現在国会で審議されている7項目のみの憲法改正手続法改正案に反対し、改めてその抜本的な改正を求める会長声明


本年5月11日、日本国憲法の改正手続に関する法律(以下「憲法改正手続法」という。)の改正案が衆議院本会議で可決され、今後、参議院において審議がなされる。本改正案は、駅や商業施設への共通投票所の設置や期日前投票の弾力化など、2016年の公職選挙法の改正に伴い導入された投票環境向上のための7項目の規定を整備するものである。


当連合会は、憲法改正手続法に関し、有料広告規制や最低投票率等の8項目について見直しを求めてきた(2009年11月18日付け「憲法改正手続法の見直しを求める意見書」、2018年5月25日定期総会「憲法9条の改正議論に対し、立憲主義を堅持し、恒久平和主義の尊重を求める立場から課題ないしは問題を提起するとともに、憲法改正手続法の見直しを求める決議」、2018年6月27日付け「憲法改正手続法改正案の国会提出に当たり、憲法改正手続法の抜本的な改正を求める会長声明」)。


そして、2019年1月18日付け「憲法改正手続法における広告放送及び最低投票率に関する意見書」においては、2007年5月の憲法改正手続法成立時の参議院の附帯決議がテレビ・ラジオの有料広告規制及び最低投票率について3年後の施行日までの検討を求めていたことを踏まえ、①テレビ・ラジオを使用した有料広告の放送について、放送事業者の自主的な規律を尊重した上で、「国民投票運動のための有料の広告放送(勧誘CM)に対する国民投票期日前14日間の禁止期間を延長すること」及び「意見表明のための有料の広告放送(意見表明CM)を勧誘CMと同様の期間禁止とすること」に関して法的規制の必要性を検討し、必要性を認めるときには憲法改正手続法を改正すること、②テレビ・ラジオを使用した公費による憲法改正案の広報のための放送について、国民が視聴しやすい時間帯に必要かつ十分な量の放送枠を確保する規定を設けること、③最低投票率の規定を新設し、その割合は、全国民の意思が十分反映されたと評価できるに足りるものとすることなどを求めた。


しかし、現在審議中の憲法改正手続法改正案は、これらの項目について十分な審議がなされないまま成立に向かおうとしている。この点、衆議院において、有料広告規制等については法施行後3年を目途に必要な法制上の措置を講ずる旨の付則が追加されたが、検討の先送りにすぎない上、最低投票率等については触れられておらず、いかにも不十分である。有料広告規制や最低投票率については、2007年の参議院の附帯決議において検討を求められてから既に約14年が経過しており、一刻も早い具体的な検討が必要である。それらの検討がなされないままで改正がなされた場合、不十分な手続法の下で公平性や正当性に疑義を抱えた国民投票が行われてしまうおそれが否定できない。


よって、当連合会は、現在国会で審議されている7項目のみについての憲法改正手続法改正案に反対し、改めてその抜本的な改正を求めるものである。



 2021年(令和3年)5月19日

日本弁護士連合会
会長 荒   中