行政書士法改正に反対する会長声明

日本行政書士会連合会は、行政書士法を改正して、「行政書士が作成することのできる官公署に提出する書類に係る許認可等に関する審査請求、異議申立て、再審査請求等行政庁に対する不服申立てについて代理すること」及び「ADR手続において代理すること」を行政書士の業務範囲とすることを要望し、そのための運動を推進している。日本弁護士連合会は、すでに2011年(平成23年)9月15日付け「行政不服申立制度の改革方針に関する論点整理(第2版)」に対する意見書及び2003年(平成15年)9月20日付けの「総合的なADRの制度基盤の整備について」の意見募集に対する回答書の中で、それぞれについて明確に反対しているものであるが、あらためて行政書士が行政不服申立て等の代理人となることについての問題点を以下のとおり指摘し、かかる運動に対する反対の立場を明確にするものである。



第一に、行政書士の主たる職務は、行政手続の円滑な実施に寄与することを主目的として、行政庁に対する各種許認可関係の書類を作成して提出するというものである。一方、行政不服申立制度は、行政庁の違法又は不当な行政処分を是正し、国民の権利利益を擁護するための制度である。行政手続の円滑な実施に寄与することを主目的とする行政書士が、行政庁の行った処分に対しその是正を求めるということは、その職務の性質上本質的に相容れないものである。なお、行政書士のうち相当数は、行政官庁の職員の経歴を有しており、そのため、行政庁の違法又は不当な行政処分の是正を求めることに躊躇しあるいは回避しがちとなり、国民の権利利益の擁護をはかれなくなることが懸念される。行政庁の行為に対する行政不服申立ての代理行為は、行政庁側に関与していない、弁護士自治で国家機関からの独立を担保された弁護士こそが行うべきである。



第二に、行政書士が行政不服申立ての代理人を務めるには、その能力担保が充分とはいえない。この点につき、行政書士試験に行政不服審査法が必須科目になっていることが代理権付与を正当化する理由の一つとして挙げられている。しかし、行政不服申立ての代理行為は、行政訴訟の提起も十二分に視野に入れて行うべきものであり、その一事をもって能力担保がなされたということは到底できない。法律事務処理の初期段階で適正な判断を誤ると、直ちに国民の権利利益を害することにつながりかねない。初期段階において最終的な訴訟段階での結論まで見据え、迅速かつ的確に初期対応することこそが国民の権利利益に資するのである。行政書士が私人間の紛争案件の初期段階で不当に関与し不適切な処理をしたことによって、依頼者の権利利益が救済されないどころか、かえって被害が拡大したという例が報告されている。行政不服申立ての代理人となるには、より高度な専門性と慎重かつ適切な判断が不可欠である。



第三に、行政書士については、倫理綱領が定められているものの、当事者の利害や利益が鋭く対立する紛争事件を取り扱うことを前提にする弁護士倫理とは異なる内容となっている。行政不服申立ては、国民と行政庁とが鋭く対立するのであって、このような案件を行政書士が代理行為を行うこと自体で国民の権利利益が侵害されることが懸念されるのである。国民の権利利益が行政処分によって侵害された場合、その不服申立手続によってさらに国民の権利利益が侵害されるとの事態は絶対に避けなければならない。当事者対立の場面における職業倫理が確立していない者に国民の権利利益の救済を委ねることは問題である。



第四に、仮に行政書士が行政不服申立ての代理権を獲得したとしても、その活動分野は限定されることが予想され、影響は小さいとの指摘がある。しかし、国民の権利利益自体に対する問題を活動分野の大小で計ること自体が大いに問題である。いったん国民の権利利益の擁護が全うされない事態が招来されることになれば、それは国家百年の計を誤ったということになりかねない。また、弁護士は行政手続業務を担っていないとの指摘もあるが、近年では多くの弁護士が代理人として活躍している。一例を挙げるならば、出入国管理及び難民認定法、生活保護法、精神保健及び精神障害者福祉法に基づく行政手続について、当連合会が実施する法律援助事業を利用し、行政による不当な処分から社会的弱者を救済する実績を上げている。



第五に、日本行政書士会連合会は、行政不服申立ての代理に併せて、ADR手続における代理権の付与をも求めているが、既述の理由に鑑みれば、当事者の利益が激しく対立するADR手続においては、尚のこと代理権を認めることはできない。



以上のとおり、当連合会としては、行政書士に対する行政不服申立代理権の付与及びADR手続における代理権の付与には強く反対するものである。
 

2012年(平成24年)8月10日

日本弁護士連合会
会長 山岸 憲司