日弁連新聞 第600号

退任のご挨拶
日本弁護士連合会会長
小林 元治


2年間の在任中、皆さまからご支援・ご協力を賜り、心より感謝申し上げます。私は、社会的に弱い立場の方の力になることを自身の使命として、それを果たすという信念を大切にしながら会長の職務に取り組んできました。任期満了を迎えるに当たって、この観点からいくつかの活動を振り返りたいと思います。


民事法律扶助制度の改革では、2023年3月の臨時総会決議に基づき、立替・償還制から原則給付制への移行などの利用者負担の在り方の見直しや、民事法律扶助報酬水準の改善に取り組んできました。法務省、日本司法支援センター(法テラス)との民事法律扶助制度に関する勉強会において、ひとり親世帯支援拡大の方向性の取りまとめに至ったことは、一つの大きな到達点となったと考えています。


刑事関係では急速に進むデジタル化の中、2023年7月に意見書を取りまとめ、オンライン接見の実現に向けた提言をしてきました。また、2023年12月の臨時総会で、国選弁護・国選付添事件の記録謄写費用など計7項目について援助する新制度等を導入するに至りました。


再審法(刑事訴訟法第四編)の改正に向けた取り組みでは、「再審法改正実現本部」を設置して本部長を務め、2023年6月の定期総会では法改正実現に向けた決議を採択することができました。また、全国の会員の協力をいただき、国会議員への一斉要請や地方自治体の首長、各種団体に対する再審法改正への賛同要請などを行い、国会議員から得られた再審法改正への賛同メッセージも160件を超えました。


ダイバーシティ&インクルージョン(D&I)の推進に向けて、ワーキンググループを設置し、2023年1月に開催したキックオフシンポジウムや調査・研究を踏まえて、本年2月に日弁連としてのD&Iに関する推進宣言を取りまとめました。


いわゆる谷間世代の問題を含む法曹人材確保に関しては、院内意見交換会や市民リレー集会を開催したほか、過半数の国会議員や諸団体からの応援メッセージを獲得しました。この問題に関する社会の認識・理解が広がってきたことを感じています。


最後になりますが、在任期間を通じて支えていただいた副会長、理事、各弁護士会連合会代表の皆さま、事務総長、事務次長、嘱託、職員の皆さんに厚く御礼申し上げます。2年間、本当にありがとうございました。



6月1日の施行迫る!
弁護士情報セキュリティ規程
「基本的な取扱方法」の策定を

2022年6月10日の定期総会で成立した「弁護士情報セキュリティ規程」(以下「本規程」)が本年6月1日に施行される。

本規程は弁護士等(本規程1条)に新たな義務を課す内容を含み、弁護士等は、施行日までに「取扱情報の情報セキュリティを確保するための基本的な取扱方法」(以下「取扱方法」)を定めるなど、一定の体制を整えておく必要がある。


基本的な取扱方法の策定が義務化

本規程で示されている事項の多くは、弁護士等に情報セキュリティに関する取り組みを促す努力義務規定であるが、3条2項は義務規定として取扱方法を定めるよう求めている。


そのため、弁護士等は施行日までに各自の取扱方法を策定しておかなければならない。


執務環境に応じて実効性のあるものを

弁護士等が業務で取り扱う情報や、ソフト・ハード面を含む執務環境はさまざまである。各自の業務態様と執務環境に応じた実効的なものを策定する必要がある。


策定作業を意識向上の機会に

日弁連が示しているサンプルを基に、各自の執務環境に応じた事情を反映していくことで、比較的短時間で一定水準の取扱方法を策定することが可能である。


しかし、取扱方法を策定すれば本規程の目的が達成されるというものではない。策定、さらにはその後のリスク変化に応じた改訂作業を通じて、業務に従事する者全員の意識を向上し、セキュリティ事故を起こさない体制を構築・維持することが大切である。


日弁連では今般、日々の業務において意識すべきポイントを解説した副読本「弁護士のための情報セキュリティ入門」を発行したので、併せて参照されたい。


(弁護士業務における情報セキュリティに関するワーキンググループ  座長 柳楽久司)



身寄りのない高齢者が身元保証等に頼ることなく地域で安心して安全に暮らすことのできる社会の実現を求める意見書を公表

arrow_blue_1.gif身寄りのない高齢者が身元保証等に頼ることなく地域で安心して安全に暮らすことのできる社会の実現を求める意見書


日弁連は、本年1月19日付けで「身寄りのない高齢者が身元保証等に頼ることなく地域で安心して安全に暮らすことのできる社会の実現を求める意見書」を取りまとめ、厚生労働大臣等に提出した。


背景と視点

病院や福祉施設等では、家族の存在を前提にしたサービスが提供され、身元保証人や身元引受人(以下「身元保証人等」)が入院・入所の条件であるかのように求められている。このような現状において、身元保証等高齢者サポート事業が生まれ、事業者が家族に代わり身元保証人等になるようになった。2023年8月に公表された総務省の「身元保証等高齢者サポート事業における消費者保護の推進に関する調査結果報告書」では、事業者の数は全国で400以上に上るとされる中、数多くのずさんな対応が報告され、消費者保護の必要性が指摘されている。


高齢者には地域で安心して安全に暮らす権利があり、国および地方自治体は、高齢者が身寄りの有無に関わらず必要な医療、介護、生活支援を受けることができるような体制を整備しなければならない。身寄りのない高齢者が地域で日常生活を送る上での基本的な支援については、まずは社会福祉制度として公的責任に基づく法整備等が行われる必要がある。これを踏まえて、民間サービスとしての身元保証等高齢者サポート事業の規制について検討することが妥当である。


意見の内容

本意見書では、国と地方自治体に対して、①病院や福祉施設等が身元保証人等を用意することを入院・入所の要件とすることを禁止し、身元保証以外の代替方法を講じられるようにすること、②従来、家族が担ってきたさまざまな役割について、資力の有無にかかわらず、すべての地域において公的な地域福祉としての対応ができるよう、法制度を含めた体制の速やかな整備を行うことを求めている。また、国に対して、身元保証等高齢者サポート事業の位置付けを法律上明確にし、監督省庁による責任ある監督を確保するため、事業者登録制等の導入や、預託金の保全措置等の規律の確保などの速やかな法整備を求めている。

 

(日弁連高齢者・障害者権利支援センター 副センター長 八杖友一)



令和6年度同7年度
日弁連会長選挙開票結果

令和6年度同7年度日本弁護士連合会会長選挙の投票および開票が2月9日に行われました。
2月20日の選挙管理委員会において開票結果を確定し、当選者を決定しました。


(当選者)

渕上 玲子(ふちがみ れいこ)
(東京弁護士会)



2023年懲戒請求事案集計報告

日弁連は、2023年(暦年)中の各弁護士会における懲戒請求事案ならびに日弁連における審査請求事案・異議申出事案および綱紀審査申出事案の概況を集計して取りまとめた。


各弁護士会が2023年に懲戒手続に付した事案の総数は2587件であった。


懲戒処分の件数は114件であり、前年と比べると12件増えているが、会員数比では0.25%(前年は0.22%)で、ここ10年間の値との間に大きな差はない。


懲戒処分を受けた弁護士からの審査請求は48件であり、2023年中に日弁連がした裁決内容は、棄却が26件、処分取消が3件、軽い処分への変更が2件等であった。


弁護士会懲戒委員会の審査に関する懲戒請求者からの異議申出は44件であり、2023年中に日弁連がした決定内容は、棄却が36件、決定取消が2件(懲戒しないを戒告、業務停止としたものが各1件)、重い処分への変更が2件等であった。


弁護士会綱紀委員会の調査に関する懲戒請求者からの異議申出は1057件、綱紀審査申出は385件であった。日弁連綱紀委員会および綱紀審査会が懲戒審査相当と議決し、弁護士会に送付した事案は、それぞれ3件、1件であった。


一事案について複数の議決・決定(例:請求理由中一部懲戒審査相当、一部不相当など)がなされたものについてはそれぞれ該当の項目に計上した。

終了は、弁護士の資格喪失・死亡により終了したもの。日弁連においては、異議申出および綱紀審査申出を取り下げた場合も終了となるためここに含む。


表1:懲戒請求事案処理の内訳(弁護士会)

新受 既済
懲戒処分 懲戒しない 終了 懲戒審査開始件数
戒告 業務停止 退会命令 除名
1年未満 1~2年
2014 2348 55 31 6 3 6 101 2060 37 182
2015 2681 59 27 3 5 3 97 2191 54 186
2016 3480 60 43 4 3 4 114 2872 49 191
2017 2864 68 22 9 4 3 106 2347 42 211
2018 12684 45 35 4 1 3 88 3633 21 172
2019 4299 62 25 0 7 1 95 11009 38 208
2020 2254 61 28 7 8 3 107 4931 22 142
2021 2554 63 27 6 6 2 104 2281 38 176
2022 3076 62 27 5 6 2 102 3145 51 196
2023 2587 72 29 7 5 1 114 2442 54 175


日弁連による懲戒処分・決定の取消し・変更は含まれていない。

新受事案は、各弁護士会宛てになされた懲戒請求事案に弁護士会立件事案を加えた数とし、懲戒しないおよび終了事案数等は綱紀・懲戒両委員会における数とした。

2016年の新受事案が3000件を超えたのは、一人で100件以上の懲戒請求をした事案が5例(5例の合計1511件)あったこと等による。

2018年の新受事案が前年の約4倍となったのは、一人で100件以上の懲戒請求をした事案が4例(4例の合計1777件)あったこと、特定の会員に対する同一内容の懲戒請求が8640件あったこと等による。

2019年の新受事案が3000件を超えたのは、関連する事案につき複数の会員に対する同種内容の懲戒請求が合計1900件あったこと等による。

2022年の新受事案が3000件を超えたのは、一人で100件以上の懲戒請求をした事案が4例(4例の合計1097件)あったこと等による。


表2:審査請求事案の内訳(日弁連懲戒委員会)

新受(原処分の内訳別) 既済 未済
戒告 業務
停止
退会
命令
除名 棄却 原処分
取消
原処分
変更
却下・
終了等
2021 19 10 2 0 31 39 1 4 2 46 21
2022 18 11 1 0 30 22 3 3 0 28 23
2023 27 18 3 0 48 26 3 2 2 33 38


原処分取消の内訳
【2021年〜2023年:戒告→懲戒しない(7)】

原処分変更の内訳
【2021年:業務停止2月→業務停止1月(1)、業務停止6月→業務停止3月(3)】
【2022年:業務停止2月→業務停止1月(1)、業務停止6月→業務停止4月(1)、退会命令→業務停止2年(1)】
【2023年:業務停止8月→業務停止4月(1)、退会命令→業務停止8月(1)】


表3:異議申出事案の内訳(日弁連懲戒委員会)

新受 既済 未済
棄却 取消 変更 却下 終了 速やかに
終了せよ
2021 32 39 1 0 0 0 2 42 22
2022 44 26 2 3 0 5 2 38 28
2023 44 36 2 2 0 0 2 42 30


取消の内訳
【2021〜2023年:懲戒しない→戒告(4)】
【2023年:懲戒しない→業務停止1月(1)】

変更の内訳
【2021〜2023年:戒告→業務停止1月(3)、戒告→業務停止2月(1)、業務停止3月→業務停止4月(1)】


表4:異議申出事案の内訳(日弁連綱紀委員会)

新受 既済 未済
審査相当 棄却 却下 終了 速やかに
終了せよ
2021 819 8 726 18 5 94 851 251
2022 1740 4 1194 427 5 86 1716 275
2023 1057 3 688 175 17  123 1006 326


2022年の新受事案のうち、同一の異議申出人による計836件の異議申出事案を含む。

2023年の新受事案のうち、同一の異議申出人による計273件の異議申出事案を含む。


表5:綱紀審査申出事案処理の内訳(日弁連綱紀審査会)

新受 既済 未済
審査相当 審査不相当 却下 終了
2021 358 2 403 49 2 456 122
2022 586 0 407 6 3 416 292
2023 385 1 542 13  4 560 117



日弁連短信

改革提言を実現するために

3月末で2年間の事務総長職が満了となる。この2年を振り返り、特に日弁連の対外的な会務執行について報告したい。


日弁連は毎年多様な意見書、会長声明、決議等を取りまとめている。日弁連の意見を社会に公表するのは重要なことであるが、関係省庁等に意見書等を提出するだけでは、改革は実現しない。


自身が広報室の嘱託であった1996年当時は、日弁連の発信する意見書等について一部のマスコミから「何でも反対日弁連」と揶揄され、重視されないことも少なくなかった。しかし、司法制度改革を通じて、日弁連は制度改革や立法過程に名実ともに深く関わるようになり、プレゼンスを強めてきた。同時に、対外的に意見を述べるに当たっては、立法事実を集約し、実現可能性や従来の制度との整合性、予算措置などの総合的な検討が求められることを学んだ。


小林執行部が重視したのも、この「提言を行うからには実現する」という姿勢である。1年目は民事法律扶助制度改革を大きなテーマの一つとして掲げ、提言の実現のために法務省等との勉強会、国会議員や財政当局との意見交換等の活動を積極的かつ重層的に行い、その結果、まずはひとり親世帯に対する支援について一定の成果を上げることができた。2年目は再審法(刑事訴訟法第四編)の改正をはじめとする刑事分野の制度改革にも注力し、国選弁護報酬算定の不合理事案の解消、犯罪被害者等支援弁護士制度の創設についても一定のめどが付いた。


立法提言を行うには、立法事実に依拠することが必須である。同時に、担当委員会や副会長、次長、嘱託の力を結集し、理事会等で日弁連の見解をまとめる必要がある。その上で法務省、法テラス、最高裁判所等の法曹関係者との交渉、提言に賛同する国会議員を増やすための働き掛け、関係他省庁との意見交換等、さまざまな角度からのアプローチが必要であり、日頃から議員との接点を増やし信頼を得るとともに、各省庁との良好な関係構築も大切である。特に予算を伴う立法提言では、その改革が社会のためになることを説得的に示して、国民の理解と支持を得ることが不可欠である。


事務総長職を終えるに当たって、積み残しもあるが、次期執行部には課題だけでなく、この2年間で学んだ執行のノウハウについても、可能な限り引き継いでいきたいと思う。


(事務総長 谷 眞人)



第10回 日韓バーリーダーズ会議
1月11日・12日 東京・イイノカンファレンスセンター

日韓バーリーダーズ会議が開催され、日弁連および大韓弁護士協会(大韓弁協)の各執行部ら総勢約70名が参加し、活発な議論が行われた。


本会議は、1987年から行われてきた両国弁護士会間の交流会を前身とし、日韓の弁護士会の代表が一堂に会する形式となって今回で10回目の開催となる。コロナ禍におけるオンライン開催による交流を経て、2018年以来6年ぶりに対面での会議となった。


会議では、日弁連と大韓弁協の会長の挨拶と、事務総長による会務報告の後、主に次のテーマについて発表と意見交換が行われた。


日弁連は「日本における刑事司法制度改革と再審法改正への取り組み」をテーマとして、近時注力する重要課題の一つであるえん罪被害防止に向けた取り組みや、再審法改正に向けた活動の現況を紹介した。大韓弁協から、個別事件に関して日弁連が行っている支援について質問があったほか、否認事件における供述調書の取り扱いに関する両国の差異などについて議論された。


大韓弁協からは「職業倫理とAI、AI関連規制導入の現況」をテーマとする発表が行われた。生成AIがもたらす法曹倫理上の問題や韓国におけるAI関連立法の整備状況、AI利用を踏まえた弁護士会の役割に関する議論状況などが紹介された。韓国においても生成AIは翻訳、契約書レビュー、判例分析といった分野で既に活用され始めており、AIに対する規制の在り方と業務効率化の追求の調整という課題が共有された。このほか、大韓弁協が立ち上げたオンライン上の弁護士紹介システムについても紹介があった。


次回の会議は、2025年に韓国・ソウルにて開催される。


(元国際室嘱託 津田顕一郎)



第25回 犯罪被害者支援全国経験交流集会
1月26日 沖縄県市町村自治会館

arrow_blue_1.gif第25回犯罪被害者支援全国経験交流集会


本集会では、犯罪被害者やその家族が受ける二次被害の実態を探り、二次被害を予防するための方策および弁護士による支援の在り方について議論した。


被害者遺族らの声

交通事故の被害者遺族である松永拓也氏は、事故加害者への提訴に際してSNSなどで多数の誹謗中傷を受けた経験を共有した。加害者への法的責任の追及は、大切な家族を突然失ったことに心の折り合いをつけるための大事な手段・プロセスであり、被害者やその家族が大切な選択を萎縮させられることがないよう願うと語った。犯罪被害者やその家族は犯罪被害による精神的苦痛のほか、収入の減少や治療費の負担などにも直面するとし、経済的支援の必要性についても訴えた。




講演・事例報告

精神科医の佐村瑞恵氏(医療法人社団輔仁会田崎病院)は、何気ない言動が二次被害を生み、誰もがその加害者になり得るとして、自らの言動に思い込みや偏見がないかという視点を持つことが大切だと説いた。一見不可解に感じる行動であっても、それがその人の被害のトラウマに起因するのではないかと立ち止まって考えてみてほしいと呼びかけた。


村上尚子会員(沖縄)は、沖縄県内での米国軍人等による性犯罪事案を紹介した。このような事案は歴史や基地問題などの背景と相まって、大きく報道されて運動や政治問題に発展するため、被害者は必要以上に注目されることに強い不安を抱くとして、被害者支援においては地域の事情への理解も重要であると指摘した。


パネルディスカッション

被害者遺族や佐村氏を交えた議論では、弁護士が事件発生後早期に被害者支援を開始し、マスメディアへの要望や対応などを行うことが二次被害の抑制に有効との意見があった。登壇者らは、二次被害の防止は、被害者のみならず社会全体のためにも必要であるとして、被害者支援の重要性を確認した。





第101回国際人権に関する研究会
武力紛争とビジネスと人権
〜ロシアのウクライナへの侵攻とその後の企業対応を例として〜
1月18日 オンライン開催

arrow_blue_1.gif 武力紛争とビジネスと人権 〜ロシアのウクライナへの侵攻とその後の企業対応を例として〜


世界各地で発生している武力紛争や衝突は企業活動にも大きな影響を及ぼす。紛争地やそれに関連する国・地域で活動する企業は、事業の撤退、在るべき人権への配慮などに直面する。本研究会では、国際人権法の観点から、武力紛争とビジネス・人権上の問題について考察した。


武力紛争と企業の責任

Tara Van Ho教授(英国エセックス大学ビジネス人権センター)は、企業による利益追求活動では紛争リスクが軽視されがちであるが、紛争が起こるという現実を踏まえた有事想定を怠れば、かえって大きな経済的損失を負うと話し、紛争の前兆に細心の注意を払い、備えておかなければならないと論じた。


また、紛争地域では人権デュー・ディリジェンスをより一層強化する必要があり、国際人権法とともに国際人道法にも則した事業方針を定め、ステークホルダーへの影響や紛争当事者との関係等を継続的にモニタリングして人権保障を担保しなければならないと指摘した。企業は、紛争に寄与することはあってはならず、紛争やそこから生じる問題を助長していないか、人権侵害に拍車をかけていないかを常に意識しなければならないと語った。


ウクライナ情勢下での事業活動

Nataliya Popovych氏(B4Ukraine共同創設者)は、企業がロシアで利益を上げ続けることは納税を通じた同国への資金供与となるとの見方を示し、多くの日本企業がこれに該当していると述べた。また、日本がドイツに次ぐ量を生産しているCNC(コンピューター数値制御)工作機械が、ロシアで銃器やミサイル等の製造に転用されていると指摘した。企業には、これらの資源がロシアに渡らないようにすることで戦争を止める力があるとし、法の支配が及ぶ世界を維持するためには、個々の企業の姿勢や対応が極めて重要であると力を込めた。



ドイツ連邦弁護士連合会との共同セミナー
司法のデジタル化とプラットフォーム規制に関する諸問題
欧州のデジタル市場法及びデジタルサービス法を含めて
1月15日 弁護士会館

日弁連と友好協定を締結しているドイツ連邦弁護士連合会(BRAK)は、ドイツ国内にある27の弁護士会と連邦最高裁判所の弁護士会の統括組織である。本セミナーでは、司法のデジタル化とプラットフォーム規制に関して、日独の現状を共有し、議論した。


日独のデジタル化の現状

国際交流委員会の髙畑正子委員(第二東京)は、民事裁判における訴状等のオンライン提出やウェブ参加期日の拡充など、日本における改正民事訴訟法の概要のほか、刑事司法手続のデジタル化に向けた動きを報告し、根強い紙依存やはんこ文化など日本特有の課題があることを説明した。


Julia von Seltmannドイツ弁護士(BRAK事務局長)は、ドイツではすべての弁護士に弁護士専用電子私書箱(beA)の開設が義務付けられ、裁判所や弁護士間の書面等はすべてbeAを通じて電子データでやり取りする制度に変わっていることを紹介し、その運用やセキュリティ保持の体制について報告した。


三好慶委員(東京)は、日本におけるデジタルプラットフォーム(DPF)に関し、DPF取引透明化法、独占禁止法、取引DPF消費者保護法、プロバイダ責任制限法等の各法におけるDPF規制の現状を説明した。


Dr. Christian Lemkeドイツ弁護士(BRAK第一副会長)は、日独の弁護士人口の比較やBRAKの組織構造と役割を紹介したほか、EUにおけるデジタル関連法について概説した。


パネルディスカッション

日独の違いとして、日本における司法のデジタル化は裁判所が中心となって議論や準備が進んでいるのに対し、ドイツでbeAを導入する際にはBRAKが主導的な役割を果たしたことなどが紹介された。


登壇者らは、安全で利便性の高いシステムを構築するために弁護士会が果たすべき役割について活発に意見を交わした。



2023年度 第2回
刑事施設視察委員会弁護士委員全国連絡会議
1月16日 弁護士会館

全国の刑事施設に設置され、施設運営について意見を述べる刑事施設視察委員会(以下「視察委員会」)には、弁護士委員が1名ずつ所属する。全国の弁護士委員が会し、「名古屋刑務所職員による暴行・不適正処遇事案に係る第三者委員会」による2023年6月21日付け提言書(以下「提言」)公表後の状況などを共有した。


提言の影響等

清水谷洋樹会員(熊本県)は、被収容者の処遇に係る事件に関して熊本刑務所に対して映像の開示を求めたところ、同人に講じられた措置の一部始終の映像が提供され、今後も必要な映像は提供するとの回答を受けたと報告した。田中拓会員(香川県)も、被収容者から相談を受けて高松刑務所に記録等の確認を求めると、当該事案の映像や資料が積極的に開示されたことを紹介した。出席者からは、提言を受けて、刑事施設全体で再発防止に取り組もうとする姿勢の表れだと評価する声が上がった。


また、被収容者に措置を講じる場面の映像を視察委員が検証した結果、障がいの見落としが疑われたことから、刑事施設に対して合理的配慮の在り方についての確認・検討を求めた事例が報告されるなど、処遇の状況が明らかにされることで課題の発見・改善につながることを共有した。


運用改善に向けて

被収容者が視察委員会に意見や要望を出しやすくする工夫により寄せられる意見等が増加した、矯正研修所の視察が実現するなど視察委員会への理解が深まってきたという報告があった。一方で、視察委員の人員が不足していること、刑事施設職員らとの意見交換の機会がコロナ禍以降限定的になっていることなどの課題も挙げられ、視察委員会制度のさらなる運用改善に向けて、今後も弁護士委員間での情報共有や連携を行っていくことを確認した。



JFBA PRESS -ジャフバプレス- Vol.189

2023年度 日弁連の広報
必要な情報が的確に「伝わる」ように

日弁連は、会務執行方針の中で「広報の充実」を掲げ、弁護士の仕事の周知や相談・依頼の促進等に向けた市民向け広報活動にも力を入れています。2023年度はコロナ禍における制約の緩和を含め社会が大きく動く中で、市民や会員が必要とする情報を届けるという広報の役割を踏まえ、情報が的確に「伝わる」広報に取り組みました。
本稿では、2023年度に日弁連が実施した広報施策の概要を紹介します。

(広報室)


マスメディアへの対応

日弁連の施策実現に向け、意見書、会長声明等の公表に合わせて記者会見の開催やプレスリリースの配信を行うとともに、新聞社やテレビ局等からの問い合わせに対応しました。小林元治会長らによる坂本堤弁護士一家のメモリアル追悼訪問が多数のメディアに取り上げられたほか、日弁連が支援する再審事件における裁判所の決定などが続き、これらの分野にも大きな反響がありました。


特定の問題を掘り下げて解説するプレスセミナーは3回開催し、再審法の問題点や技能実習制度廃止後の新制度の在り方、刑事手続IT化等、取調べへの弁護人立会いをテーマに取り上げ、記者への問題提起を行いました。


ポスター、ウェブ広告等

武井咲さんを起用したポスターの掲出を、各弁護士会、関係官庁(裁判所、法務省、警察庁等)のほか、全国の自治体や公立図書館、文化会館・センター・ホールなどの公立文化施設で継続しました。併せて、全国のイオンモール等でのモールスケープ広告(ショッピングモールの大型ポスター広告媒体)を約6千面に掲出しました。


また、武井さんを起用したスペシャルサイトをランディングページとするバナー広告を、Yahoo!ディスプレイ広告とGoogleディスプレイネットワークに展開しました。


CM動画の展開

2021年にリニューアルした武井さんを起用したCM動画を、日弁連ウェブサイトのほか、YouTube Trueview、Yahoo!ブランドパネル、TVerなどで展開しました。


また、弁護士とパラリーガルの奮闘を描いたフジテレビ系ドラマ「うちの弁護士は手がかかる」のTVer等の見逃し配信サービスや、宮崎駿監督・スタジオジブリ制作の映画「君たちはどう生きるか」のスクリーン広告にも出稿しました。後者は全国57のイオンシネマで上映されました。


CM動画では、弁護士が問題解決に向けて依頼者と共に歩む姿を描き、身近な相談相手としての弁護士・弁護士会をアピールしています。動画の最後に各弁護士会名を加えたバージョンも用意していますので、各地のイベントでもぜひご活用ください。


弁護士業務広報

中小企業経営者に向けて、事業承継を支援する動画をタクシー車内(サイネージ広告)で放映したほか、「ひまわりほっとダイヤル」のバナー広告をUNIVERSE Adsに出稿しました。高齢者やその家族に向けては、ホームロイヤーの周知・利用促進のため、2023年3月に完成した動画を全国の調剤薬局内のサイネージ広告とYouTube Trueviewで展開するとともに、バナー広告をYahoo!ディスプレイ広告に出稿しました。


仕事体験テーマパーク「カンドゥー」への協賛等

千葉県のイオンモール幕張新都心内にある仕事体験テーマパーク「カンドゥー」に協賛し、子どもたちが弁護士の仕事を体験できるアクティビティを提供しています。2023年12月にアクティビティを全面的にリニューアルし、子どもたちに刑事弁護活動(証拠収集や法廷での訴訟活動など)をよりリアルに体験してもらえるようなプログラムにしました。2023年3月の幕張豊砂駅の開業や、コロナに関する制約緩和もあり、学校等の団体利用を含むパークへの来場者数はコロナ禍前を上回り、弁護士アクティビティの体験者数も増加傾向にあります。弁護士に関するクイズを提供する「出張カンドゥー」も全国のイオンモール等で継続しています。


子どもたちはもちろん、保護者にも弁護士の社会的役割や仕事内容を理解してもらうことで、弁護士を職業選択の候補にしてもらうことも目指しています。


日弁連ウェブサイト上の子ども向けページのリニューアルも進めており、近日中に公開を予定しています。


「法曹という仕事」の共催

8月16日に、最高裁判所、法務省・最高検察庁と共催し、法曹に関心がある高校生等に法曹の役割や魅力を紹介するイベント「法曹という仕事」を司法調査室が中心となって実施しました。今回は初めてオンラインを併用した開催となり、全国から多数の高校生らが参加し、弁護士・裁判官・検察官と交流しました。


法の日週間記念行事

法の日(10月1日)に合わせた最高裁判所、法務省・最高検察庁との共催企画「法の日週間記念行事」として、地方裁判所・家庭裁判所・地方検察庁・弁護士会を巡るスタンプラリーを都内で実施しました。コロナ禍前と同規模での開催となり、幅広い年代からの参加を得ました。


また、自宅や学校等で法や弁護士の役割・重要性を考えてもらうため、「法の日スペシャルページ」も公開しました。


相続に関する相談等の促進

改正相続法等の施行に合わせ、法務省との連名で、法改正を啓発し、相続に関する弁護士への相談・依頼を呼びかけるポスターを制作し、全国の法務局、東京メトロの全駅に掲出しました。相続手続に関する弁護士の活用や法改正を概説したランディングページにつながるバナー広告もYahoo!ディスプレイ広告等に出稿しました。


法律相談などの動画配信

法律相談を身近に感じてもらえるよう、これまでに制作した「戦国法律相談アニメ」、「どうぶつ法律相談アニメ」などの動画を活用し、そのショートバージョンも展開するなどして、法律相談センターの広報、周知を継続しています。各委員会が工夫を凝らして作成した広報動画等は「NICHIBENREN TV」(YouTube公式動画チャンネル)で配信していますので、各弁護士会でもご活用ください。


「ジャフバ」の活用

日弁連広報キャラクター「ジャフバ」が4年ぶりに人権擁護大会に登場し、参加者との触れ合いやグッズ配布を通じて弁護士・弁護士会をPRしました。「えがお推進部長」として、全国各地の皆さんに笑顔を届ける機会を増やしています。

ジャフバの新たなグッズ制作も検討しています。




弁護士会との連携強化

全国広報担当者連絡会議をオンラインで開催しました。豊秀一氏(朝日新聞編集委員)を講師に招き、メディアとの付き合い方をテーマに講演を行いました。ブロック協議会では、弁護士会におけるメディアへの情報発信や関係構築に関する取り組みの状況などを共有し、意見交換を行いました。各地からの意見を参考に、今後も弁護士会と連携し、より良い広報活動につなげます。




ブックセンターベストセラー
(2024年1月・手帳は除く)協力:弁護士会館ブックセンター

順位 書名 著者名・編者名 出版社名
1

企業における裁判に負けないための契約条項の実務

阿部・井窪・片山法律事務所/編著 青林書院
2 自分で進める 弁護士のための確定申告と税務〈令和6年用〉  天賀谷 茂、呉 尚哲、熊澤 直、名取勝也、吉川達夫/著者代表 第一法規
3 有斐閣判例六法 Professional 令和6年版 2024 佐伯仁志、大村敦志、道垣内弘人、荒木尚志/編集代表 有斐閣
4 プロバイダ責任制限法と誹謗中傷の法律相談 中澤佑一/著 青林書院
5 破産・再生マニュアル〈上巻〉 岡口基一/著 ぎょうせい
6 加害者側弁護士、損保社員、事故担当者のための交通事故損害賠償入門 松浦裕介、岩本結衣/著 ぎょうせい
模範六法 2024 令和6年版  上原敏夫、判例六法編修委員会/編 三省堂
8 相続調停 松原正明、常岡史子/編著 青竹美佳、浦木厚利、大森啓子、加藤祐司、近藤ルミ子、佐野みゆき、清水 節、鈴木裕一、竹内 亮、長森 亨/著 弘文堂
9 第2版 インターネット削除請求・発信者情報開示請求の実務と書式 神田知宏/著 日本加除出版
弁護士法第23条の2照会の手引〔七訂版〕 第一東京弁護士会業務改革委員会第8部会/編 第一東京弁護士会




海外情報紹介コーナー㉑
Japan Federation of Bar Associations

英国の弁護士会、刑事弁護費用増額に関して国に勝訴

イングランドとウェールズのソリシター(事務弁護士)の団体である英国ローソサエティーは、英国の刑事法律扶助制度の独立審査機関が同制度における報酬額を15%増加すべきとの意見を出したにもかかわらず、政府が増額措置を講じなかったとして、国を提訴した。高等法院は、2024年1月31日、政府の対応を「不合理」とする判決を言い渡した。


高等法院は「刑事法律扶助制度は、許容できないほど多くを、これに携わる人々の善意と寛容の精神に依存している」と判示し、「制度は徐々に破綻し始めている」と指摘した。英国政府は、控訴をしないことを明らかにしている。


(国際室嘱託 尾家康介)