原子力委員会の組織・運営の在り方についての会長声明

原子力委員会は、本年6月21日、昨年9月に再開した新大綱策定会議及び原子力発電・核燃料サイクル技術等検討小委員会(以下「核燃料サイクル小委員会」という。)の会議資料の準備過程において、透明性の確保の重要性に対する認識が足りなかったことを反省し、会議の運営方針を見直す必要があること、エネルギー・環境会議による「革新的エネルギー・環境戦略」において、今後の原子力発電の在り方に関する方向性が示されるまで、新大綱策定会議を中断すると発表した。あわせて、核燃料サイクル小委員会及び新大綱策定会議で検討してきた核燃料サイクル関する選択肢について、使用済み燃料の全量再処理と高速増殖炉もんじゅの継続を含む選択肢を決定し、エネルギー・環境会議に報告する予定とされる。



原子力委員会では、新大綱策定会議及び核燃料サイクル小委員会の審議のために、電力会社、電気事業連合会、原子炉メーカー、核燃料サイクル施設を運営する日本原燃株式会社、高速増殖炉もんじゅを運営する日本原子力研究開発機構などと関係省庁との間で昨年11月17日から本年4月24日まで23回にわたり非公開で会議を持ち、これには近藤駿介委員長ほか原子力委員会委員が出席し、新大綱策定会議及び核燃料サイクル小委員会に提出予定の議案書も配布されていたことが明らかになっている。



さらに、本年6月19日付け毎日新聞によれば、3月8日の非公開会議で、使用済み燃料の再処理継続と直接処分を併用し高速炉実用化を中止するとの案を削除し、その後小委員会に提示された事務局案にはこの案は示されず、今日に至っている。また、4月19日の非公開会議で新大綱策定会議の議案として「地域社会との共生」が検討されたが、取り上げないこととされた。このことが、今般の非公開会議の存在が発覚する端緒となった。



新大綱策定会議は、福島第一原子力発電所の事故後、審議を中断し、昨年9月に27人の委員で再開したが、同非公開会議の参加者など原子力発電推進関係者が多数参加する委員会構成は中断前とほとんど変わらず、関連事業者から多額の寄付を受けた研究者委員も4人に及んでいる。さらに、同事務局政策担当室の職員21人のうち、関係省庁からの出向職員に加え、原子力発電会社、原子炉メーカー、電力中央研究所からの出向非常勤職員が9人を占め、非公開会議の座長役も務めていたことが明らかになっている。こうした原子力委員会への関連事業者等からの出向体制は2000年以来継続しており、2004年の現原子力政策大綱策定時にも、同様の非公開会議が開催されていたことが明らかになっている。



細野原発担当大臣は内閣府副大臣と内閣府職員による検証チームを置き、6月11日から検証作業を開始しているが、これは内部調査の域を出ない。また、原子力委員会は6月19日、電力会社からの出向者4人については6月中に解消し、会議資料の作成・準備に係る情報管理についての暫定版の方針を定めたとされる。



当連合会は、本年3月15日付け「原子力組織制度改革法案に関する意見書」において、福島第一原子力発電所事故という現実を踏まえるならば、原子力利用の推進という根本方針を見直すべきで、原子力委員会の存在意義はなく、廃止すべきことを指摘した。6月20日に新たな原子力安全規制にかかる原子力規制委員会設置法が制定された以上、その存在意義は更に乏しくなったといわざるを得ない。こうした中で明らかになった今回の審議プロセスは関係公務員の服務規律上求められる中立性、公平性、公開性を欠いており、原子力政策策定における自主・民主・公開の原則にもとるといわざるを得ない。



したがって、当連合会は、今後の原子力政策はエネルギー政策の一環であり、他のエネルギー源とのバランスをみるためにもエネルギー政策全体を聖域なしに討議して策定していくべきであると考える。また、原子力委員会の新大綱策定会議及び核燃料サイクル小委員会の審議プロセスについては、第三者による原子力委員会の組織、運営、核燃料サイクルを含む原子力政策の審議経過の検証を行い、最低限以下の点を明らかにすることが不可欠であると考える。



① 現在に至るまでの原子力委員会事務局に電力会社等から出向している者の氏名、原子力委員会における地位、出向元の組織及びそこでの役職を含む実態



② 新大綱策定会議及び核燃料サイクル技術検討小委員会の準備のために開催された「勉強会」の開催に至る経緯、同会の運営の実態



さらに、核燃料サイクル及び高速増殖炉の今後の方針の重要性に照らし、今夏に予定されている革新的エネルギー・環境戦略の議論とは切り離し、政策策定の委員及び事務局職員の選任手続及び経歴の公開等、国民の原子力政策への信頼の基盤を回復するに足る原子力行政体制の抜本的な組織改革を行った上で、再度、新たな構成によって策定を進めることを求める。 

 

2012年(平成24年)6月28日

日本弁護士連合会
会長  山岸 憲司