日弁連新聞 第572号

「第2回新型コロナウイルス・ワクチン予防接種に係る人権・差別問題ホットライン」を実施

arrow_blue_1.gif第2回新型コロナウイルス・ワクチン予防接種に係る人権・差別問題ホットライン


第1回ホットラインを実施した本年5月以降、医療従事者や高齢者以外の方に対するワクチン接種が広く実施されている。そこで、改めて人権侵害の実態を把握し、必要な助言を行うため、10月1日・2日の2日間、第2回ホットラインを実施した。相談件数は2日間で93件であった。


相談の概要

相談内容としては、①職場などでのワクチン接種の強制や接種しない場合の不利益的取り扱いに関する相談、②非接種者に対する差別への不安、③ワクチンの安全性や補償に対する不安などが多かった。


具体的な相談内容

1.jpg①の相談としては、「勤務先でワクチン接種を拒んだところ解雇に等しい扱いを受けた」「ワクチンを接種しないことで仕事を外された」などのほか、「ワクチン接種が対面授業の条件となっている」「ワクチンを接種していないことを理由に診察を拒否された」などがあった。


②非接種者に対する差別については、民間でワクチン接種証明が利用されつつあることから、「ワクチンを接種していないと銀行やスーパーなどに行けなくなるのではないか」「旅行や出張などで県をまたいだ移動ができなくなるのではないか」などの不安を訴える相談が多数寄せられた。また、「接種証明に代わってPCR検査などが必要になると経済的な負担が心配」との声もあった。


③ワクチンの安全性については、「ワクチン接種後の死亡事案も報告されているが本当に安全なのか」「ワクチンを接種すべきか分からない」などの相談が寄せられた。ワクチン接種の副反応による健康被害に対する補償については、「接種後の死亡事案で因果関係が認められたものはなく、結局補償されないのではないか」などの不安の声が聞かれた。


ワクチン接種はあくまで任意であり、接種の強制や非接種による不利益を防ぐための取り組みが必要である。


(人権擁護委員会第4部会 部会長 花輪仁士)



第15回 国選弁護シンポジウム
取調べ前に国選弁護人による接見を!
~逮捕段階の公的弁護制度、接見交通権最前線、そして取調べ立会いへの展望~
9月10日 オンライン開催

arrow_blue_1.gif【オンライン開催】第15回国選弁護シンポジウム「取調べ前に国選弁護人による接見を!―逮捕段階の公的弁護制度、接見交通権最前線、そして取調べ立会いへの展望―」


取調べ前の国選弁護人による接見の実現に向け、弁護権拡充の歴史を踏まえて現状を共有し、残された課題を議論した。初のオンライン開催となったが、参加者は延べ1200人を超えた。


(共催:中国地方弁護士会連合会、広島弁護士会)


基調報告

本シンポジウム実行委員会の久保豊年事務局長(広島)が日弁連の取り組みを報告するとともに、弁解録取手続は初回取調べであるとして弁解録取手続前の接見の必要性等を訴えた。


逮捕段階の公的弁護制度に関する検討状況

第2部では、山崎俊之副委員長(釧路)が、逮捕段階の公的弁護制度実現への課題である①資力要件・私選弁護人選任申出前置、②被疑者と裁判官との面接(意思・資力確認)、③弁護士会の対応態勢について、①と②をなくし、③はリレー方式(弁護人交代)を採用するという対案を国選弁護本部で検討していることを紹介した。また、遅くとも24時間以内の接見、初回接見後の継続的弁護につき、地域の実情を踏まえた具体策の検討が課題であると述べた。


接見交通権に関する議論

第3部では、接見交通権確立実行委員会の赤松範夫委員長(兵庫県)が、接見交通権を巡る歴史や論点を整理した上で、判例は秘密交通権の絶対性を認めず捜査権との調整を図る点で問題もあるが、萎縮効果を基準に秘密性保障を広く認めていると分析した。

パネルディスカッションでは、石田倫識教授(愛知学院大学)が、弁解録取手続はその後の捜査方針や公判の基礎を決定づける重要な局面だと指摘し、そこで弁護が受けられないことは憲法34条・刑事訴訟法39条1項の解釈として妥当でないと論じた。堀田尚徳准教授(広島大学大学院)は、弁解録取手続の元と思われる旧刑事訴訟法の規定の趣旨は、被疑者の防御権保障にあったと考えられることから、その観点を取り入れて接見の必要性を検討できると示唆した。


弁護人立会いの実現

第4部では、被疑者取調べへの弁護人立会いの実践事例報告や経験会員らによる対談などが行われた。後藤昭名誉教授(一橋大学・青山学院大学)は、立会い反対論の最大の理由は被疑者供述が得られにくくなり真相解明が害されるという点にあるが、それは自白獲得目的の古い取調べ観であり、諸外国ではそれこそが危険だと認識されていると指摘した。その上で、観念的ではなく経験に基づく議論が重要として、立会いの実例と経験が増えていくことに期待を寄せた。

*本シンポジウムの基調報告書は日弁連ウェブサイトでご覧いただけます。



顔認証システムの利用に法的規制を求める意見を提出

arrow_blue_1.gif行政及び民間等で利用される顔認証システムに対する法的規制に関する意見書


日弁連は9月16日、「行政及び民間等で利用される顔認証システムに対する法的規制に関する意見書」を取りまとめ、警察庁長官等に提出した。


経緯と背景

日弁連は、2012年1月19日付け「監視カメラに対する法的規制に関する意見書」で監視カメラの設置・運用に関して法律による規制を求め、官民を問わず、顔画像から生成されたデータベースとの自動照合による個人識別機能(顔認証システム)の使用禁止等を提言した。2016年9月15日付け「顔認証システムに対する法的規制に関する意見書」では、警察が顔認証システムを実用化したことに対して、重大組織犯罪の捜査等に限定するなどの内容を盛り込んだ法律を制定して、適切な規制を行うべきと提言した。

しかし、その後、民間においてもコンサートチケットの高額転売防止目的や店舗の万引き防止目的で顔認証システムの導入が進み、加えて警察以外の行政機関においても活用され始めている。

一方で、顔認証データによる監視には指紋の千倍という認証精度があり、個人の詳細な行動履歴が特定され得るため、これが適切に利用されなければ著しいプライバシー侵害を招きかねない。


意見の内容

本意見書では、少なくとも警察以外の行政機関や民間等でも、顔認証システムの利用には法律によって要件や基準が事前に明示される必要があると意見を述べている。また、①法律の定めなく実施される警察による顔認証捜査、②医療機関受付での個人番号カードを用いた顔認証システムの利用、③個人番号カードを健康保険証や運転免許証等とひも付けることにより顔認証システムの利用範囲をさらに拡大させることについて、中止するよう求めている。


(情報問題対策委員会 副委員長 武藤糾明)



「子どもの権利基本法の制定を求める提言」を公表

arrow_blue_1.gif子どもの権利基本法の制定を求める提言


日弁連は9月17日、子どもの権利条約を国内で効果的に実施し、子どもの権利の保障を促進するため、「子どもの権利基本法の制定を求める提言」を取りまとめ、制定を求める子どもの権利基本法の内容を法案の形で提案した。


基本法の必要性

日本が子どもの権利条約を批准して27年経つが、児童虐待や子どもの自殺など子どもの権利侵害は今なお深刻である。その背景にあるのは、子どもの意見が十分に尊重されないなど、子どもを一人の尊厳ある権利の主体として尊重することを前提とした対策が講じられていないことである。個別法の解釈に条約の理念を反映させるためにも、子どもを権利の主体とする基本法の制定が不可欠である。


提言・基本法案の内容

基本法案では、条約の四つの一般原則である、差別の禁止、子どもの最善の利益の考慮、生命・生存・発達の保障、子どもの意見の尊重を中心とした子どもの権利の保障とともに、分野横断的に子どもに関する施策を実施する総合調整機関の設置、子どもの権利施策のモニタリングや子どもの権利を救済する機能を持つ子どもの権利擁護委員会の設置を明記した。


基本法制定へ向けて

政府が子ども庁創設を検討しているとの報道もあるが、子どもに関わる施策は子育て支援にとどまらず、子どもを主体として子どもの権利保障の視点から検討されるものでなければならない。国連子どもの権利委員会は、日本に対して、子どもの権利に関する包括的法律の採択、子どもに関する施策を実施する総合調整機関の設置、子どもの権利に関する独立した監視機関の設置を繰り返し勧告しており、今回の提言・基本法案はこれに沿うものである。今後も基本法の制定に向けて取り組んでいきたい。


(子どもの権利委員会人権救済小委員会 委員長 栁 優香)



第69回 市民会議
刑事手続において検討している諸課題および行政分野への弁護士の活動領域拡大について議論
9月22日弁護士会館

2021年度第2回の市民会議では、①刑事手続において検討している諸課題、②行政分野への弁護士の活動領域拡大について報告し、意見交換を行った。


刑事手続において検討している諸課題

神田安積副会長は、保釈中の逃亡防止のための法制度の検討状況について説明した。GPS端末により保釈中の被告人の位置情報を取得・把握する制度の創設は、いわゆる人質司法を解消し、無罪と推定される被告人を原則として保釈するという運用を実現することを前提として、身体拘束より制限的でない代替措置の一種として検討されるべきと述べた。市民会議委員からは、保釈中の行動に関する記録の扱いについて質問が寄せられた。


また、神田副会長は、刑事手続のIT化について、公平な裁判所の迅速な公開裁判を受ける権利の保障に資するものでなければならず、被疑者・被告人の権利保障を強化するものとして検討されるべきとの日弁連の立場を確認し、ビデオリンク方式による接見交通、デジタル証拠開示について説明した。


行政分野への弁護士の活動領域拡大

八木宏樹副会長は、本年7月1日現在188人の法曹有資格者が126の地方公共団体の常勤職員として活動する現状を報告した。鹿児島県南さつま市の常勤職員の平林敬語会員(鹿児島県)は庁内対応や議会対応、政策形成への関与などの業務内容を説明し、法律や条例の適切な執行を弁護士がサポートすることが住民の福祉向上につながると述べた。また、自治体には弁護士の採用をこれまで以上に検討してほしい、職員の司法試験受験を応援してほしいと要望した。


市民会議委員からは、弁護士を採用している都道府県が、自治体内弁護士の活動のフィードバックに取り組むべきとの意見が出た。


民会議委員(2021年9月22日現在)五十音順・敬称略
井田香奈子 (朝日新聞論説委員)
逢見 直人 (日本労働組合総連合会会長代行)
太田 昌克 (共同通信編集委員、早稲田大学客員教授、長崎大学客員教授、博士(政策研究))
北川 正恭 (議長・早稲田大学名誉教授)
吉柳さおり (株式会社プラチナム代表取締役、株式会社ベクトル取締役副社長)
河野 康子 (一般財団法人日本消費者協会理事、NPO法人消費者スマイル基金事務局長)
鈴木 正朝 (新潟大学大学院現代社会文化研究科・法学部教授、一般財団法人情報法制研究所理事長)
田中  良 (杉並区長)
浜野  京 (信州大学理事(特命戦略(大学経営力強化)担当)、元日本貿易振興機構理事)
村木 厚子 (副議長・元厚生労働事務次官)
湯浅  誠 (社会活動家、東京大学先端科学技術研究センター特任教授)



日弁連短信

2年ぶりの人権擁護大会開催

柗田由貴事務次長

本年10月、人権擁護大会が開催された。


本大会は63回目にして初の運用が多数あった。


新型コロナウイルスの感染症対策に関しては、参加申し込み・受付対応・配席などについてギリギリの時期まで調整が続いた。多くの会員に会場へお越しいただきたいが、感染対策に万全を期すため、座席の間隔は十分に確保する必要がある。他にも、会場内の換気の徹底、混雑緩和のための規制退場の実施など、感染しない・させないために細心の注意を払った。


また、オンライン配信の併用に関しては、進行についてカメラワーク等の段取りを決め、配信につき技術面を含め調整を続ける等の準備に追われた。


大会2か月前は新規感染者数が高止まりとなるなど深刻な事態に陥り、万一に備え、開催手段の変更、それでも開催が難しければ開催日時の変更といったさまざまな代替手段を並行して検討し、緊迫した日が続いた。


もっとも、その後、感染状況は収まり始め、大会の前月には会場を下見し、会場設営や配信関係を中心に確認・検討を行った。大会1か月前の理事会では、予定どおり大会を実施することが確認され、残り1か月の詰めの段階に入った。


大会数日前から日弁連の事務局が会場入りして設営作業が始まり、その後、各分科会のリハーサルや執行部による各表敬訪問が実施された。


大会ではまず、三つの分科会によりシンポジウムが行われ、東京の弁護士会館では、岡山にいる事務局へのサポートや取材対応が本格化した。


そして翌日、ハンセン病ドキュメンタリーの上映後、岡山弁護士会公式キャラクター「たすっぴ」が出迎える中、大会の受付が開始された。大会本番は三つの決議と二つの宣言が採択され、次回開催地である旭川弁護士会にバトンを渡し、大きな混乱なく最後まで走り抜けることができた。


人権擁護大会は、基本的人権の擁護を使命とする弁護士の団体として、最重要の行事の一つであり、その行事を無事開催でき、まずは安堵した。


これも、昨年開催できなかった鹿児島県弁護士会の思いを受けご対応くださった岡山弁護士会の皆さま、2年分の研究成果を披露くださった各分科会の皆さま、時宜に適った宣言を練り上げてくださった皆さま、会場またはウェブで参加くださった皆さま、運営に携わってくださった皆さま、そして日弁連の事務局など、大会に関わってくださったすべての皆さまのおかげである。本当にありがとうございました。


(事務次長 柗田由貴)



日台複数籍者の国籍選択に関する人権救済申立事件(勧告)

arrow_blue_1.gif日台複数籍者の国籍選択に関する人権救済申立事件(勧告)


日弁連は9月24日、日台複数籍者に関し、国籍法14条が規定する国籍選択を求めてはならないこと、日本国籍の選択宣言を行わなかったとしても国籍法上の義務違反に当たらないことを周知徹底すべきであることを内閣総理大臣および法務大臣に勧告した。


国籍法14条は複数国籍者に対して、一定の期間内にいずれかの国籍選択を求めている。しかし、日本政府が台湾政府を独立国として承認していないことから、日本国籍と台湾籍の複数籍者は台湾籍を選択する方法がなく、台湾籍の離脱による日本国籍の選択も認められていない。つまり、日台複数籍者に認められているのは日本国籍の選択宣言のみである。


国籍選択制度について、日弁連は2008年11月19日付け「国籍選択制度に関する意見書」において、異なる国籍の両親から生まれた複数国籍者等に対してアイデンティティの自己決定権などの人権侵害を生じさせるおそれがあるとし、国籍法を改正すべきとの意見を述べている。また、2018年10月5日付け「新しい外国人労働者受入れ制度を確立し、外国にルーツを持つ人々と共生する社会を構築することを求める宣言」では、国籍選択制度の廃止や複数国籍の制限緩和の検討を含め、国籍の得喪要件の見直しを求めている。


本勧告は、世界の80%近くが異なる国籍の両親から生まれた子の複数国籍を認めていることも指摘して、これまでの日弁連の意見を確認した上で、国籍選択制度が廃止されるまでの間、日台複数籍者に関する各措置を求めるものである。


日弁連は、引き続き国籍法14条の国籍選択制度の見直しを求めて活動していきたい。


(人権擁護委員会 特別委嘱委員 吉井正明)



第23回犯罪被害者支援全国経験交流集会
9月17日 オンライン開催

arrow_blue_1.gif【オンライン開催】第23回犯罪被害者支援全国経験交流集会 


「犯罪被害者と刑事裁判」をテーマに、被害者保護拡充の歴史を振り返り、刑事裁判に被害者が関与すべき理由を再確認するとともに、現在の刑事裁判における諸問題について考察した。


第1部 基調講演

稗田雅洋教授(早稲田大学法学学術院、元判事、元最高裁判所刑事局課長)は「刑事裁判における犯罪被害者保護・支援の拡充」と題して講演し、犯罪被害者保護2法成立以前から現在までを振り返るとともに、被害者参加制度の概要および運用について解説した。稗田教授は、犯罪被害者は事件の最も重要な当事者であり、被害者参加弁護士や支援団体のバックアップが不可欠であると述べた。


第2部 事例報告

伊東秀彦会員(千葉県)は、殺人被告事件に被害者参加した被害者家族の声を紹介した。家族は裁判で心情を表明できたことは良かったと語る一方、遺体写真のイラスト化や生前写真の証拠採用制限、遺影持ち込みの制約については残念だったと語った。


柳原悠介会員(千葉県)は、住居侵入・強姦被告事件(罪名は当時)に被害者参加した被害者の声を紹介した。被害者は、参加したことで被害に対する感情を自分の中で落とし込むことができたと参加の意義を語った。


第3部 パネルディスカッション

パネリストとして稗田教授、髙橋朋氏(検事)、千葉県弁護士会刑事弁護センターの土屋孝伸委員長、犯罪被害者支援委員会の合間利事務局長(千葉県)が登壇し、遺体写真等の刺激証拠や生前写真の取り扱い、心情意見陳述に期待する役割等について、それぞれの立場から意見を交わし、改めて被害者が刑事裁判に参加する意義を確認した。



第22回弁護士業務改革シンポジウム分科会プレシンポジウム
司法アクセスの拡充における弁護士費用保険の役割
―SDGsとの関わりを踏まえた今後の保険と弁護士の在り方―
9月14日 オンライン開催

arrow_blue_1.gif第22回弁護士業務改革シンポジウム分科会プレシンポジウム「司法アクセスの拡充における弁護士費用保険の役割―SDGsとの関わりを踏まえた今後の保険と弁護士の在り方―」


SDGs16.3は「すべての人々に司法への平等なアクセスを提供する」との目標を掲げている。本プレシンポジウムでは、これまで司法アクセスの拡充に貢献してきた「弁護士費用保険制度」がSDGsとの関わりにおいて果たす社会的役割や今後の在り方について考察した。


基調報告

日弁連リーガル・アクセス・センターの佐瀬正俊委員(東京)は、「弁護士費用保険制度20年の回顧」と題し、制度創設の目的や発足までの研究の道のり、保険会社との協調を基礎とした日本独自の制度の創設、2001年の運用開始以降の取扱件数の推移や対象分野の拡大等について報告した。


山下典孝教授(青山学院大学法学部)は、リーガルクラウドファンディングなど弁護士費用保険以外の訴訟費用調達手段について紹介し、多様な費用調達手段があることは利用者にとって有意義である一方、いずれの手段も高額な弁護士費用を得る手法として利用されることがないよう司法アクセスの拡充という本来の目的に沿った運用が望まれると述べた。弁護士費用保険については、対象分野の拡大とそれに伴う保険契約者の保険料負担の問題等を指摘した。


池内稚利副委員長(第一東京)は、国家において司法が果たす役割の重要性について論じ、弁護士費用保険はSDGs16.3の実現に対して非常に有効なツールであると述べた。他方、弁護士費用保険の営利性と現代的司法が担う社会的機能とのバランスを意識する必要があると指摘した。


パネルディスカッション

パネリストとして山本和彦教授(一橋大学法学研究科)、山下教授、金井圭氏(損害保険ジャパン株式会社)、佐瀬委員、コーディネーターとして武田涼子委員(第一東京)が登壇し、民事訴訟手続における弁護士費用保険の意義とSDGsとの関わりをテーマに議論した。山本教授は、紛争解決において誰も取り残さない社会の実現のため司法への網羅的なアクセスの保障が必要であるとし、弁護士費用保険と法律扶助の機能分担やその他の方法によるアクセス保障の検討も必要だと述べた。金井氏はこれまで大切にしてきた弁護士会と保険会社のパートナーシップをより強固にして、引き続き弁護士費用保険制度を発展させたいと語った。



市民集会
日野町事件~一日も早い再審無罪を~
9月18日 オンライン開催

arrow_blue_1.gif市民集会「日野町事件~一日も早い再審無罪を~」


日野町事件は1984年に滋賀県蒲生郡日野町で発生した強盗殺人事件で、有罪判決が確定した阪原弘氏の遺族が請求した死後再審は、2018年7月に再審開始決定がなされた。しかし、検察官が即時抗告してから3年以上が経過するのに手続は進んでいない。

本集会では、早期に再審無罪を勝ち取るため弁護団、支援者、弁護士会、そして日弁連が一体となって闘い続けていく決意を改めて表明した。ウェブ参加を中心に250人が参加した。


つくられた自白―日野町事件の真相―

元毎日放送記者の里見繁教授(関西大学)が制作したドキュメンタリーを上映し、自白と客観的事実が合致しないことを説明した。また、有罪の一つの根拠とされた実況見分調書が帰路の写真を往路の写真とすり替えて作成されたことが、弁護団の証拠開示請求により入手されたネガから判明したことや、自白と矛盾する遺体の痕跡の存在、アリバイつぶしのために発付された逮捕状を執行していないことなど、捜査の問題点を明らかにした。


つくられた冤罪事件、“日野町事件”を読み解く

指宿信教授(成城大学)が、冤罪発生の原因や構造を説明した。日野町事件の特異性として、一審は阪原氏に有利な証拠開示がなされないまま状況証拠に依存したが、控訴審は客観的事実と矛盾する自白に依存しており、有罪認定の証拠構造が変わっていると指摘し、捜査や判決の問題点を示した。指宿教授は、冤罪防止のため、捜査機関の証拠の保全を含む再審法の改正、取調べ全過程の録音録画、検察官手持ち証拠の全面開示など制度改革が不可欠と訴えた。


再審無罪のバトンをつなごう

阪原弘氏のご家族・弘次氏(左)と美和子氏(右)

阪原弘氏の遺族で再審請求人の阪原弘次氏と美和子氏が本集会開催の謝辞を述べ、今後の意気込みを語った。冤罪事件被害者の櫻井昌司氏(布川事件)、西山美香氏(湖東事件)や、袴田秀子氏(袴田事件の袴田巌氏の姉)らも登壇し、自身らの経験談を語った上で阪原氏の遺族を激励した。


審理の現時点の課題と展望

弁護団長で人権擁護委員会の伊賀興一特別委嘱委員(大阪)は、再審開始決定から3回も裁判長が交代したこと、3人目の裁判長が、三者協議において、これまでの弁護団の活動を踏まえて検察側に釈明を求めた段階で交代し、審理がたなざらしにされている現状を報告するとともに、本集会での激励を力に頑張りたいと力強く語った。



シンポジウム
入管での死亡事件はなぜ繰り返されるのか
~ 施設内の死亡・傷害事件を検証する ~
9月15日 オンライン開催

arrow_blue_1.gifシンポジウム「入管での死亡事件はなぜ繰り返されるのか~施設内の死亡・傷害事件を検証する~」


本年3月に名古屋出入国在留管理局で発生したスリランカ国籍女性の死亡事件は、社会に衝撃を与えた。女性遺族の声を聞き、これまでに入管収容施設内で発生した事件を俯瞰して、入管行政の問題点と改善に必要な方策を検証すべく、シンポジウムを開催した。


スリランカ国籍女性死亡事件

亡くなった女性の遺族代理人を務める駒井知会会員(東京)は、女性の収容から死亡に至るまでの約6か月半の経過を報告し、司法解剖時の女性の体重は収容開始時から21.5kg減少していたと語った。女性はDV被害を訴えて自ら警察に出頭したが、入管職員は配偶者から暴力被害を受けた外国人に係る措置を定めた「DV事案に係る措置要領」の存在や内容を認識せず、保護どころか虐待ともいうべき対応を行っていたことを明らかにした。さらに、いまだ女性の死因は特定されず、遺族への映像開示に弁護士立会いを拒否するなど、入管は遺族をも苦しめていると厳しく批判した。その上で、収容制度が国際法を遵守してさえいれば女性は今も生きていたはずであり、この事件を最後にしなければいけないと言葉に力を込めた。


シンポジウムに参加した女性の遺族は、家族を失った悲しみや女性死亡後の行政の対応への憤りを訴え、支援者と共に最後まで頑張りたいと覚悟を語った。


事例報告

入国管理施設で近年発生した死亡・傷害事件に携わる会員や支援者が、事件の概要を報告した。


大村入国管理センターで餓死したナイジェリア国籍男性を支援した柚之原寛史氏(牧師)は、「在留資格を失っても人権は失っていないことを入管は決して忘れてはならない」と強調した。


改善のための方策

人権擁護委員会の児玉晃一特別委嘱委員(東京)は、入管での事件の原因として収容制度が本来の目的とは異なり治安維持のために運用されている現状を指摘し、収容制度を送還確保という収容目的に応じた必要最小限度の制度とし、適正な司法審査が及ぶように法改正をすべきと説いた。併せて、被収容者の処遇確保のため、視察委員会の独立性や権限を強化し、自由権規約6条・10条に沿う情報公開制度の構築が必要であるとし、今後も取り組みを続けていくと締めくくった。



シンポジウム
これでいいの? 独立社外役員の選び方
~取締役会の実効性あるモニタリングのために
10月4日 オンライン開催

arrow_blue_1.gif【経済団体・企業関係者・弁護士等対象】シンポジウム「これでいいの?独立社外役員の選び方~取締役会の実効性あるモニタリングのために」


取締役会の実効性という観点からは、多様なバックグラウンドを持つ独立社外役員が多様な視点からモニタリング機能を果たすことが重要である。しかし、独立社外役員の選任方法はこれまであまり議論されてこなかった。多様性がモニタリング機能に果たす役割や、独立社外役員選任の現状とあるべき姿を検証すべくシンポジウムを開催した。企業の担当者を含め200人以上が参加した。


(共催:東京三弁護士会ほか6弁護士会)


社外役員はどのように選任されたか―アスクル事案を題材に―

経営方針を巡るCEOと大株主の対立により株主総会で独立社外役員の選任議案が否決され、独立社外役員が不在の状態になったアスクル株式会社で、「(暫定)指名・報酬委員会」の委員長を務めた経験を持つ國葊正会員(第二東京)が基調講演を行った。國葊会員は候補者から「抱負文」の提供を受けるなど透明性の高いプロセスにより多様なバックグラウンドを有する独立社外役員を4人選任したことを説明し、「平時」における社外役員選任のプロセスとしても参考になり得る事例であると述べた。


女性弁護士社外役員候補者名簿の提供事業について

男女共同参画推進本部の飯島奈絵事務局員(大阪)が、現在9弁護士会が提供している女性社外役員候補者名簿の概要を説明した。顧問弁護士など会社とつながりのある弁護士に名簿を見せ、当該会社の社外役員候補者を数名挙げてもらうなどといった名簿の具体的な活用方法も提案した。


会社と独立社外役員それぞれの立場から

パネルディスカッションには、パネリストとして國葊会員、吉岡晃氏(アスクル株式会社代表取締役社長CEO)、増山美佳氏(増山&Company合同会社代表社員社長)、佐藤りえ子会員(第二東京)、コーディネーターとして山神麻子幹事(第一東京)が登壇し、会社と独立社外役員それぞれの立場から、意見交換を行った。


佐藤会員は、弁護士社外役員は事実を正しく把握する訓練を積んできていることが大きな強みであり、この強みを企業価値の向上のために用いることが重要であると指摘した。


独立社外役員に必要なものは何かとの議論の到達点として、パネリストらは、多様性、精神的独立性、覚悟と研鑽というキーワードを確認して議論を締めくくった。



JFBA PRESS -ジャフバプレス- Vol.163

渡邉惠理子最高裁判事を訪ねて

7月16日付けで弁護士から最高裁判事に就任した渡邉惠理子氏を訪ね、現在の執務状況や今後の抱負、会員へのメッセージ等を伺いました。

(広報室嘱託 木南麻浦)


就任して初めて知った最高裁判事の生活

渡邉惠理子最高裁判事

就任が決まってから、たくさんの方に、これから激務で大変だよと伺いました。就任して初めて最高裁判事の生活を知り、確かにそうかもしれないと実感しています。


1年間に最高裁が取り扱う事件数は約1万件。私が所属する第三小法廷に係属する事件がその3分の1として、単純計算で1日当たり十数件を処理することになります。


平日は自宅と裁判所の往復で、9時30分ごろ登庁し17時前後に退庁します。コロナ禍でもあり、昼食は執務室で簡単に済ませてそのまま仕事を続けます。


就任して約2か月半(取材当時)なので、参加した合議の数は限られていますが、合議に臨むに当たり、記録や調査官の報告書を読み、関係法令や判例を検討して、真剣に考え始めると時間はいくらあっても足りません。合議で一つ自分の考えを述べようとすると、その10倍は検討と準備が必要です。


第2ラウンドは帰宅してから

弁護士時代から、会議が一段落した夕方ごろから次のラウンドが始まるという感覚を持っていましたが、現在でも同じです。


帰宅するとまず新聞等の電子版をチェックして1日の動きを振り返ります。簡単に夕食を済ませてから、関係資料等を集中して読み込み、自分なりの結論をまとめます。裁判所では会議や行事などもありますから、自宅でのまとまった時間は貴重です。


でも「今日はもう仕事はしない」と決めた日は、わが家の猫たちに遊んでもらったり、本を読んだり、お酒を飲んだりして、ホッとする時間を過ごしています。


基本は共通する法曹の仕事

別世界に飛び込む気持ちで最高裁判事に就任しましたが、実際に仕事を始めてみると弁護士としてやってきたことと意外なほど変わらないというのが第一印象です。


他の裁判官や調査官と議論しながらチームで検討を進め、結論に至るという点は弁護士のときとよく似ています。また、直接見聞した生の事実か、整理された記録の中にある事実かという違いはありますが、事実の分析、関係法令や判例の検討・あてはめなどは、裁判官と弁護士とで内容に大きな違いはありません。


もちろん、弁護士のときは、まず依頼者のために、助言し、主張を組み立てることに注力してきましたが、裁判官になってみると、裁判所に対する説得力を欠かないように、反対意見も念頭に置いてできるだけ客観的になるよう主張を組み立てていく必要があると思うようになりました。


心掛けていること

弁護士時代に聞いた依頼者や関係者の生の声、案件を通じて得た知識、日常生活上のさまざまな経験が今の自分を作ったと感じています。裁判官でいる間は基本的に当事者の生の声を直接聞く機会はないので、日々の生活、報道や書物などを通じて、生活者として、一市民としてどのように感じるのか、考えるのかというところから離れないようにしたいと考えています。


また、その事案をどう解決するかを主に考えていた弁護士のときとは違って、最高裁の判例が将来他の事案で予期せぬ使い方をされないかということも常に意識して、大局的な物の見方をするよう心掛けたいと思っています。


メッセージ〜「経験値を上げよう」をモットーに〜

弁護士として担当してきた主として独禁法に関わる事件のほか、若手のころには債権回収、知的財産の紛争案件、家事事件、国選の刑事事件など、さまざまな案件を担当しました。


こういった経験から、案件にはそれぞれの顔があり、また、それぞれ必ず乗り越えなければならない課題があると思っています。そして、過去の案件と同じことをただ繰り返しても目の前の案件を適切に解決することができないように思っています。一つ一つの課題から逃げずに一所懸命やるしかないというのが実感です。


また、一見地味で基礎的な仕事が知識や経験の宝庫だということはよくあると思います。例えば、M&Aにおける花形は交渉であり、一見地味な仕事に見える(かつ本当に地味な)デューデリジェンス(当事会社の企業調査)はつまらないとも言われるようですが、私はこの作業が嫌いではなく、この作業を通じてたくさんの知識・経験を得ることができました。実際にも、契約書のドラフトや独禁法案件に必要な知識として大変に役立ちました。


特に若い方には、機会を捉えて積極的にいろいろなところに飛び込んでいってほしいと思います。目を凝らせば、近くにいろいろな機会(宝箱)が待っています。その経験はあとで生きてくる、「まずはやってみよう!」とお伝えしたいです。


渡邉惠理子最高裁判事のプロフィール

1983年 東北大学法学部卒業
1986年 司法修習
1988年 弁護士登録(第一東京)
1994年 ワシントン州立大学ロースクール修了(LL.M.)
1995年 弁護士登録取消
公正取引委員会事務総局勤務
1998年 弁護士登録(第一東京)
2004年 慶應義塾大学法科大学院教授
2007年 内閣府官民競争入札等監理委員会委員
2012年 日本放送協会経営委員会委員・監査委員
2019年 司法試験考査委員(経済法)
2020年 国立大学法人お茶の水女子大学監事
2021年 最高裁判所判事



日弁連委員会めぐり111
多文化共生社会の実現に関するワーキンググループ

2019年施行の新たな外国人労働者受け入れ制度創設に係る改正出入国管理及び難民認定法により、在留外国人は年々増加し、彼らを生活者としてサポートする必要性がさらに高まっています。

日本で生活する外国にルーツを持つ人々(以下「外国人」)への法的支援体制の整備等を担う「多文化共生社会の実現に関するワーキンググループ」(以下「WG」)の齋藤和紀座長(千葉県)、延命政之副座長(神奈川県)、奥国範副座長(東京)にお話を伺いました。

(広報室嘱託 田中和人)


WG設置の経緯

日弁連は長年、外国人の人権問題に取り組んできましたが、近年の社会情勢の変化・転換を踏まえ、外国人が生活する上での社会インフラとしての法的サービス提供体制の構築を推進しています。2019年8月に対応プロジェクトチームを立ち上げ、取り組みを広げるべく本年3月にWGを設置しました。


生活者としての外国人支援

左から延命副座長、齋藤座長、奥副座長

WGは、生活者としての外国人を支援するため、自治体が設置する「多文化共生総合相談ワンストップセンター」(以下「センター」)との連携を中心に活動しています。センターは、在留手続、雇用、医療、福祉等の生活相談を受け付け、情報提供や関係機関への取り次ぎを多言語で行う無料相談窓口で、全国に約200か所設置されています。


ただ、センターでは弁護士による法律相談が必須事業ではないため、各地の弁護士会と共に弁護士相談の実施をセンターに働き掛けています。また、外国人を雇用する事業者、特に中小企業への法的支援拡充の検討も重ねています。

担い手の育成、通訳人や財源の確保が課題ですが、山形県ではセンターを法テラスの指定相談場所にするといった事例も出ています。


多文化共生社会の実現に向けて

日本で暮らす外国人にも、日本人と同様に生活上の法的支援が必要です。多文化共生社会の実現に向け、会員の方々には、弁護士の使命に基づいて、外国人の支援にも積極的に取り組んでいただきたいと思います。



ブックセンターベストセラー (2021年9月・手帳は除く)
協力:弁護士会館ブックセンター


順位 書名 著者名・編集者名 出版社名・発行元
1

携帯実務六法 2021年度版

「携帯実務六法」編集プロジェクトチーム/編 東京都弁護士協同組合
2

弁護士会照会制度〔第6版〕

東京弁護士会調査室/編 商事法務
3

条解消費者三法〔第2版〕

後藤巻則、齋藤雅弘、池本誠司/著 弘文堂

弁護士職務便覧 令和3年度版

東京弁護士会、第一東京弁護士会、第二東京弁護士会/編 日本加除出版

即解330問 婚姻費用・養育費の算定実務

松本哲泓/著 新日本法規出版
6

婚姻費用・養育費等計算事例集(中・上級編)新装補訂版

婚姻費用養育費問題研究会/編 婚姻費用養育費問題研究会
7

弁護士の周辺学〔第2版〕

髙中正彦、市川 充、堀川裕美、西田弥代、関 理秀/編著 ぎょうせい
8

使用貸借の法律と実務

埼玉弁護士会/編 ぎょうせい
9

改訂版 婚姻費用・養育費の算定

松本哲泓/著 新日本法規出版
10 会社法判例百選〔第4版〕 神作裕之、藤田友敬、加藤貴仁/編 有斐閣



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eラーニング人気講座ランキング(連続講座編) 2021年9月~10月

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順位 講座名     
1 労働問題の実務対応(全5回)                                        
2 離婚事件実務(全5回)
3 成年後見実務(全5回)
4 コーポレート・ガバナンス(基礎編)(全3回)
5 コーポレート・ガバナンス(中級編)(全3回)
6 消費者問題~基本法編~(全3回)
7 交通事故の実務(全5回)
8 知的財産(全3回)
9 中小企業の事業承継支援の全体像(入門編)(全2回)
10 破産申立・管財(全5回)

お問い合わせ先:日弁連業務部業務第三課(TEL:03-3580-9927)