消費者庁等の地方移転に反対する会長声明

政府の「まち・ひと・しごと創生本部」は、本年3月22日、中央省庁と研究機関・研修機関等の地方移転について、政府関係機関移転基本方針(以下「基本方針」という。)を取りまとめこれを公表した。基本方針の概要は、東京一極集中是正の観点から、道府県からの提案を踏まえ、4つの基本的視点に立って検討したもので、中央省庁のうち、消費者庁について、移転に向けた検証を行い、8月末までに結論を得ることを目指すとしている。また、内閣府消費者委員会と国民生活センターについても、消費者庁の検証と並行して検証を行い、移転に向けて8月末までに結論を得ることを目指すとした。

当連合会は、昨年11月に「消費者庁・国民生活センターの地方移転に反対する意見書」を発表し、消費者庁が消費者保護政策を推進する司令塔機能を果たすためには、担当大臣、各省庁及び国会と同一地域に存在することが不可欠であり、これに反するような地方移転に対し、反対の意見を表明してきた。もとより、東京圏への一極集中を是正する方策として政府関係機関の地方移転を促進することについては、地方の活性化に資する点で評価しており、それに対し異を唱えるものではない。

しかし、今回の基本方針では、消費者庁、国民生活センター及び消費者委員会(以下「消費者庁等」という。)について、危機管理業務や消費者行政の司令塔としての機能確保の視点の重要性に言及しつつも、移転について検討することが適当であるとし、移転に向けての検証を行い8月末までに結論を得るとする方針が示された。消費者庁等の地方移転は、以下のとおり、今回示された基本方針の考え方からしても、本来認められないものであり、この段階で移転対象から外すべきである。

今回の基本方針では、観光庁については、政府全体の司令塔としての機能を重視し移転対象から外し、中小企業庁についても、他省庁が所管する業界を横断する業務を理由に移転対象から外している。また、気象庁については、政府として危機管理体制の実施に不可欠であるとして移転対象から外し、特許庁は、人材確保の必要上移転対象から外している。

一方、消費者庁は、基本方針でも示されているとおり、「食品等に関する危機管理業務や大臣庁として国会対応業務のほか、関係府省間における消費者行政の司令塔としての機能を期待されている」。消費者問題は、食品や製品の生産・流通・販売・安全管理、金融、教育、行政規制・刑事規制など多くの領域に関わっており、消費者庁は、政府全体の消費者行政の司令塔として多数の省庁と密接に連携し、消費者保護施策を統括的に推進する役割を担っている。そして、法律の企画立案・法執行の場面においては他省庁の所管する業務との調整が不可欠である。また、緊急時の危機管理の際には関係省庁と迅速かつ密接に連携し、中心となる機関として業務を遂行することが求められている。さらに、消費者庁等の機能は、非常勤職員も含め様々な専門的人材によって支えられており、必要な専門家確保の面からも地方移転による弊害が大きい。

したがって、今回、観光庁等4つの機関が移転の検討対象から外されることとなった理由は、消費者庁等にも当てはまると言え、現時点で消費者庁等についても移転対象から外すべきである。

さらに、基本方針は、施策・事業の執行業務やそれと密接不可分な企画立案業務は、できる限り「現場」に移すという考え方に基づいている。しかし、消費者問題は、事業者も消費者も多数を占める首都圏で多く発生しており、事業者への対応や行政措置は首都圏で多く実施され、そこが「現場」である。執行件数の少ない徳島県に移転することが消費者庁等を「現場」に移すことになるという考え方は、誤りという他はない。

以上のとおり、当連合会は、改めて消費者庁等の地方移転に反対するとともに、速やかに地方移転の対象から外すよう強く求める。

2016年(平成28年)3月25日

        日本弁護士連合会

       会長 村 越   進