こども基本法及びこども家庭庁設置法の成立に関する会長声明


本年6月15日、「こども基本法」及び「こども家庭庁設置法」等が第208回通常国会で成立した。


当連合会は、昨年9月17日に「→子どもの権利基本法の制定を求める提言」(以下「提言」という。)において、国連子どもの権利条約の内容を国内で実現すべく「子どもの権利基本法案」(以下「法案」という。)を公表し、本年5月9日には「→こども施策の新たな推進体制等に関する会長声明」において子どもの権利擁護委員会の設置を改めて要請している。


こども基本法において、憲法及び子どもの権利条約の精神にのっとり、子どもの権利擁護が図られることを目的としたこと(第1条)、子どもの権利条約の4つの一般原則に相当する規定が置かれたこと(第3条)、子ども施策への子ども等の意見の反映等が明記されたこと(第11条)及びこども家庭庁設置法により子ども施策を総合的・包括的に行うための省庁が設置されることは、当連合会の上記提言の趣旨にも沿うものであり、我が国の子どもの権利保障を進展させる上で、極めて大きな意義を持つものである。また、国務大臣が、「こどもまんなか社会」とは、常に子どもの最善の利益を第一に考えて、子どもに関する取組、政策が我が国の真ん中に据えられる社会と位置付け、子どもが権利の主体であることを社会全体で認識し、子どもを誰一人取り残さず、健やかな成長を後押しする社会を目指すことを明確にしたこと等、評価できる。


今後は、こども基本法及びこども家庭庁設置法等に基づき、教育、児童福祉、少年司法等、子どもに関わるあらゆる場面において、子どもたちの声が適切に反映され、子どもの権利主体性が実質的に確保されるように、具体的な仕組みが構築される必要がある。また、子どもの権利条約の精神を正しく施策に反映するために、国連子どもの権利委員会が条約実施指針として表明する「一般的意見」及び我が国の条約の実施状況の報告に対する同委員会の「総括所見」を、関係機関が正確に理解し尊重するとともに、国、地方公共団体、子どもに関わる民間団体等が連携しながら、それぞれの子どもの生活実態に即した施策が実施されることが期待される。


他方で、上記提言のうち特に、具体的な子どもの権利(法案第1章)は明記されておらず、子どもコミッショナーともいわれている子どもの権利擁護委員会の設置(法案第5章)も見送られる等、子どもの権利保障にとって重要な課題が残っている。また、子どもの権利実現のための施策を具体的、効果的に実施するためには、十分な予算配分(法案第10条)、子どもの権利に関する教育の学校教育等への導入(法案第11条第2項)、国連子どもの権利委員会からの勧告の尊重等(法案第12条)、あらゆる場面で子どもの意見表明や参加を保障し、基本計画等に子どもの意見を反映する具体的な仕組みの構築(法案第7条及び第14条第2項)、子どもの施策に関する調査及び研究(法案第16条第3項)等、今後実現すべき点が少なくない。


今後も、当連合会は、今回の各法成立を踏まえ、子どもの権利保障のための法制度をさらに充実させるための検討や働きかけを行うとともに、こども基本法の下で、子どもたちと共に、全ての子どもの全ての権利の実現のために、誠実に取組を続ける決意である。



 2022年(令和4年)6月29日

日本弁護士連合会
会長 小林 元治