生殖医療技術の利用に関する法整備を求める会長声明

本年1月14日、民間団体「OD-NET卵子提供登録支援団体」が、卵子を提供してくれる女性を募集する事業を開始すると発表した。第三者の関わる生殖医療技術の倫理的な是非や生まれてきた子どもの権利保障などの国民的議論がなされず、法的整備もないまま、さらに生殖医療技術利用の事実のみが先行する状況が生じている。


また、近時、AID(非配偶者間人工授精)で出生した当事者が、生殖医療技術に疑問の声を発し始めている。当連合会が、2012年6月29日に開催した「生殖医療技術で生まれた当事者の声を聴く―非配偶者間人工授精で生まれてきた方の気持ち!―」と題するシンポジウムでも、AIDで出生した三人の方が、異口同音に、人生の土台を築いた後に出生の秘密を知り、人生の土台がガラガラと崩れ落ちるような衝撃を受けた、自分の生を肯定できない、仮に子どもの頃に出自を知っていたとしても「人工的に作られた」自分の生を肯定できないと思う、ということを訴えられた(詳しくは、「自由と正義」2012年10月号80頁以下参照。)。さらに、AIDに関する精子提供者の情報が、カルテの保存期間の経過及び医療機関の閉鎖等により、破棄されている例が約3割に上るという報道がある(2012年7月13日読売新聞)。この現状では、仮に将来、子どもの出自を知る権利を保障する法整備がなされたとしても、出自をたどる記録が残されていない状態に陥る例が頻出しかねない。



当連合会は、生殖医療技術の法的規制の在り方について、2000年3月1日「生殖医療技術の利用に対する法的規制に関する提言」を公表し、生殖医療法の制定の必要性を指摘した。2007年1月19日には、「『生殖医療技術の利用に対する法的規制に関する提言』についての補充提言―死後懐胎と代理懐胎(代理母・借り腹)について―」を公表し、改めて法整備の必要性を指摘した。しかし、いまだに立法的解決の目処が立たず、何らの法的規制のないままに、次々と新しい生殖医療技術が生まれ、利用されている現状には、懸念を表明せざるを得ない。



以上の現状から、当連合会は、上記の各提言を踏まえ、国に対して、改めて、生殖医療技術利用についての是非を含めた国民的議論を深め、人間の尊厳を守り、生殖医療技術の乱用を防いで、生まれてくる子どもと利用者の人権を保障するために、公的機関による生殖医療技術の管理などを含めた法的規制を一刻も早く実現すること、及び、現に実施されている第三者の関与する生殖医療に関して、将来、子の出自を知る権利を保障することができるよう、提供者に関する情報や生殖医療技術利用者のカルテ等について保管期間の延長や公的機関における管理を行うなど、情報を保存するための方策を直ちに実施することを強く求める。 

 

2013年(平成25年)3月13日

日本弁護士連合会
会長 山岸 憲司