有期労働契約に関する労働契約法改正にあたっての会長声明

有期労働契約についての法制度を整備する労働契約法改正法(以下「改正法」という。)が本年8月3日、参議院本会議で可決成立した。



改正法には、①5年を超えて有期労働契約で働く労働者について、労働者が使用者に申し出をすることによって、無期の労働契約に転換する権利(以下「無期転換権」という。)を付与する制度を設ける(18条)、②裁判例で確立していた雇い止めを制限する法理を法文化する(19条)、③有期労働契約であることを理由とする不合理な差別を禁止する(20条)という3つの条文が新たに加わった。来年春から施行される予定である。



当連合会は、今回の改正法案に対して、2012年4月13日に「有期労働契約に関する労働契約法改正案に対する意見書」を公表し、①無期雇用が原則であることを明記し、有期労働契約は合理的な理由がある場合に限定する「入口規制」を導入すること、②無期転換権を付与する期間が5年と長すぎるので最長でも3年に短縮し、③原則6か月の間をおけば、通算契約期間がリセットされる「空白期間」の規定を削除すべきこと、④差別禁止規定については、より実効性のあるものとすること等、より強い規制強化を求めたところである。



今回の改正法は、当連合会の意見からすれば、多くの点で不十分な内容となっている。特に、入口規制が見送られた点については、有期労働契約を少なくし、安定した正規雇用を増やしていく点について、実効性に疑問があるといわざるを得ない。無期転換権が付与されたことに伴い、5年の手前での雇い止め誘発の危険性も指摘されており、法施行前に有効な防止策を講じることも重要である。



一方、不十分ながら、有期労働契約を理由とする不合理な差別を禁止する規定が盛り込まれた。この規定は、裁判の規範となる民事的効力があるため、非正規労働者が差別の是正を求めて法的救済を受けることが可能となった。



有期労働契約であることによる不合理な差別はできるだけ早期に解消されなければならない。当連合会としても、これら規定の活用を通じた非正規労働者の労働条件の向上を目指して取組を強化していくとともに、引き続き、当連合会の意見が反映された労働契約法のさらなる改正の実現を求めていくものである。
 

2012年(平成24年)8月10日

日本弁護士連合会
会長 山岸 憲司