし、原発事故がもたらした被害の広範さや深刻さ、被害の長期化、多様性等に鑑みると、確定した集団訴訟の判決のみをもって被害の実態を十分に調査することはできないと考えられることから、これまで当連合会が求めてきたとおり、原紛センター和解案の分析、自主的避難等対象区域を含めた現地視察及び専門家調査などの方法も含めた原子力損害の実態についての十分な調査及び評価を行うとともに、その結果を迅速に公表し被害者の救済に活用すべきである。
以上のことから、当連合会は、国及び原賠審に対し、3月決定により確定した各控訴審判決の内容の調査・分析にとどまらない広範かつ十分な調査、評価を行い、迅速に結果を公表すること及び調査結果を踏まえ中間指針等の改定を行い、具体的対応に取り組むことを改めて求める。
2022年(令和4年)7月14日
日本弁護士連合会
会長 小林 元治