「特定秘密の指定及びその解除並びに適性評価の実施に関し統一的な運用を図るための基準の見直し」等に関する会長声明



2020年(令和2年)6月16日、政府は「特定秘密の指定及びその解除並びに適性評価の実施に関し統一的な運用を図るための基準」(以下「運用基準」という。)の見直しを公表した。


当連合会は、特定秘密保護法(以下「秘密保護法」という。)そのものの廃止又は抜本的見直しを求める立場であり、その立場を堅持するものであるが、特定秘密の過剰な指定や、適性評価制度による過剰な調査、広範かつ過重な処罰規定の適用等を抑制すべく、現在においても秘密保護法の運用状況について監視を続けてきている。今回の運用基準の見直しについても、後述のとおり問題点が改善されることを求める。


運用基準の見直しでは、①具体的情報について、特定秘密指定がなされる前に特定秘密の枠をあらかじめ指定する手続の厳格化、②特定秘密の指定理由の点検を年1回以上定期的に行うほか、必要に応じて随時行うことで、指定解除を速やかに行うべきこと、③特定秘密を加工することで公益に役立てることができるときには、そのようにすべきこと、④衆議院及び参議院の両議院に設置された情報監視審査会から必要な報告や資料の提供を求められたときは、その充実に資するよう、秘密保護法、国会法及びその他の法令の規定に基づいて適切に対応すべきこと、⑤5年を目途とする見直しの明記などを、新たに明記した。これらは、秘密保護法の運用における濫用をいくらかでも抑制すべき実際的な対応として、一定の意味があるものといえる。


これらの中で、④は特に重要である。なぜなら、情報監視審査会は、行政機関以外で唯一、特定秘密を直接確認して、指定範囲を逸脱した情報の秘密指定を指摘し、指定解除の勧告ができる組織であって、機能的に活動するためには、特定秘密の提出又は提示(衆議院情報監視審査会規程20条、参議院情報監視審査会規程20条)だけでなく、これよりも秘匿性の低い行政秘密やその他の行政情報についても行政機関から提供を受け、これらと合わせて特定秘密の指定の適正について検討判断できるようにする必要があるからである。この点について、衆議院情報監視審査会の最初の年次報告書(平成27年)が指摘している(8~9ページ)にもかかわらず、行政機関から情報監視審査会に対する情報提供の不十分さが改善されず、令和元年の年次報告書に至っても同趣旨の指摘(132ページ)がなされており、いまだにこの問題が解決していないことが分かる。当連合会は、昨年11月21日付け衆議院情報監視審査会平成30年年次報告書に関する意見書でこの点を指摘した。これは特定秘密の指定が不当に広くなされていないか監視するためにも確実に改善されなければならない。


そもそも今回、秘密保護法本体の見直しは行われなかったが、当連合会が上記意見書などで指摘してきたとおり、同法における、特定秘密の定義の曖昧さ、適性評価制度の調査項目ないし調査方法、広範かつ過重な処罰規定などの改正、内部告発者保護規定の不備といった法律自体にある重要な問題点が放置されたままである。


したがって、当連合会は、秘密保護法の廃止又は抜本的見直しを求めるものであるが、政府に対して、少なくとも法律自体にあるこれらの重要な問題点を是正すべく秘密保護法の改正についても検討すべきことを強く求める。





 2020年(令和2年)8月5日

日本弁護士連合会
会長 荒   中