法務・検察行政刷新会議報告書の取りまとめを受けての会長声明


本日、法務大臣の私的諮問機関である「法務・検察行政刷新会議」(以下「本会議」という。)の第9回が開催され、報告書が取りまとめられた。


当連合会は、本会議が法務・検察行政の刷新等に向けた重要な契機であると強く認識し、本年10月5日付けで、刑事手続を憲法及び国際人権法に適合するものとするための提言に向けた審議が尽くされることを求める会長声明を公表し、その動向を注視してきた。


本会議では、検察官の倫理、法務行政の透明化、我が国の刑事手続について国際的な理解が得られるようにするための方策等に関し、議論が交わされてきた。本会議に供される資料の全てが法務省のホームページで公表され、当連合会の問題意識を表象した数多くの資料等も顕出された。また、本会議の詳細な議事録も同様に公表され、当連合会が2度にわたって会長声明を公表した検察官の定年延長問題等、種々の論点に関する詳細な問題状況や課題が明らかにされた。


とりわけ、取調べへの弁護人立会いは、憲法が保障する弁護人の援助を受ける権利及び黙秘権から導かれるべきものであり、その確立が刑事手続に関する極めて重要な論点のひとつである。この点、検察庁において弁護人を取調べに立ち会わせないという方針決定はなされておらず、立会いを認めるかどうかは担当検察官が適切に判断すべきものと法務省が理解していること等が改めて確認され、これが第6回議事録16頁に明記された。さらに、報告書においても、「結び-法務・検察に望むこと-」と題する結論部分で、「刑事手続の内容面に関しては、(中略)取り分け被疑者取調べへの弁護人の立会いについての様々な意見が示されたところであり、(中略)平成28年改正刑事訴訟法の3年後検討が予定されていることから、法務大臣において、前記各意見の趣旨も十分に斟酌し、検討のために必要十分な資料を収集・分析した上で、3年後検討の場を含む適切な場において、弁護人立会いの是非も含めた刑事司法制度全体の在り方について、社会の変化に留意しつつ、刑事手続の専門家以外の多様な視点も含めた幅広い観点からの検討がなされるよう適切に対応すること」が明記された。


また、報告書には、併記という形ではあるが、当連合会の問題意識に合致する委員の意見も詳細に記述された。その上で、同結論部分において、「委員等から、法務・検察が国民の意識や期待からかい離することのないよう、具体的方法を自ら検討しつつ、国民の考え方や行動原理をより多く拾い上げることなどを通じ、特に幹部職員が、社会の変化、組織の外の声、多様な価値観に触れる機会を増やすべきであり、本会議での議論を契機として、激変する社会・世界への感度を高め、国民により開かれた省庁となるとともに、その政策決定プロセスにイノベーションを起こしてもらいたいといった期待や意見が示されたところである。」「法務・検察において、これらのことを意識しつつ、不断の自己点検と自己改革を通じて法務・検察行政をより良いものにしていくことを、本会議の委員等の総意として強く期待する。」と述べている。


折しも本年11月20日、国際連合の恣意的拘禁作業部会が、弁護人の立会いのない中で長時間行われた取調べを含む拘禁を「恣意的拘禁」と認定し、かねてから日本政府に求めているカントリービジット(国別訪問手続)による調査に言及した意見書を発表した。我が国の刑事手続について、国際的な理解が得られるようにするためには、刑事手続の実体を憲法及び国際人権法に適合するものとし、憲法上の弁護人依頼権を実質化する必要がある。これは先送りが許される課題ではない。政府は、本会議の議論や報告書の内容を尊重し、弁護人立会いを含む刑事司法制度全般の在り方について、可及的速やかに議論を開始すべきである。その際には、刑事司法制度の改革に積極的な一般有識者の意見を反映させる機会を設けるべきである。また、政府は、国際機関のカントリービジットを早急に受け入れるべきである。


当連合会としても、今後どのように法務・検察の意識改革が行われ、それが捜査・公判の現場に対してどのように影響を与えていくか注視するとともに、刑事手続を憲法及び国際人権法に適合するものとするため、引き続き積極的に取り組んでいく所存である。



 2020年(令和2年)12月24日

日本弁護士連合会
会長 荒   中