恣意的になされた生活保護基準引下げの見直しを求める会長声明


本年2月22日、大阪地方裁判所は、大阪府内の生活保護利用者らが、2013年8月から3回に分けて国が実施した生活保護基準の引下げ(以下「本引下げ」という。)は生存権を保障した憲法25条に反するなどとして、保護費を減額した決定の取消しなどを求めた訴訟において、厚生労働大臣の判断には「最低限度の生活の具体化に係る判断の過程及び手続に過誤、欠落があり、裁量権の範囲の逸脱又はその濫用がある」として、保護費の減額決定を取り消す判決を言い渡した。


同判決は、石油製品、食料品等について11年ぶりに1%を超える特異な物価上昇が起こった2008年を起点にすると、その後の物価の下落率が大きくなることが改定時にはわかっていたにもかかわらず、2008年を下落率比較の起点にした点、厚生労働大臣がデフレ調整の物価下落率として採用した生活扶助相当CPIの下落率(-4.78%)が、テレビ、ビデオレコーダー、パソコンなど被保護世帯での支出割合が相当低い教養娯楽耐久財の物価の大幅下落で増幅され、消費者物価指数の下落率(-2.35%)より著しく大きくなった点で、厚生労働大臣の判断がいずれも統計などの客観的な数値等との合理的関連性や専門的知見との整合性を欠いていると指摘している。


当連合会は、本引下げについて、その根拠とされた社会保障審議会生活保護基準部会の報告書がむしろ慎重な姿勢を示していたことや、これまで取られてきた消費水準の均衡を図る基準改定方式である「水準均衡方式」ではなく物価動向を勘案した方式であること、勘案のために採用された生活扶助相当CPIの合理性に疑問があることなどから、これまで繰り返し反対する会長声明を発出してきた。本判決は、当連合会の見解にも沿うものであり、高く評価できる。


本引下げについては、大阪地裁のほかにも、全国27の地方裁判所と1つの高等裁判所で、合わせて1000名近くが保護変更決定処分の取消等を求めている。また、新型コロナウイルス感染症の影響が長期化し、生活に困窮する方々が増え続けている中、生活保護制度の重要性が再認識され、市民の関心も高まっている。


当連合会は、「生活保護法改正要綱案(改訂版)」(2019年2月14日・生活保障法案)の実現など、生活保護制度の改善と充実に積極的に取り組む決意を改めて表明するとともに、この大阪地裁判決を踏まえ、政府に対し、裁量権の範囲を逸脱・濫用してなされた生活保護基準引下げを見直し、少なくとも2013年8月以前の生活保護基準に早急に戻すことを求める。



 2021年(令和3年)3月4日

日本弁護士連合会
会長 荒   中