「東日本大震災に係る原子力損害賠償紛争についての原子力損害賠償紛争審査会による和解仲介手続の利用に係る時効の中断の特例に関する法律案」の衆議院可決に当たっての会長声明

本年5月21日、「東日本大震災に係る原子力損害賠償紛争についての原子力損害賠償紛争審査会による和解仲介手続の利用に係る時効の中断の特例に関する法律案」が衆議院本会議で可決され、現在、参議院で審議中である。



当連合会は、原子力損害賠償紛争解決センター(以下「センター」という。)設置当初からセンターへの和解仲介申立てに時効中断効を付与することを求めており、本法案によってようやくその一部が実現することになることについては一定の評価をするものである。



一方で、本法案は、センターに和解仲介申立てを行った者が、和解仲介の打ち切りの通知を受けた日から1か月以内に、裁判所に訴えを提起した場合に、和解仲介の申立ての時に訴えを提起したこととみなすというものであり、前提としてセンターに申立てを行った被害者のみが対象となるものである。しかし現状に鑑みれば、センターに和解仲介の申立てを行っている者は、現時点で延べ1万5千人程度であり、福島県の県内外への避難者だけでも約15万人、また避難はしていなくとも福島県内に居住している被害者、自主避難者、更には福島県内外の風評被害等も含めると、その被害者は数十万人単位に上る可能性もあることからすれば、ごく限られた被害者しか本法案では救われないことになる。



このような現状から、当連合会は、4月18日付けで「東京電力福島第一原子力発電所事故による損害賠償請求権の消滅時効について特別の立法措置を求める意見書」を発表し、福島第一原発事故の損害賠償請求権については、民法第724条前段を適用せず、短期消滅時効(3年)によって消滅しないものとする特別の立法措置を早急に講じるべきことを提言している。



本法案に対しては、5月17日の衆議院文部科学委員会において、附帯決議が全会一致で可決されているが、その第1項において、福島第一原発事故の被害の特性に鑑み、その賠償請求権については「全ての被害者が十分な期間にわたり賠償請求権の行使が可能となるよう、短期消滅時効及び消滅時効・除斥期間に関して検討を加え、法的措置の検討を含む必要な措置を講じること」とされている。本附帯決議は、本法案のみでは被害者の救済を図ることができないという認識を、全会一致の決議によって示したものであり、本件消滅時効問題の抜本的解決に向けた第一歩を踏み出したものと考えられる。



しかしながら、本附帯決議が「法的措置の検討を含む必要な措置を講じること」という表現にとどまり、法的措置の実施そのものを求める表現にならなかったこと、また、具体的にいつまでにその措置を講じるかについてまで言及しなかったことについては、強い懸念を覚えざるを得ない。



つまり、早ければ来年3月11日で時効が完成する可能性があることからすれば、遅くとも、それまでの間には、本法案とは別途、全ての被害者が時効の心配をすることなく賠償請求権を行使できるよう、民法第724条前段による短期消滅時効を適用しない旨の「法的措置」を講じる必要があるのであり、同様の要望は、被害自治体である福島県や双葉町からもなされている。さらに、本件事故による原子力損害の賠償の指針等を検討する文部科学省所管の原子力損害賠償紛争審査会の委員からも、本法案のみでの救済では不十分であること、また、公害等の過去の大規模災害と異なり、被害者は生活の基盤自体が奪われ、賠償請求することさえも困難な状況に置かれており、過去に時効について特別な立法がなされていないことは根拠にならないと指摘されているとおり、別途法的措置を行う必要性があることは明白である。



したがって、当連合会は、改めて前記意見書の趣旨のとおり、早急に3年の短期消滅時効の適用を排除する立法措置を講じることを、政府及び国会に強く求めるものである。

 

 

2013年(平成25年)5月24日

日本弁護士連合会
会長 山岸 憲司