「改正刑訴法に関する刑事手続の在り方協議会」の立上げに関する会長談話


本年5月31日、法務大臣は、「改正刑訴法に関する刑事手続の在り方協議会」(以下「本協議会」という。)の立上げを発表した。本協議会は、施行3年後の見直しを規定した2016年改正刑事訴訟法(以下「改正刑訴法」という。)附則第9条に基づき設置されるものである。


改正刑訴法は、郵便不正・厚生労働省元局長事件及び検察官による証拠改ざん事件を契機として設置され、複数の一般有識者委員が参加した法制審議会・新時代の刑事司法制度特別部会の取りまとめを受けて成立したものである。国会においても、「度重なるえん罪事件への反省を踏まえて重ねられた議論に基づくもの」(衆参両院法務委員会附帯決議)であることが確認されている。


同附則第9条は、改正後の規定の施行の状況や改正に至らなかった事項についての幅広い検討を求めているが、とりわけ、取調べの録音・録画については、「被疑者の供述の任意性その他の事項についての的確な立証を担保するものであるとともに、取調べの適正な実施に資することを踏まえ」、制度の在り方について検討を加えることとしている。これは、前記特別部会において、将来的な全事件の可視化の方向性に向けた道筋を一定程度明確にし、一定期間経過後に運用状況の検証を行い、それに基づく見直しを行う手続きを具体的に盛り込むことを複数の一般有識者委員が一致して求めたことを受けて、取りまとめが行われたことによるものである。


法務大臣の発表によれば、本協議会は、前記特別部会と異なり、実務家を中心に構成するものとされているが、上記の経緯を踏まえれば、本来、前記特別部会の委員を含む複数の一般有識者を構成員として、運用状況等を検証することが望まれていたはずであり、当該経緯は今後の本協議会の審議や取りまとめに当たっては十分に考慮されるべきである。


当連合会は、本年1月20日付け「→刑事訴訟法附則第9条に基づく3年後見直しに関する意見書」で明らかにしたように、取調べ及びその他の改正法の施行状況に関する情報を収集し、検討を進めてきたが、不適正な取調べは繰り返され、取調べへの過度の依存は改められておらず、「度重なるえん罪事件への反省を踏まえて重ねられた議論」に基づく改正法の理念は実現されていない。当連合会は、引き続き、取調べの録音・録画の対象の全事件・全過程への拡大、取調べに弁護人を立ち会わせる権利の確立、「人質司法」の解消、証拠開示制度の改善や、再審法改正等の実現を目指す所存である。



 2022年(令和4年)6月8日

日本弁護士連合会
会長 小林 元治