日弁連新聞 第559号

第71回 定期総会
「宣言・決議の件」など6議案を可決
9月4日 弁護士会館

559_1.JPG 2020年度予算が議決されたほか、「新型コロナウイルス感染症の拡大に伴う法的課題や人権問題に積極的に取り組む宣言」が採択された。


来年の第72回定期総会は広島県で開催することを決定した。



決算報告承認・予算議決

559_2.JPG2019年度の一般会計決算は、収入59億398万円および前年度からの繰越金47億1183万円に対し、73億1270万円を支出し、次年度への繰越金は33億310万円となったことが報告され、賛成多数で承認された。


2020年度の一般会計予算は、事業活動収入65億9010万円に対し、事業活動支出67億5989万円、予備費1億円などを計上し、2億8779万円の赤字予算となっている。会議費、委員会費、事業費それぞれの支出に関連する質疑や意見などが出されたが、採決の結果、賛成多数で可決された。



「新型コロナウイルス感染症の拡大に伴う法的課題や人権問題に積極的に取り組む宣言」を採択

arrow_blue_1.gif新型コロナウイルス感染症の拡大に伴う法的課題や人権問題に積極的に取り組む宣言


①新型コロナウイルス感染症の拡大により生じた多種多様な法的課題や人権問題について、さまざまな手段を駆使して、課題の解決および人権の擁護に向けて真摯に取り組むとともに、有用な政策提言を積極的に行うこと、ならびに②感染症拡大予防のための、いわゆる「新しい生活様式」への移行を踏まえ、弁護士および法律事務所が弁護士業務を持続し、弁護士会が法律相談センター等の機能を維持できるよう、各種の業務環境の整備に努め、あわせて、裁判所等の関係機関と協議・連携して適正かつ迅速に司法サービスを提供することで、市民の司法アクセスの確保・維持に尽力することを宣言するもの。今なお世界中で猛威を振るう新型コロナウイルス感染症に伴う種々の問題に対して、日弁連としてどのように臨むべきか、さまざまな立場の会員から活発な質疑討論のやりとりがなされ、採決の結果、字句修正の上賛成多数で可決された。



会員より発議された決議の件を否決

最高裁判所に対して修習貸与金の返還請求の停止を求める決議案が発議された。修習貸与金を返還することが困難な会員への配慮の必要性については共通認識としつつも、その手段として最高裁判所に請求停止を求めるのは不適切である、2018年の第69回定期総会で採択された「安心して修習に専念するための環境整備を更に進め、いわゆる谷間世代に対する施策を早期に実現することに力を尽くす決議」に基づき、国による是正措置の実現を目指すべきなどといった意見が出された。採決の結果、賛成2176、反対7945、棄権426の反対多数で否決された。


なお、この結果を受け、同日「改めて、いわゆる谷間世代に対する国による是正措置の実現を目指す会長声明」が公表された。


◇    ◇


*宣言および会長声明は日弁連ウェブサイトでご覧いただけます。



日本司法支援センタースタッフ弁護士全国経験交流会
9月4日 日本司法支援センター本部

全国各地に赴任している日本司法支援センター(以下「法テラス」)のスタッフ弁護士による経験交流会を開催した。


荒会長は開会の挨拶で、スタッフ弁護士の果たす役割についての期待を述べた。


松井大輔会員(法テラス奈良)は、コロナ禍の中でも福祉との連携を維持するため、ウェブ研修を実施して多くの福祉関係者の参加を得た経験を紹介した。対象者の興味を引くチラシ作成などの広報手段、インターネットを利用した効率的な出欠確認手段などの工夫についても紹介し、参加者からは複数の質問があった。


植田高史会員ら(法テラス秩父)からは、法テラスの利用件数が少ない地域の民生委員や役場に対して法テラスの広報活動を行ったところ、人口当たりの相談件数が飛躍的に増えた成功例の報告があった。


島袋博之会員(法テラス釧路)は、地域包括支援センターのスタッフ会議や生活相談支援センターの無料相談会への参加等の活動を報告した。これらの活動が法的問題に関する適時のアドバイスや必要に応じた受任、一定の解決策の提示などに結び付くことにより、弁護士の存在をより身近なものにできるとした。


大野鉄平会員(法テラス高知)は、刑事施設の被収容者が自己の受けた処遇について弁護士法3条1項に規定する職務を遂行する弁護士との間で発受する、いわゆる3号信書の内容がほぼ例外なく閲読されている問題に関する取り組みを報告した。自ら開発した信書カバー(3号信書に該当するため開封を禁ずる旨と連絡先を記載)付きで被収容者宛に発信した信書が閲読されたとして国賠訴訟を提起したが高裁で敗訴したものの、その後一部の刑務所で運用の改善が見られるようになったことを紹介した。


法テラスの板東久美子理事長は、閉会の挨拶で、スタッフ弁護士に期待される役割を各自がしっかり果たしていると感じたと締めくくった。



ひまわり

新型コロナウイルス感染症の影響で病院や高齢者施設の面会が制限されている。病院や高齢者施設内でのクラスターのニュースを聞く限り、やむを得ない措置かとは思う。高齢の母親が病院に入院したが、結局会えずじまいであった▼流行当初に、感染症で亡くなられた芸能人と親族が会えないまま荼毘に付されたというニュースが流れた。最後の別れの場まで新型コロナウイルスが奪ってしまったことになる。お笑い界の大御所の一人でもあったため、このウイルスの恐ろしさを国民に知らしめたケースでもあった▼他方、ウィズコロナの時代、インターネットを利用して葬儀の様子を中継することがあるという。せめてウェブで参列をというアイデアであろうが、それはそれで物悲しい。会議や講演などとは異なり、このようなことまでアフターコロナ時代に続くとなると、人と人との関係が希薄になってしまう気がしてならない▼日弁連の会議でも、画面を通してしか会ったことがない人が多くなっている。何げない挨拶やたわいない会話を直接交わすことでその人となりを知ることができないのは残念でならない。皆に有効なワクチンが投与され、面と向かって話ができるようになる日が待ち遠しい。


(R・F)



死刑制度に関する意見交換会・勉強会
8月17日 弁護士会館

559_3.JPG死刑制度に関する議論を深めるため、昨年に引き続き意見交換会と勉強会を開催した。勉強会では、2016年7月に神奈川県の県立障害者施設(津久井やまゆり園)で入所者19人が刺殺され、職員2人を含む26人が重軽傷を負った事件を取材した神奈川新聞社報道部記者の石川泰大氏と川島秀宜氏が講演した。



意見交換会―市民団体の活動・要望

死刑廃止に向けた活動を行う10の団体が参加し、昨年の意見交換会以降の活動や他団体との連携内容を報告し、意見交換を行った。参加団体からは、死刑廃止に向けた意気込みや、日弁連の活動に対する意見・要望などが寄せられた。


勉強会―津久井やまゆり園事件を通して

石川氏は、やまゆり園事件の特徴として、①県警から被害者の性別と年齢のみが公表され、被害者全員が匿名という異例の対応がなされたこと、②植松聖死刑囚の「障害者は不幸しか作ることができない」との供述に賛同する意見もあり、社会に根付く優生思想や差別が浮き彫りになったことを指摘した。石川氏は、植松死刑囚と37回接見し、50通もの手紙のやりとりをしたが、植松死刑囚は自身が殺害したのは「心失者」であって「人」ではないとの持説を維持し、犯行時から一貫した差別意識を有していると分析した。この事件を通して、社会に根付く差別や偏見について一人一人が考える必要があると述べた。


川島氏は、植松死刑囚の「生きるに値しない命」との主張に関し、優生思想等の思想史について説明し、これまでの死刑判決を例示して死刑制度の優生学について考察した。その上で、この事件に関する本年3月の横浜地裁判決は、結果の重大性や犯情の重さ、被害者側の処罰感情を考慮したものであり、優生学は働いていないと分析する一方で、植松死刑囚の考え方について明確に否定しきれていない点に批判があると指摘した。また、死刑執行は被害者遺族や刑務官などの関係者にも苦難が伴うことがある点にも言及し、苦難を引き受けてでも死刑を肯定すべきか否かが問われている、と問題提起した。



日弁連短信

オンラインとリアル

559_4.png【日弁連の国際活動】

新型コロナウイルス感染症の拡大は多方面に影響を及ぼしているが、国境を越えての実際の往来が困難となった今、日弁連の国際活動にも多大な影響を与えている。

本年4月、フィリピンにおける調査活動のため会員の派遣を予定していたが、いまだに渡比が実現していない。海外留学派遣も、5人の会員を米国と英国に派遣予定であったが、2人しか留学できず、うち1人は現地でオンライン授業を受ける予定である。7月に韓国で行われるはずであった日韓バーリーダーズ会議をはじめ、さまざまな国際会議が軒並みキャンセルとなっている。


このように、対面での活動は困難となったが、オンラインの活用が国際活動の持続性を支えている。


まず、IBA、LAWASIA、UIAといった国際法曹団体の会合は、かなり早期にオンラインに切り替えられた。コロナ禍をテーマに緊急会合が次々と開かれ、各国の法曹が抱える課題が共有された。裁判の遅滞、ADRの活用、被収容者との面会制限、比例原則に反する人権制限などが議論され、多くの気付きを与えてもらった。未曽有の非常事態下、タイムリーな対応が必要とされた初期段階に、法の支配という共通の価値に支えられた法曹同士が、オンラインの恩恵により、国境の垣根を超えて連携・協調できたことは、極めて有益であった。


【法科大学院】


法科大学院においても、コロナ禍で急速にオンラインを活用した授業が取り入れられている。


第98回中教審大学分科会法科大学院等特別委員会で配布された資料によれば、感染症拡大前は、8割以上の法科大学院で同時双方向型の遠隔授業、いわゆるオンライン授業は実施されていなかったが、現在は9割の法科大学院において実施され、ポストコロナ期においても3割以上の法科大学院が実施継続の方針を示している。


オンライン授業の活用は感染症対策だけではなく、多忙な社会人学生が受講しやすくなる等の派生的効果を有しており、法学未修者教育の充実の観点からも有用とされている。


*  *  *


加速したオンライン活用の流れが止まることはないが、対面での会議や授業によってしか得られないものがあることも言をまたない。オンラインとリアルの適切な使い分けが今後の課題となろう。



(事務次長 佐熊真紀子)



弁護士に会ってみよう!
夏休みWEB特別企画
8月19日 オンライン開催

arrow_blue_1.gif弁護士に会ってみよう!夏休みWEB特別企画


将来の進路として弁護士に関心のある高校生や大学生の参加を募り、仕事内容や活躍の場など弁護士の魅力を語る企画を開催した。全3回の企画のうち、今回取材した回には、計21人の高校生・大学生が参加した。


例年、本企画は弁護士会館に高校生や大学生の参加者を集めて行っているが、今年は講師を務める会員6人を含む全員がオンラインで参加した。


前半は、関理秀会員(東京)が、ある弁護士の一日を題材に弁護士の仕事内容や生活などを紹介した。中貴史会員(東京)は、企業内弁護士の業務や仕事ぶりを紹介し、弁護士の活躍の場が多様であることを説明した。その後、他の講師も交えて、依頼者から感謝される喜びや自ら方針決定できる責任と醍醐味、生活スタイルに合わせて働き方を選べることなど弁護士のやりがいと魅力を語った。


後半は、高校生と大学生のセッションに分かれて質疑応答を行った。高校生のセッションでは、企業内弁護士は弁護士資格をどのように活かすのか、弁護士と裁判官・検察官の働き方の違いなどについて質問があった。一方、大学生のセッションでは企業内弁護士のメリット、弁護士資格を活かしたキャリア形成の方法、法科大学院での過ごし方、ワークライフバランスや育児との両立、業務上危険な目に遭うことはないのかなど、弁護士業務の具体的イメージについての質問が多く見られた。


オンラインでの開催には参加者の反応が見えづらいという難しさがあるが、事前に質問を集めておくなどの工夫によりスムーズに質疑が進み、参加者も慣れた様子で積極的に発言していた。また、さまざまな経歴を持つ講師から多彩な経験が語られたため、参加者の弁護士への関心はより深まったようであった。



新事務次長紹介

奥国範事務次長(東京)が退任し、後任には、10月1日付で木原大輔事務次長(東京)が就任した。


木原 大輔(きはら・だいすけ) (東京・57期)

559_5.pngこれまで弁護士法に関わる問題、法律相談センター、研修等の分野を中心に会務に携わってきました。これらの分野も含め、近時、弁護士や弁護士会を取り巻く課題は、一層多様化、複雑化をしていますが、諸課題の解決に向けた執行部の会務執行を補佐するよう努めてまいります。



弁護士任官者の紹介

10月1日付で次の会員が裁判官に任官した。


真田 尚美氏

559_6.png48期(元大阪弁護士会)

司法修習終了後、弁護士法人三宅法律事務所(旧・三宅合同法律事務所)に勤務。

〈初任地 名古屋高裁〉



ブックセンターベストセラー
(2020年8月・手帳は除く)協力:弁護士会館ブックセンター

順位 書名 著者名・編集者名 出版社名・発行元
1

弁護士になった「その先」のこと。

中村直人・山田和彦/著 商事法務
2 携帯実務六法 2020年度版 「携帯実務六法」編集プロジェクトチーム/編 東京都弁護士協同組合
3 令和2年度版 弁護士職務便覧 東京弁護士会・第一東京弁護士会・第二東京弁護士会/編 日本加除出版
4 婚姻費用・養育費等計算事例集(中・上級編)新装補訂版 婚姻費用養育費問題研究会/編 婚姻費用養育費問題研究会
5 新問題研究 要件事実 付ー民法(債権関係)改正に伴う追補ー 司法研究所/編 法曹会
6 養育費、婚姻費用の算定に関する実証的研究 司法研究所/編 法曹会
7

新基本法コンメンタール 労働基準法・労働契約法〔第2版〕

西谷 敏・野田 進・和田 肇・奥田香子/編 日本評論社
8 個別事情にみる離婚給付の増額・減額 主張・立証のポイント 森法律事務所/編 新日本法規出版
書式 債権・その他財産権・動産等執行の実務〔全訂15版〕 園部 厚/著 民事法研究会
10 Q&A 高次脳機能障害の交通事故損害賠償実務 松浦裕介・村田佳宏/編著 ぎょうせい
新型コロナウイルス影響下の人事労務対応Q&A 小鍛治広道/編集代表 中央経済社
婚姻費用・養育費の算定〔改訂版〕 松本哲泓/著 新日本法規出版


日本弁護士連合会 総合研修サイト

eラーニング人気講座ランキング(連続講座編) 2020年6月~8月

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順位 講座名
1 成年後見実務(全5回)
2 労働問題の実務対応(全5回)
離婚事件実務(全5回)
4 コーポレート・ガバナンス(基礎編)(全3回)
5 中小企業の事業承継支援の全体像(入門編)(全2回)
6 消費者問題~基本法編~(全3回)
7 交通事故の実務(全5回)
8 知的財産(全3回)
9 コーポレート・ガバナンス(中級編)(全3回)
10 破産申立・管財(全5回)

お問い合わせ先:日弁連業務部業務第三課(TEL:03-3580-9902)