法務・検察行政刷新会議において刑事手続を憲法及び国際人権法に適合するものとするための提言に向けた審議が尽くされることを求める会長声明


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2020年(令和2年)7月16日、法務・検察行政刷新会議の第1回会議が開催された。その冒頭において、当時の法務大臣は、同会議は、近年、我が国の刑事司法の在り方が国際的に広く議論の対象になったこと、そして、検察官の勤務延長問題、それに続く検察庁法改正案をめぐり政府、検察庁、法務省に対する国民の信頼、期待が大きく損なわれたことを受けて設置されたものであることを明らかにし、検察の綱紀粛正の問題、法務・検察行政の透明化の問題、そして刑事手続全般の在り方の問題について、意見を求めたいと発言した。


検事長の勤務延長に関する閣議決定及びそれに続く検察庁法改正案については、当連合会も重ねて声明を公表し、反対してきたものであるが、その一連の経過は、検察の綱紀粛正の問題及び法務・検察行政の透明化の問題の一環として、検証されるべきである。また、我が国では、しばしば捜査情報のリークや匿名の「検察幹部」のコメントにより、無罪推定原則や公正な裁判を受ける権利を損なう報道が行われてきたが、このことを踏まえ、検察官の倫理として、無罪推定原則や公正な裁判を受ける権利を損なう言動が禁じられることが、検察庁内において明確に規律されるべきである。


特に刑事手続の在り方については、当連合会は、過去数十年にわたり、その実体が憲法及び国際人権法に適合していないことを指摘し、改善を求め続けてきた。たとえば、無罪を主張する被疑者・被告人を殊更長期間にわたり身体拘束し続ける「人質司法」と呼ばれる勾留・保釈の運用は、罪を犯していない市民に自白を強要し、無罪主張を断念させることに直結する危険が大きく、憲法及び拷問等禁止条約が禁止する「拷問」に該当し得る事態を引き起こしている。また、弁護人の立会いを排除する取調べの運用も、憲法が保障する黙秘権及び弁護人依頼権を侵害するものであり、国際標準からも逸脱している。こうした我が国の刑事手続の後進性については、近年、耳目を集めた事件を通じて国際的な批判が高まったが、以前から、国連自由権規約委員会や拷問禁止委員会から指摘され続けてきたものにほかならない。


我が国の刑事手続について、国際的な理解が得られるようにするためには、刑事手続の実体を、憲法及び国際人権法に適合するものとすることが必要である。我が国の刑事手続の実体が憲法及び国際人権法に適合していないことによる人権侵害は日々発生しているのであり、その適正化は先送りが許される課題ではない。


大阪地方検察庁特別捜査部の検事による証拠改ざんの発覚から、早くも10年を迎えた。当時この事件を契機に設置された「検察の在り方検討会議」においては多岐にわたって検察改革の議論がなされたが、遺憾ながら今なお多くの問題が指摘されている状況にある。同事件を風化させるようなことは決してあってはならない。当連合会は、法務・検察行政刷新会議において、我が国の刑事手続を憲法及び国際人権法に適合するものとするための提言のとりまとめに向け、審議が尽くされることを強く求めるものである。





 2020年(令和2年)10月5日

日本弁護士連合会
会長 荒   中