除染目標値の安易な緩和に反対する会長声明

井上信治環境副大臣は、本年6月15日、環境省と福島市、郡山市、相馬市、伊達市が、専門家を交えて福島市で開催した除染に関する有識者との意見交換会で、今後の除染の目安などについて1か月以内に国の方針を示す方針を明らかにした。

福島市を始め県内の自治体の多くは、「毎時0・23マイクロシーベルト」を長期的な除染目標としている。これは、長期的な被ばく低減目標である年1ミリシーベルトを空間線量に換算した数値として、国が例示しているものである。
伊達市は、市民約5万2000人を対象に行った調査で、空間線量が毎時0・3~0・5マイクロシーベルトの地域でも、実際の被ばくは概ね年1ミリシーベルト以下だったことを明らかにした。

政府から示される方針は、このような調査に基づき、個人線量計による実測値をもとに、除染の目標値を緩和する内容とされる可能性が高い。

当連合会は、本年1月31日に公表した「避難住民の帰還に当たっての線量基準に関する会長声明」において、「被ばく線量の評価方法について、空間線量による推計ではなく、個人線量計による実測値による評価へと変更することについても、これによって住民の自己管理が可能になるとの側面はあるが、他方で、個人線量計の不適切な使用等による測定誤差は避けられないこと、個人線量計では全ての放射線量を計測することはできないこと等を勘案すれば、むしろ過少評価となるおそれも否定できない。また、屋外活動時間を避けられない等の事情がある個人にとっては、被ばく量が自己責任であるとされるおそれもある。できる限り安全側に立った評価を行うためには、空間線量による推計値を基本とすべきであり、個人線量計の実測値はそれを補完するものと位置付けるべきである。」との意見を述べたところである。

農業などに従事する住民は、屋外活動の時間が長く、その個人線量は屋内で生活できる時間が長い者と比べて、高線量となることは避けられない。内部被ばくなども線量計では測定できない。除染の目標は、住民の平均的な線量値が基準とされるべきではなく、様々な生活様式で生活する地域住民全体の安全な生活が保障されるようなものでなければならない。

安易かつ拙速な除染目標値の緩和は、逆に地域住民の国、地方自治体への不信を強め、地域の復興の妨げともなりかねない。当連合会は、国に対して、予防原則に立ち、除染の目標や避難指示解除の線量基準については、地域住民の参加の下で十分な住民の合意を得た上で決定することを求める。

 2014年(平成26年)7月3日

  日本弁護士連合会
  会長 村越  進