障害者総合支援法改正に対する会長声明
本日、国会で、「障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律及び児童福祉法の一部を改正する法律」(以下「本法律」という。)が成立した。
国は、2010年1月、障害者自立支援法違憲訴訟原告団・弁護団と基本合意を締結し、障がい者の意見を十分に踏まえることなく障害者自立支援法を施行したことに心から反省の意を表明するとともに、同法を廃止し、新たな福祉法制を実施すると確約した。そして、内閣府に設置された障害のある人を中心とする障がい者制度改革推進会議の総合福祉部会は、2011年8月30日付け「障害者総合福祉法の骨格に関する総合福祉部会の提言-新法の制定を目指して-」(以下「骨格提言」という。)を公表し、すべての障がい者が個人として尊重され、障がいのない者と平等に社会参加することを可能とする新法制定を提言した。当連合会はこれまで、骨格提言の内容を高く評価し、当該提言の内容を実現するよう国に求めてきた。
ところが、2012年に成立した「障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律」(以下「総合支援法」という。)は、障害者自立支援法を一部改正するに留まり、その内容も、障がいの種類によって支援外となる制度上の空白が解消されておらず、個々のニーズに即して福祉サービスを利用できる制度となっていないことなど、骨格提言の水準に遠く及ばないものであった。
国は、総合支援法施行後も、骨格提言に記載されている施策を段階的、計画的に実施するとしてきたところであり、本法律は、総合支援法施行3年後見直しとして位置付けられる。しかし、その内容は、病院への入院中も重度訪問介護を利用できるようにするなど、一定の前進はあるものの、以下に述べるとおり、骨格提言の内容に比してなお不十分である。
すなわち、①各人の事情に応じた必要な支援を受けながら地域で自立した生活を営むことが障がい者の基本的権利である、と明示した規定が設けられていない。②支援の対象となる障がいの範囲について、疾病名を指定することによって対象を画する方法が採られており、ニーズがあっても確定診断の有無や疾病名の如何によって支援の対象外に置かれる難病者がいるなどの問題が残っている。③支給決定の在り方について、骨格提言では障がいの区分によって決定するのではなく、個別事情に即した必要十分な支給量が確保される仕組みを導入すべきとされていたにもかかわらず、本法律の下でも障害支援区分に支給量が連動する仕組みが残されており、結果として、自己決定権に基づき個別事情に即した支給量が保障される制度になっていない。④利用者負担を求める基準において、配偶者や世帯の収入に依拠する収入認定の仕組みが維持されており、障がいのある人本人の収入だけを認定する仕組みになっていない。
このように、本法律による改正後の総合支援法は、依然、障害者の権利に関する条約や基本合意文書及び骨格提言の内容に沿ったものとはなっておらず、これまで当連合会が提言してきた内容(2011年10月7日付け「障害者自立支援法を確実に廃止し、障がいのある当事者の意思を最大限尊重し、その権利を保障する総合的な福祉法の制定を求める決議」、2012年6月20日付け「『障害者総合支援法』成立に際して、改めて障がいのある当事者の権利を保障する総合的な福祉法の実現を求める会長声明」及び2014年10月3日付け「障害者権利条約の完全実施を求める宣言」など)とも相容れない。
当連合会は、国に対し、憲法に基づく障がいのある人の基本的人権を真に保障する福祉法制を実施すべく、当事者参画のもと、骨格提言の内容の実現に向けた具体的な行程表を速やかに作成し、公表するよう求める次第である。
2016年(平成28年)5月25日
日本弁護士連合会
会長 中本 和洋