避難住民の帰還に当たっての線量基準に関する会長声明

 

  
原子力規制委員会は、昨年11月20日、「帰還に向けた安全・安心対策に関する基本的考え方(線量水準に応じた防護措置の具体化のために)」と題する報告書を取りまとめ、その後、政府の原子力災害対策本部は、12月20日に「原子力災害からの福島復興の加速に向けて」と題する指針を決定した。原子力規制委員会の報告書は、避難指示区域への住民の帰還に当たっての年間の被ばく線量について、20ミリシーベルト以下を必須条件とし、長期的な目標として、個人の追加被ばく線量が1ミリシーベルト以下になるよう目指すこと、また、被ばく線量については、「空間線量率から推定される被ばく線量」ではなく、個人線量計等を用いて直接実測された個々人の被ばく線量による評価をすることを提案しており、政府の指針もこれを踏まえて作成されている。


しかしながら、低線量被ばくの危険性については、疫学的に有意差があるとの報告もあり、専門家の間でも意見が分かれている。特に子どもたちは放射線感受性が高いことが知られており、予防原則に基づく対策が求められている。いわゆるチェルノブイリ法では、年間5ミリシーベルトを超える地域では避難を義務付けられ、1~5ミリシーベルトでは避難の選択ができるとされている。 


我が国でも、一般公衆の被ばく限度は年間1ミリシーベルトとされており、労災認定基準や放射線管理区域の基準は年間5ミリシーベルトとされてきている。これらに比して、年間20ミリシーベルトという基準は、たとえ必須条件にすぎないとしても、高きにすぎるといわざるを得ない。


国際放射線防護委員会(ICRP)の「長期汚染地域住民の防護に関する委員会勧告」は、汚染地域内に居住する人々の防護の最適化のための参考レベルは1~20ミリシーベルトの範囲の下方部分から選定すべきであり、過去の経験により、その代表的な値は実効線量が年間1ミリシーベルトであることが示されているとした上で、防護措置の策定及び実施には住民が関わるべきであると勧告している。このような勧告に照らしても、年間20ミリシーベルトという基準は、国際的水準を逸脱するもので、到底容認できるものではない。確かに、福島県県民健康管理調査が継続されてはいるが、その結果について様々な評価がされているところであり、住民が適切に自己決定できるように、調査方法・内容をより充実させ、住民に対して正確かつ詳細な情報を提供することが必要といえる。


また、被ばく線量の評価方法について、空間線量による推計ではなく、個人線量計による実測値による評価へと変更することについても、これによって住民の自己管理が可能になるとの側面はあるが、他方で、個人線量計の不適切な使用等による測定誤差は避けられないこと、個人線量計では全ての放射線量を計測することはできないこと等を勘案すれば、むしろ過少評価となるおそれも否定できない。また、屋外活動時間を避けられない等の事情がある個人にとっては、被ばく量が自己責任であるとされるおそれもある。できる限り安全側に立った評価を行うためには、空間線量による推計値を基本とすべきであり、個人線量計の実測値はそれを補完するものと位置付けるべきである。


当連合会は、昨年10月4日に「福島第一原子力発電所事故被害の完全救済及び脱原発を求める決議」を採択し、国に対して、予防原則に基づき、避難指示解除は年間1ミリシーベルト以下であることが確認された地域から行うべきであること、年間5ミリシーベルトを超える地域については、十分な補償・避難先での生活保障を前提に、避難指示を出すこと等を要請した。残念ながら、今回の報告書及び指針は、到底当連合会の要請に応えるものではない。


よって、当連合会は、国に対し、予防原則に立った以下の措置を求める。


(1) 避難指示解除の線量基準については、地域住民の参加の下で十分に時間をかけて住民の合意に基づき決定されるべきで、拙速な決定はなすべきではないこと。


(2) 避難指示解除は、年間1ミリシーベルト以下であることが確認された地域から行うべきであり、年間5ミリシーベルトを超える地域については解除すべきでないこと。


(3) 帰還するか、避難を継続するか、避難先で生活再建するか、いずれの選択をしても、住民が健康で安定した生活を送れるように十分な配慮・支援を行うこと。


(4) 被ばく線量の評価は、安全側に立った空間線量による推計値を基本とし、さらに住民の自己管理に資するように個人線量計による実測値を補完的に用いること。

 


 2014年(平成26年)1月31日

  日本弁護士連合会
  会長 山岸 憲司