東海第二原発差止訴訟水戸地裁判決に対する会長声明
水戸地方裁判所は、本年3月18日、日本原子力発電株式会社に対し、東海第二原子力発電所(以下「東海第二原発」という。)の原子炉を運転しないよう命じる判決(以下「本判決」という。)を言い渡した。
福島第一原子力発電所事故後、原子力発電所(以下「原発」という。)の安全確保に問題があるとして民事訴訟ないし仮処分において運転差止めを認めた事例や行政訴訟で設置許可処分を無効とした事例はこれまで6例あるが、避難計画の不備という問題を正面から取り上げて原発の運転差止めを命じた事例は初めてであり、他の原発の安全性を検討する上でも重要な判決といえる。
当連合会は、2013年に開催された第56回人権擁護大会において、原発の再稼働を認めず、できる限り速やかに廃止すること等を内容とする決議を採択した。また、2014年6月20日には、新規制基準には事故時に周辺住民が安全に避難できる避難計画が策定されていることに関する審査基準が欠けていることから、原子力規制委員会は既設の原発についての設置変更許可の適合性審査を停止すべきとする旨の意見書を取りまとめた。
本判決は、新規制基準が避難計画を含まないことそのものが不合理だとはしなかったものの、深層防護の第5の防護レベル、すなわち重大事故時における避難等の被害緩和策が原子炉施設の安全にとって不可欠だとして、それが達成されているか否かを検討した。同検討では、全面緊急事態の際に東海第二原発から概ね30km圏内の住民94万人余が無秩序に避難した場合、住民が短時間で避難するのが困難であることは明らかであるところ、同圏内の自治体において、原子力災害対策指針の定める段階的避難等の防護措置が実現可能な避難計画及びこれを実行し得る体制が整えられているとは言えないことから、深層防護の第5の防護レベルに欠けるところがあると認められ、人格権侵害の具体的危険があると判示した。本判決は、国際原子力機関(IAEA)が第1から第5までの防護レベルによる深層防護の考え方を採用していることに照らしても、国際基準を重視して原発の運転差止めを認めた判決として評価に値する。
当連合会は、原子力規制委員会に対し、本判決を受けて避難計画等を規制基準に盛り込むことを求めるとともに、政府に対して、従来の原子力に依存するエネルギー政策を改め、できる限り速やかに原発を廃止し、再生可能エネルギーを飛躍的に普及させるとともに、これまで原発が立地してきた地域が原発に依存することなく自律的発展ができるよう、必要な支援を行うことを強く求めるものである。
2021年(令和3年)3月26日
日本弁護士連合会
会長 荒 中