日弁連新聞 第552号
新年
会長 インタビュー
1年9か月を振り返る
明けましておめでとうございます。本年が皆さまにとって良い年となりますようお祈り申し上げます。
会長就任以来、力を入れて取り組んだ課題は何ですか
多くの課題が山積しており、各委員会にとっては、それぞれが取り組んでいる課題が最重要課題とも言えます。したがって、どれも力を抜くことは許されませんでしたが、あえて挙げるとしたら、①法曹養成制度(法科大学院制度の見直し)、②司法の国際化、③司法のIT化、④FATF第4次対日相互審査への対応、⑤災害対策などです。また、民事司法制度改革の推進を目的として内閣官房に設置された民事司法制度改革推進に関する関係府省庁連絡会議(以下「連絡会議」)・同幹事会への対応にも力を入れました。
法科大学院制度は、早期卒業等による法学部3年と法科大学院2年のいわゆる「3+2」に加え、ギャップタームの解消が図られ、法科大学院在学中の司法試験受験が認められるようになります。司法試験の実施時期等については現在議論されていて、日弁連は、法科大学院協会と連携しながら、この改革に取り組んでいます。
そして司法の国際化、弁護士の海外展開は待ったなしの状況です。連絡会議の主要なテーマの一つでもあり、国際司法人材の養成など、さまざまな取り組みを提案しています。また日本貿易振興機構(ジェトロ)などと連携して中小企業の海外展開支援も行っています。
また裁判のIT化は時代の流れであり、ユーザーである市民・弁護士にとって使い勝手の良い制度設計を構築するよう取り組んでいかなければなりません。
FATF第4次対日相互審査への対応については、98%の会員から年次報告書の提出があり、オンサイト審査は終了しましたが、その後のフォローアップやフィードバックなどはこれからです。審査結果は夏頃に公表される予定です。今後ともご協力をお願いします。
2018年には西日本豪雨や北海道胆振東部地震、2019年には台風第15号・第19号などによる大規模災害が発生しました。被災地弁護士会の献身的な活動には頭の下がる思いであり、日弁連も可能な限り、充実した支援に取り組んでいます。
日弁連の活動の成果が結実した課題は何ですか
何をもって結実したと言うかはともかく、形になったものの一つとして、本年3月東京の虎ノ門に開設される国際仲裁・調停の審問施設が挙げられます。日本の国際紛争解決の拠点となる念願の施設が実現します。
また、外国人労働者の受入れ拡大に伴う外国人の司法アクセスをどう確保するか。労働者に限らず、その家族、特に子どもの権利擁護のためには、非常に重要な課題です。各地の多文化共生総合相談ワンストップセンターと弁護士会が連携して態勢を整備するようお願いしており、各地の実情に応じて少しずつ形になりつつあります。
さらに、独占禁止法の改正により、限定的ではありますが、事業者と弁護士との通信秘密保護制度が導入されたことは、関連委員会や関係者の熱心な取り組みの成果でもあります。
連絡会議では、本年3月末までに取りまとめが行われ、司法の国際化、裁判のIT化、知財訴訟の活性化、在留外国人の司法アクセス確保のための対応策などについて大きな方向性が打ち出される予定です。今後はさらなる改革推進の課題として家事手続の改革が取り上げられるかが重要であり、改革に向けた取り組みを進めています。
会内では、2018年度から始まった女性副会長クオータ制に加えて、2019年12月の臨時総会で女性理事クオータ制の導入が可決されました。
いわゆる谷間世代の支援については、不十分ながら一律20万円の給付が実現しましたが、なお谷間世代を含む若手会員がチャレンジできる環境の整備を実現していきたいと思います。
日弁連会長として思い出深い出来事は何ですか
おかげさまで貴重な経験をたくさんすることができました。国際仲裁・調停に関しては、行政庁を含む関係者各位の協力を得ながら審問施設の開設に向けて奔走しました。
死刑制度の廃止に向けた取り組みに関しては、2018年12月には超党派の議員連盟である「日本の死刑制度の今後を考える議員の会」が結成され、2019年6月には「死刑をなくそう市民会議」が設立されました。在任中には宮崎県、札幌、中国地方弁護士会連合会、大阪の各弁護士会等の総会決議が採択されました。代替刑に関する基本方針についても議論を重ね、理事会でまとめることができたのも思い出深いです。
民事裁判手続のIT化に伴う本人サポートに関しては、会外の関係各所から日弁連の態度の表明を迫られ、理事会や委員会でも意見が分かれる中、私自ら修正案を起案したことで、「会長がそこまで言うなら」と理事会で承認されたことは本当に嬉しかったです。ちなみに、その数日後、日本司法書士会連合会は大掛かりな本人サポート案を打ち出しました。
少年法の適用年齢引下げについては反対運動を行ってきました。18歳・19歳の者についても原則全件家庭裁判所に送致する方向で修正が図られる動きを引き出しましたが、予断を許さない状況であり、長い闘いの思い出に浸っている場合ではありません。
会員へのメッセージをお願いします
会員の皆さまにおかれては、弁護士という職業に誇りと希望を持って、これからも業務に会務にご活躍いただきたいと切に願っています。自分が楽しくなければ、他の人を楽しませることはできません。どこも人手不足と言われている中にあっても、法曹志望者を増やしていかなければなりません。現状に満足していては成長はありませんが、根っこのところで、弁護士という自分を可愛がって楽しんでほしいと思います。
日弁連に、弁護士会に、ご不満やご批判も多々あるとは思いますが、会員の活動を支えるべく役職員一丸となって業務に取り組んでおり、弁護士というアイデンティティの源でもありますので、できれば多少は温かく見てやっていただければと思います。
昨年の流行語大賞にならって、「ONE JFBA」を私の伝えたいメッセージとしたいと思います。
◇ ◇
(インタビュアー・広報室長 吉岡祥子)
臨時総会開催
「理事の選任における男女共同参画推進特別措置(女性理事クオータ制)」など10議案を可決
12月6日 弁護士会館
臨時総会が開催され、代理出席を含め9254人が出席した。少年・刑事財政基金のための特別会費徴収の件など10議案について審議され、いずれも可決された。
少年・刑事財政基金のための特別会費徴収の件など3議案を可決
①少年・刑事財政基金のための特別会費および②法律援助基金のための特別会費の徴収期間を2020年6月から2023年6月まで延長し、①につき徴収額を300円減額して月額1600円とすること、これに伴う暫定予算の補正を行うことを内容とするもの。
支出対象事業につき国費または公費による十分な支援が実現するまでは継続的かつ安定的な財源が必要とする賛成意見が出されるなど、いずれも賛成多数で可決された。
理事の選任における男女共同参画推進特別措置(会則一部改正)など2議案を可決
理事の人数を4人増員して75人とした上で、理事のうち会規で定める人数(本改正で4人)は女性が選任されなければならないこと、理事に占める女性の割合が30%以上とするための環境整備に努めることなど、理事における男女共同参画推進特別措置(女性理事クオータ制)を導入すべく会則等を改正するもの。
討論では「日弁連はさまざまな分野で国連勧告等を受け入れるよう政府に求めている。本提案は率先して実行すべき」「組織を変えるのは難しいが役員が変われば組織も変わる」などの賛成意見があり、採決の結果、いずれも賛成多数で可決された。
資格審査会の任務追加(会則一部改正)など2議案を可決
法改正により弁護士等の欠格事由から成年被後見人等が削除されることに伴い、沖縄弁護士の登録取消事由として心身の故障により職務を適正に行えない場合が追加されたため、追加された事由について審査手続を整備する改正を行うものであり、いずれも賛成多数で可決された。
会館維持運営資金変更(会則一部改正)など3議案を可決
2020年4月以降、一般会計から会館特別会計への繰入額を会員一人当たり月額800円から700円に引き下げ、これに伴い暫定予算の補正を行うもので、いずれも賛成多数で可決された。
ビジネスと人権に関する行動計画の策定に向けて
日弁連は2019年11月21日、「ビジネスと人権に関する行動計画に盛り込むべき具体的な事項・施策に関する意見書」を取りまとめた。
日本のNAP策定は、関係府省庁およびさまざまなステークホルダーが参加する作業部会・諮問委員会が外務省に設置され、そこで検討が進められている。2018年12月の「ビジネスと人権に関するベースラインスタディ報告書」の公表に続き、現在はNAPに含めるべき個別事項に関する議論が中心となっている。
日弁連はNAP策定プロセスへの参加はもちろん、会員に広く情報を伝えるべくこれまでにセミナーなどを実施している。
今回の意見書では、既に論点として特定された14項目につき、指導原則を実施するために必要な具体的政策を提言している。あわせてSDGsを含めた関連政策との一貫性の確保、国外への影響についての言及、策定・更新のプロセスの明確化など総合的に考慮すべき点を改めて強調している。NAPは数か月以内に原案が、2020年前半には最終版が公表される予定である。
(国際人権問題委員会 幹事 佐藤暁子)
大村入国管理センターにおける長期収容に関する人権救済申立事件
入管庁長官および大村入管センター所長に対し勧告
大村入国管理センターにおける長期収容に関する人権救済申立事件(勧告)
日弁連は、大村入国管理センターにおける長期収容に関する人権救済申立事件について、11月22日に大村入国管理センター所長に対し、25日に出入国在留管理庁長官に対し、人権侵害行為である収容を直ちに解消するべく措置を講じるとともに今後同じような人権侵害を繰り返さないよう勧告した。
本件は2017年5月、大村入管センターの被収容者37人(16か国)が、自由権規約の趣旨に反する期限の定めのない長期収容に対する人道的配慮および仮放免による現状の是正と改善を求めて人権救済を申し立てた事案である。
同年10月に大村入管センターで申立人らから聴取を行ったところ、申立人らは精神的な苦痛や、長期収容による家族関係の危機などを訴えた。また不眠やうつ、高血圧などストレスから健康を害している者もいた。
このような中、大村入管センターでは2019年に入って大規模なハンガーストライキが発生し、本件には含まれないが、2019年6月にナイジェリア人男性長期収容者が飢餓死するという重大かつ深刻な事案も発生している。
調査・検討の結果、日弁連は、申立人らが収容期限を示されることもなく漫然と6か月ないし数年間もの長期間にわたり収容されていることは、憲法13条・31条・34条、自由権規約9条などで保障された人権である身体の自由を不当に侵害するものであることは明らかだとして勧告するに至った。
今回の勧告は、病気などの個別事情の有無にかかわらず、送還準備という法の目的を逸脱した無期限長期収容について一律に人権侵害を認定した点において、一歩踏み込んだ内容となっている。
(人権擁護委員会 特別委嘱委員 丸山明子)
◇ ◇
*勧告書および調査報告書全文は日弁連ウェブサイトでご覧いただけます。
「障害者差別禁止法制の見直しを求める意見書」取りまとめ
障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律(以下「現行法」)が2016年4月に施行されて3年が経過した。現行法の制定は大きな一歩であったが、障害者の権利に関する条約の求める水準に比して不十分な点も多く、施行後も障がい者に対する差別事例は後を絶たない。現行法の附則7条に基づく見直しに向けて、日弁連は2019年11月21日、「障害者差別禁止法制の見直しを求める意見書」を取りまとめた。
日弁連人権擁護委員会の調査では、都道府県の半数近くは、2018年度の職員採用試験の受験資格として「自力で通勤できる者」という条件を課していた。このような一見障がいとは無関係な基準の適用により障がい者が排除される場合も差別に該当するが(いわゆる「間接差別」)、現行法では差別として明確に定められていない。また現行法では事業者の合理的配慮は努力義務にとどまること、合理的配慮の提供の実効性を担保するための公的助成制度がないことなどから、経済的な理由等で事業者による合理的配慮が積極的に行われていない。このように障がい者が泣き寝入りを余儀なくされる事例は数多く存在する。
これらの現状を踏まえ、「障害者」や「差別」の定義、合理的配慮に関する規定の制定、国などが負うべき義務など7項目について問題を提起し、意見書を取りまとめた。
障がいのある人もない人も「共に生きる社会」の実現に真に寄与する障害者差別禁止法制の構築を期待したい。
(人権擁護委員会障がいを理由とする差別禁止法制に関する特別部会特別委嘱委員 採澤友香)
犯罪被害者法律援助事業の国費化を目指して
日弁連は2019年11月22日、「国費による犯罪被害者支援弁護士制度の導入を求める意見書」を取りまとめた。
日弁連は現在、日本司法支援センターに委託して、生命、身体、自由または性的自由に対する犯罪および配偶者暴力、ストーカー行為による被害を受けた人やその親族などの犯罪被害者等に対し、資力などの一定の要件のもと、弁護士費用等を援助する犯罪被害者法律援助事業(以下「援助事業」)を実施している。
援助事業は、犯罪被害者等に対し、被害発生後の早い段階から、刑事手続に関わる法的支援を提供するもので、捜査段階で被疑者の弁護人から犯罪被害者等に対して示談の申し入れがあった場合の対応や社会の注目を集めるような重大事件の場合の報道対応などに利用されている。
日弁連は、援助事業の事業費に充てるための特別会費を創設して援助事業を継続しているが、利用件数は年々増加しており、今後の利用件数の増え方によっては、いつ財源不足に陥るかもしれない状況にある。
そもそも、犯罪抑止について責務を負う国がその費用をもって犯罪被害者の権利の実現に努めるべきであることからすれば、援助事業は、本来、国費によって実施されるべきである。
安定的に援助事業を継続するためにも、国は、犯罪被害者法律援助事業について、その費用を給付型の国費負担とする犯罪被害者支援弁護士制度を導入するべきである。
(犯罪被害者支援委員会 副委員長 黒井 新)
第72期司法修習終了者
1032人が一斉登録
二回試験に合格した司法修習終了者1487人のうち1032人が、2019年12月12日、日弁連に一斉登録した。
任官予定者数(75人)、任検者数(65人)とともに除いた未登録者数は315人(21.18%)と推計される。さらに1月中旬までの登録予定者(勤務開始時期等の理由から、例年、1月の登録希望者も相当数に上る)を差し引いた場合の未登録者数は106人(7.13%)と推計される。
日弁連では、引き続き若手弁護士サポートセンターを中心に、新規登録者を含む若手弁護士への各種支援を行うとともに、未登録者への採用情報提供、即時独立支援、さらには登録後のフォローアップを行って、今後の推移を見守りたい。
修習終了者数 | 登録者数 | 未登録者数 | |
---|---|---|---|
現新65期 | 2,080 | 1,370 | 546 |
66期 | 2,034 | 1,286 | 570 |
67期 | 1,973 | 1,248 | 550 |
68期 | 1,766 | 1,131 | 468 |
69期 | 1,762 | 1,198 | 416 |
70期 | 1,563 | 1,075 | 356 |
71期 | 1,517 | 1,032 | 334 |
72期 | 1,487 | 1,032 | 315(推計値) |
※登録者数は各期一斉登録日時点
シンポジウム
死刑廃止の実現を考える日
11月25日 弁護士会館
死刑廃止の実現を考える日
日弁連は2008年から毎年、死刑をテーマにしたシンポジウムを開催している。今回は2020年までの死刑制度廃止を目指し、廃止に伴う代替刑についても議論を深めた。 シンポジウム当日は山口那津男参議院議員(公明党代表)など多数の国会議員が挨拶等に登壇したほか、袴田巖氏も姿を見せた。
中本和洋会員(大阪・前日弁連会長)は、最大の人権擁護団体である日弁連が死刑廃止を宣言しない限り、死刑に係る議論は巻き起こらないと語った。死刑の問題点として、絞首刑は憲法36条の残虐な刑罰に該当すること、裁判は誤判やえん罪を回避しきれないこと、人の更生と社会復帰の機会を奪うことを挙げた。
日弁連死刑廃止及び関連する刑罰制度改革実現本部の小田清和副本部長(広島)は、死刑制度廃止に伴う代替刑として仮釈放のない終身刑が考えられるが、憲法36条や自由権規約7条に反する可能性があり、減刑手続制度と併せて検討すべきと説いた。
井田香奈子氏(朝日新聞国際報道部次長)は、加害者との対話を望む場合があるなど被害者遺族の思いや対応には多様性があることも報道し、死刑について十分に議論できる社会をつくりたいと述べた。
河村建夫衆議院議員(自由民主党/日本の死刑制度の今後を考える議員の会会長)は、多数派の意見にこだわるべきではなく、政治家は、リーダーシップをもって国民を死刑廃止に導いていくべきなどの意見があることを紹介した。
ソール・レ・フロインド氏(The Death Penalty Project共同創設者兼共同執行役員)は、イギリスでは死刑執行後または終身刑執行中にえん罪が相次いで判明し、死刑が廃止されたと説明した。
リシャール・セディヨ氏(フランス全国弁護士会評議会国際委員会副委員長)は、フランスはテロ事件を経験しているが、死刑はテロリストの殉死を後押しし、犯罪の減少にはつながらないとして、死刑が内包する矛盾点を指摘した。
マンフレッド・ノヴァック教授招聘企画シンポジウム
国際人権規約批准40周年・拷問等禁止条約批准20周年
完全な国際人権基準の実現を目指して
11月15日 明治大学
マンフレッド・ノヴァック教授招聘企画 シンポジウム「国際人権規約批准40周年・拷問等禁止条約批准20周年―完全な国際人権基準の実現を目指して」
国際人権条約実施のグッドプラクティス
元国連拷問に関する特別報告者のマンフレッド・ノヴァック教授(ウィーン大学)は基調講演で、死刑執行方法が自由権規約違反とされた事案をきっかけに死刑を廃止する国が増えた例や、中絶を制限する制度が自由権規約違反とされた結果、中絶に関する憲法が改正された例など、個人通報制度によって条約機関が条約違反を認定した結果、状況が改善された例を紹介した。また国内人権機関の重要性も強調し、参加者は改めて個人通報制度と国内人権機関を日本に導入するための運動が重要であることを認識した。
パネルディスカッション・質疑応答
江島晶子教授(明治大学法学部)から国際人権の実現に向けた司法に限らない多元的な分野の協働についての提起、アン・ヴァンハウト氏(駐日欧州連合代表部政治部一等参事官)から世界的な人権向上のための欧州連合の取り組みの紹介、武村二三夫会員(大阪)から個人通報制度と国内人権機関の必要性についての報告が、それぞれなされた。
続いて、日本の現状や問題点などについてノヴァック教授を交えてパネルディスカッションを行った。
会場からは、ノヴァック教授が「自由を奪われた子どもに関する国連グローバル調査」を主導した国連の独立専門家であることから、日本の児童相談所における人権侵害への取り組みの必要性や、当初国際人権法に明記されていなかったLGBTIの平等と権利を実現するための道筋に関する質問などがあった。
ノヴァック教授からは、日本の児童相談所と同様の問題は他の国にもあり、さらなる取り組みが必要であること、LGBTIの人々のために国際人権法のさらなる発展が可能であることなどが指摘された。
◇ ◇
(国際人権問題委員会 事務局長 稲森幸一)
障害者権利条約の締約国法制に与える影響に関する院内集会
12月4日 衆議院第二議員会館
障害者権利条約の締約国法制に与える影響に関する院内集会
2014年に日本について効力が発生した障害者権利条約に基づき、2020年には国連障害者権利委員会による日本の第1回建設的対話が予定されている。日本における障害者権利条約の履行を促すため院内集会を開催した。集会には約90人が参加した(うち国会議員本人出席7人、代理出席10人)。
日弁連からの報告
田島義久会員(大阪)は、第62回人権擁護大会で採択された「個人通報制度の導入と国内人権機関の設置を求める決議」について報告し、辻川圭乃会員(大阪)は、国連障害者権利委員会が公表した日本に対する事前質問事項の解説を行った。
講演 障害者権利条約が締約国法制に与える影響
ドイツ出身の弁護士で、自身もサリドマイドで両腕欠損という障がいを持つ、国連障害者権利委員会前委員長のテレジア・デゲナー氏が講演を行った。デゲナー氏は、まず旧優生保護法の強制不妊手術国賠訴訟が救済法の成立を促したことを例に、日本の弁護士は障がい者の権利保障に貢献していると評価した。そして、障害者権利条約は障がいの人権モデルを体系化したものであり、人権モデルとは障がいがないことを権利行使(法的能力)の要件とはしないという考え方であると説明し、国連障害者権利委員会に対する個人の苦情申立てについて人権モデルに基づく結論が示された具体例を紹介した。さらに、障がい者の権利保障を監視する仕組みに関し、パリ原則および障害者権利条約関連ガイドラインに沿った独立した国内人権機関を設置すること、障がい者団体(当事者団体)が監視の仕組みに優先的に参加し、その意見が尊重されることが必要であると訴えた。
出席した国会議員からは、個人通報制度や国内人権機関を整備し、障がい者の権利が確実に保障される社会を実現しようなどの意見が寄せられた。
全国弁護士会中小企業支援連絡協議会
12月3日 弁護士会館
2017年8月の第2回「中小企業の弁護士ニーズ全国調査報告書」によると、中小企業が「弁護士以外に法的課題を相談する相手」として他士業が上位に入っており、各士業の分野を補完し弁護士に対するニーズを発掘するためにも、他士業との連携は重要であるといえる。中小企業支援にかかわる弁護士会の担当者が一堂に会し、他士業連携などについて報告、意見交換を行った。
中小企業向けの相談窓口「ひまわりほっとダイヤル」について、広島弁護士会は、事業承継・海外展開支援等の分野別名簿を作成し、相談担当弁護士が自身での対応が難しいと感じた案件について名簿記載の会員に引き継ぐ仕組みを紹介した。
他士業との連携に関して、東京弁護士会は、数年連続で開催している社会保険労務士との交流会や、事業承継に関するテーマについて弁護士と公認会計士が発表する形式で継続的に勉強会を実施していることなど具体的な取り組みを紹介し、委員の知識向上、他士業に対する弁護士の存在の周知、信頼性向上につながっているなどの成果を報告した。
弁護士会相互の連携に関して、福岡県弁護士会は、2015年度から毎年開催している意見交換会を紹介し、九州各県の弁護士会に千葉県弁護士会も加わり、中小企業支援活動の成果を共有し、各弁護士会が直面している問題点を知る機会となっていると述べた。
意見交換では、他士業との連携状況を中心に意見、報告があった。大阪弁護士会からは、公認会計士協会との連携により、具体的な案件で弁護士と公認会計士が協働する機会も出てきたとの報告があった。災害復興支援という共通の目的で連携することや、許認可等の業務で認知度が高い行政書士と創業に関して連携するなど、目標を明確に設定して他士業と連携すべきとの意見も上がった。
第17回
非常勤裁判官全国連絡協議会
11月30日 弁護士会館
冒頭、最高裁事務総局総務局第一課の平城文啓課長は開会挨拶で、非常勤裁判官として関与した手続があるべき姿になっているか、権限に伴う責任を果たしているか、この二点を常に自分自身に問いかけてほしいとして、参加した非常勤裁判官を激励した。
次に、弁護士任官等推進センターの河野匡志事務局長(東京)が、基調報告「調停官制度の更なる発展に向けて」の中で、本協議会の獲得目標として、非常勤裁判官の相互交流、弁護士任官制度の重要性の再認識、常勤任官を含めた制度のさらなる発展の模索を挙げた。
民事、家事それぞれの調停官経験者による講演では、二本松裕子会員(第二東京/前東京地裁民事調停官)が、「調停不成立になった案件でも当事者から調停にして良かったと言われたことがあった」と述べ、当事者の意見をしっかり聴くこと、調停委員や裁判所職員との連携などを心掛けたと語った。福島正洋会員(東京/東京家裁家事調停官)は、自身の調停官としての在り方を見つめ直すきっかけになった事案を紹介しながら、判断権者として自らの人生観をかけて全身全霊で一つ一つの事案に向き合う姿勢が重要であると強調した。
4つのグループに分かれて行った調停官経験交流会では、調停成立に向けて心掛けていること、弁護士業務との両立という点から工夫していることなど実務的な観点から充実した議論が行われた。また、「これから非常勤裁判官を目指す人へ一言」というテーマでは「司法権の一端を行使しているという自覚が大切」「信念を持つと同時に謙虚さを忘れないように」など非常勤裁判官という仕事への誇りとやりがいに満ちた力強いメッセージが寄せられた。
菊地会長が台風災害の被災地長野市を訪問
千曲川の堤防決壊現場等を視察
令和元年台風第15号・第19号は、関東甲信越・東北地方を中心とした広範な地域において河川の氾濫、土砂崩落等をもたらし、多くの家屋に浸水等の甚大な被害が生じた。
被災地は1都13県にわたっているが、今回の視察では、長野県弁護士会の相馬弘昭会長、大井基弘副会長、髙橋聖明会員(2018年度日弁連副会長)ほかの案内により、長野市内の千曲川の堤防決壊現場、周辺地域の家屋やリンゴ農園の状況、冠水した北陸新幹線の車両基地、災害ごみの集積場、避難所などを巡り、発災当時の状況や行政、ボランティア団体、長野県弁護士会による被災者支援の現状について説明を受けた。
住民やボランティアによる精力的な復旧活動が行われていたが、被害の爪痕が今も残されており、このたびの災害における被害の甚大さを目の当たりにした。
長野県知事と面談
続いて、相馬会長とともに長野県庁を訪問し、阿部守一知事と面談した。
相馬会長から阿部知事に対し、被災者支援のために県が中心となって弁護士を含む専門家の連携を促進するように要望書が提出された。また、菊地会長は、これまでの弁護士・弁護士会による被災者支援の実績を紹介するとともに、弁護士による支援活動の有用性を説いた。
阿部知事からは、長野県弁護士会の要望を受け止めた上で、県として「ONE NAGANO(ワン・ナガノ)」を合言葉に県民やボランティアと一致団結して災害復興にあたる旨の強い意気込みが語られた。
長野県弁護士会災害対策本部との意見交換
最後に、長野県弁護士会館において、長野県弁護士会災害対策本部との意見交換を行い、同会の精力的な取組状況について説明を受けた。
日弁連は、今後も関係機関と連携しつつ、被災地弁護士会による多様な被災者支援の活動をバックアップしていく。
(事務次長 奥 国範)
日弁連海外ロースクール推薦留学制度
帰国者による報告会
12月5日 弁護士会館
日弁連海外ロースクール推薦留学制度-帰国者による報告会-
日弁連の海外ロースクール推薦留学制度(以下「本制度」)を広く周知するとともに、留学に関心のある会員や司法修習生などへの情報提供を目的として、留学からの帰国者による報告会を開催した。
森まさこ法務大臣の挨拶
1999年度に本制度を利用してニューヨーク大学に客員研究員として留学した森まさこ法務大臣が、留学時のエピソードを披露し、留学中の経験や研究の成果がその後の仕事に生きていると述べ、多くの会員に本制度を利用してほしいと呼びかけた。
帰国者による報告・留学生からのビデオレター
ニューヨーク大学2017年度客員研究員の具良鈺会員(大阪)、イリノイ大学アーバナ・シャンペーン校2018年度客員研究員の辻畑泰喬氏(元第一東京)、カリフォルニア大学バークレー校2017年度客員研究員の古家和典会員(東京)、エセックス大学人権センター2014年度客員研究員の水島俊彦会員(埼玉)、2018年度にシンガポール国立大学LL.M.コースに留学した塚原正典会員(愛知県)が、留学中の研究テーマや学内・学外での研究活動、日常生活や余暇の過ごし方、留学準備や英語の勉強方法、留学経験で得たもの、帰国後のフィードバックや次のキャリアへの活かし方、留学中の注意点や苦労話等を語った。本制度を利用して留学した会員から留学の魅力や醍醐味が伝えられるとともに、今後留学を目指す会員等にとって有益な情報やアドバイスが提供された。
また、現在イリノイ大学アーバナ・シャンペーン校の2019年度LL.M.コースに留学している中島朋子会員(愛知県)のビデオレターが上映され、実際の留学生活の様子が紹介された。
日弁連委員会めぐり103
改正刑訴法附則第9条第2項対応ワーキンググループ
今回の委員会めぐりは、刑事訴訟法等の一部を改正する法律(平成28年法律第54号。以下「改正刑訴法」)による改正後の規定の施行状況に関する調査および検討とともに、政府が講ずべき措置について検討する改正刑訴法附則第9条第2項対応ワーキンググループです。活動内容等について、内山新吾座長(山口県)、金谷達成副座長(神奈川県)にお話を伺いました。
(広報室嘱託 本多基記)
WG設置の経緯と特徴
改正刑訴法附則第9条第2項は、改正刑訴法施行後3年を経過した場合において、政府が改正後の規定の施行状況について検討を加え、必要があると認めるときは、その結果に基づき所要の措置を講ずるものと定めています。改正刑訴法では、①被疑者国選弁護制度の拡大、②証拠一覧表の交付制度等、証拠開示の拡充、③裁量保釈判断に当たっての考慮事情の明文化がなされました。これらは、日弁連が求めているえん罪を生まない刑事司法制度の実現のためにも一定の前進ではありますがいまだ不十分であり、改善・拡充の必要があります。また、④司法取引と称される協議・合意制度、刑事免責制度等の導入、⑤通信傍受の拡大など、人権侵害の危険性がある内容も含まれるため、運用状況等を注視し見直す必要があります。そこで、改正刑訴法施行から3年経過後の改善、見直しに向けて、立法事実となる事例等の収集・分析を継続的に行い、諸課題の実現を目指すことを目的として、本WGが設置されました。
現在の活動内容
改正刑訴法は施行時期が4段階に分かれ、早いものは2016年6月、最も遅いものは2019年6月に施行されたため、見直し作業は2022年が目安になると考えられます。本WGではあるべき見直しを実現するために事例を収集し、立法事実の集積を進めています。とりわけ、①裁量保釈判断に当たり適正な判断がなされているか、②証拠開示制度が適切に運用されているか、③協議・合意制度等(いわゆる司法取引)の事例、④弁護人選任に係る事項の教示義務の履践を中心として事例を収集しています。
会員へのメッセージ
改正刑訴法附則第9条第2項に基づく刑訴法のあるべき見直しのためには、数多くの事例を立法事実として示す必要があります。弁護人として直面する困難や活動の成果を日弁連全体で共有することによって法改正に向けた大きな力が生まれます。積極的な事例報告をお願いします。
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ブックセンターベストセラー
(2019年10月・手帳は除く) 協力:弁護士会館ブックセンター
順位 | 書名 | 著者名・編者名 | 出版社名・発行元名 |
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1 | 模範六法 2020 令和2年版 | 判例六法編修委員会 編 | 三省堂 |
2 | 携帯実務六法 2019年度版 | 「携帯実務六法」編集プロジェクトチーム 編 | 東京都弁護士協同組合 |
3 | 契約書作成の実務と書式[第2版]企業実務家視点の雛形とその解説 | 阿部・井窪・片山法律事務所 編 | 有斐閣 |
4 | 改正相続法と家庭裁判所の実務 | 片岡武・管野眞一 著 | 日本加除出版 |
5 | 会社法コンメンタール補巻 平成26年改正 | 岩原紳作 編 | 商事法務 |
6 | 新注釈民法(19)相続(1)§§882〜959 | 潮見佳男 編 | 有斐閣 |
7 | 若手法律家のための民事尋問戦略 | 中村真 著 | 学陽書房 |
8 | 情状弁護アドバンス | 季刊刑事弁護増刊 編 | 現代人文社 |
9 | 詳解 労働法 | 水町勇一郎 著 | 東京大学出版会 |
10 | 離婚に伴う財産分与-裁判官の視点にみる分与の実務- | 松本哲泓 著 | 新日本法規出版 |
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コンパクトシリーズ人気講座ランキング 2019年9月~11月
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順位 | 講座名 | 時間 |
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1 | 戸籍の仕組み・読み方の基本 | 30分 |
2 | 戸籍・住民票等取得(職務上請求)の基本~戸籍,住民票の写し,固定資産評価証明書,自動車の登録事項,証明書の取得について | 30分 |
3 | 不動産登記の基本 | 31分 |
4 | 弁護士報酬の基本 | 29分 |
5 | 弁護士会照会の基本 | 32分 |
6 | 商業登記の基本 | 21分 |
7 | 内容証明の基本 | 30分 |
8 | 地図の読み方の基本~ブルーマップ・公図の利用方法~ | 31分 |
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