日弁連新聞 第548号
国際戦略グランドデザインを策定
- 国際戦略グランドデザイン
日弁連は7月18日、「国際戦略グランドデザイン」(以下「グランドデザイン」)を策定した。
グランドデザインの内容
グランドデザインの目的と性格
グランドデザインは、日弁連が2016年2月に策定・公表した「国際戦略(ミッション・ステートメント)」(以下「国際戦略」。日弁連の国際活動における理念を明確化し、それに基づく基本目標およびそれを実現するための具体的な施策を展開するためのもの)において掲げた基本目標の達成に向けて、現状の活動内容を概観し、当該目標達成のために日弁連が現在取り組み、または今後重点的に取り組むべき諸課題を俯瞰した上で日弁連内外に示し、その取り組みを推進することを目的としている。
内容
グランドデザインは、①グランドデザインの目的と性格、②国際戦略の各基本目標に沿った日弁連の国際活動概況、③国際戦略の各基本目標達成に向けた課題および取り組みの3つにより構成されている。
③の今後の課題および取り組みでは、国内での国際人権規範の実現、外国人の人権問題やビジネスと人権などの国内の人権課題の克服、海外の人権課題への対応、2020年コングレスへの対応、さらなる国際司法支援活動、国際交流活動の目的を踏まえた交流内容の充実および成果の還元、国際的な法曹界におけるプレゼンス向上、地方の国際化、法的問題の国際化に対応した司法制度整備に関する立法提言活動、外国人関連案件や中小企業の海外支援等グローバル化に対応して発生する案件への対応、人材育成および広報活動など幅広い分野にわたって課題を整理している。また、日弁連が6月14日の第70回定期総会において採択した「グローバル化・国際化の中で求められる法的サービスの拡充・アクセス向上を更に積極的に推進する宣言」で挙げた数々の取り組みも含まれている。
課題の変化に応じた改訂
グローバル化・国際化のさらなる進展に応じて日弁連が取り組むべき課題も変化していくことが想定されるため、そのような変化に応じて本グランドデザインの改訂を重ねることを予定している。
(国際室長 松井敦子)
法曹三者共催企画
法曹という仕事
7月29日 最高裁判所
- 法曹という仕事(法曹三者共催企画)
将来の進路として法曹に関心がある若者を対象に法曹三者の仕事の魅力を紹介するイベントが最高裁で初めて開催され、中学生や高校生、大学生ら約180人が参加した。法曹三者が小法廷に分かれて開催したワークショップでは具体的な仕事内容について活発な質疑応答がなされ、暑さに負けない熱気に包まれた。(共催:最高裁判所、法務省)
法曹の役割と魅力
池上政幸最高裁判事は、裁判官や検察官の役割に触れたうえで、法律知識のない訴訟当事者が自分の言い分を法律的に整理して相手方に主張するには、弁護士の力が欠かせないと述べた。そして、職業としての法曹の魅力について、社会の紛争を法というルールにのっとり公正に解決するために法曹三者は不可欠な存在であり、法的思考力や紛争解決能力を身に付けることによって、さまざまな分野で活躍する力も養われ、多彩な活動の場が広がると語った。
法曹三者の仕事の意義
弁護士、裁判官、検察官が2人ずつ登壇し、住居侵入窃盗事件を題材に、法曹三者の仕事の意義や役割について説明した。木南麻浦会員(東京)は、弁護士は法律の専門家として、紛争に対する適切な予防方法や対処方法、解決策をアドバイスする社会生活上の医師であると説明した。小川弘義会員(東京)は題材となった住居侵入窃盗事件について、依頼者の利益を実現するために、被疑者との接見や家族への連絡、証人からの事情聴取など弁護人の活動内容を解説した。
パネルディスカッションでは、法曹を志すに当たっての学生時代の過ごし方など参加者からの質問に対し、登壇者から経験談を交えた回答があり、参加者は熱心に聴き入っていた。
それぞれの仕事の魅力
法曹三者が3つの小法廷に分かれて開催したワークショップでは、それぞれの仕事の内容を掘り下げて紹介した。弁護士のワークショップでは、大学で航空宇宙工学を学んだ山崎臨在会員(東京)が、理系のバックグラウンドを生かした宇宙ビジネスに関する業務内容を紹介した。法律事務所で秘書を経験し、現在は2児の母親でもある花渕悠果会員(第二東京)は、自分自身で働き方を決められるのが弁護士の魅力であると語った。
同性の当事者による婚姻に関する意見書を公表
455人の申立人からの人権救済申立事件について、355人から提出された陳述書および23人の当事者に対するヒアリングの内容などを調査し、検討した結果、7月18日、措置に代わる意見表明として「同性の当事者による婚姻に関する意見書」(以下「意見書」)を取りまとめ、法務大臣らに提出、公表した。
重大な人権侵害
意見書は、日本で(法令上)同性の者同士の婚姻(同性婚)が認められていないことは、婚姻の自由を侵害し、法の下の平等に違反するものであり、憲法13条および14条に照らし、重大な人権侵害であるとした。その上で、国は関連する法令の改正を速やかに行うべきであるとした。
意見書の内容
第1に、同性の者同士が婚姻できないことを婚姻の自由の制限と捉えた。
第2に、性的指向が本人の意思によって左右できず、歴史的に強固な差別の根拠となってきたことから、性的指向により別異の取り扱いをすることは強い正当化事由がない限り禁止されるとした。
第3に、憲法24条1項の「婚姻は、両性の合意のみに基いて成立し」との規定は、婚姻を当事者の自由かつ平等な意思決定により成立させる趣旨であり、同性婚を禁止する趣旨ではなく、憲法の制定時にも同性婚を禁止すべきという議論はなかったとした。
第4に、憲法24条2項の「配偶者の選択(中略)に関しては、法律は、個人の尊厳と両性の本質的平等に立脚して、制定されなければならない。」との規定は、この問題について、立法裁量を画する意義を持つことを強調した。
第5に、婚姻と法的効力は同一であるが、婚姻とは異なる名称の制度を導入することでは、平等原則違反は解消できないとした。
(人権擁護委員会 特別委嘱委員 本多広高)
ひまわり
京都アニメーションの放火殺人事件で亡くなった35人について、最終的には全員の氏名が公表された。氏名の公表に反対する遺族もいたが、京都府警は、事件の重大性や公益性を考慮して全員の氏名を公表したとのことである▼これを契機に「被害者の実名報道は必要か」という議論が巻き起こっている。報道関係者の中には「身元が特定できた段階ですぐに実名公表すべきだった。重大事件は原則として実名とすべきだ」との意見がある。他方、SNS等では「遺族の心情を考えると、被害者の実名を報道する必要はない」との声が強い▼実名報道の重要性は十分に理解できる。しかし「二度とこのような事件を起こさせないために」といった理屈では、もはや被害者遺族の納得を得られないのではないか。報道機関は「なぜ犯罪の被害に遭うとプライバシーが開披されるのか」という問いに正面から答える必要がある▼他方、被害者は常に匿名であるべきとも言えないだろう。現職の国会議員が殺害された場合などは、遺族の意向に反しても実名を報ずる必要性が大きいし、歴史の記録という意義もある▼実名記載は一度きりにするなど、メディア側にも変化が見られる。被害者報道のあるべき姿について、これからも考え続けたい。
(H・T)
「特定商取引法の執行力強化に関する意見書」を公表
日弁連は7月19日、「特定商取引法の執行力強化に関する意見書」を取りまとめ、経済産業大臣、内閣府特命担当大臣(消費者および食品安全)、消費者庁長官、都道府県知事、内閣府消費者委員会委員長宛てに提出、公表した。
行政による特定商取引に関する法律(以下「特商法」)の執行(業務停止命令や指示処分)には、対象事業者の違反行為を抑制し、被害者に対して被害を告知して救済につなげるだけでなく、新たな消費者被害の発生を防止する機能もあり、消費者保護にとって極めて重要である。
しかし、特商法に基づく行政処分件数は、悪質商法などに関する相談件数に比べると低調なのが実情である。
2016年6月に成立した改正特商法には特商法の執行力強化を指向した規定が多く盛り込まれたが、残された課題も多い。
意見書は、日弁連が2017年10月に実施した都道府県に対するアンケート調査などを基に、特商法の執行力強化に向けた諸課題を分析し、国および都道府県に対して意見を述べるものである。具体的には、①人的体制の拡充による都道府県の執行体制の充実化、②弁護士によるアドバイザー制度の活用など都道府県の執行業務における専門性の強化、③国における執行力強化の取り組み、④行政処分の執行要件を明確化するための法改正を求めている。
(消費者問題対策委員会 副委員長 塩地陽介)
日弁連短信
国際化の中の日弁連
日弁連の国際活動ってこんなに活発だったんだね。こんな積極的な評価をいただくことが多くなった。国際活動を一覧できる国際戦略グランドデザインが完成したので、ご覧いただきたい。
法律はドメスティックな面が強く、多くの弁護士の業務に国際機関の活動や各国政府の取り組みは直接的な関係を持たないことが多かったと言える。しかし否応なしに国際的な視点で弁護士の業務の在り方を検討しなければならないこともある。その例の一つがマネー・ローンダリング対策を国際的に協調して行う政府間機関であるFATF(金融活動作業部会)の勧告である。昨年から始まった依頼者の本人特定事項の確認及び記録保存等に関する規程の履行状況を報告する年次報告書の提出は、日本の弁護士が勧告の履行をしていることを示す施策の一つと位置付けられる。歴史的な経験から生まれた弁護士自治を守りつつ、同時に各国の弁護士会と連携しながら対応する必要がある。
弁護士の日々の業務に目を向けると、かつて国際契約や交渉を取り扱う弁護士は限られていたが、そうした時代は地方を含めて終わりつつあるのをひしひしと感じる。入管法による外国人労働者の新しい枠組みでの受け入れが始まり、中小企業の海外展開の進展とともに、国際化の流れはさらに加速するに違いない(定期総会の宣言参照)。
さて、弁護士の準備はできているだろうか。先頃、国際交流の一環でオマーンから31人の弁護士が日弁連を訪問した。アラビア語が飛び交ってはいたが、私たちとの会話は英語であり、何ら支障があるようには見えなかった。日弁連が代表を送る法曹団体の国際会議はみな英語で行われる。議論に参加しなければ、会議に出席した意義を見いだし難いし、何よりも日本の弁護士のプレゼンスも上がらない。今やネイティブよりも非ネイティブで英語を話す人の方が多く、母語の発音を介したさまざまなイントネーションの英語に触れるのが普通であり、臆することはない。
国際人材の育成は、政府の骨太の方針にも掲げられた。国際裁判対策等に弁護士の活用が求められたとき、日弁連は今候補者を送り出すことができるのか。人材の育成には時間がかかる。意欲にあふれた会員を受け止める体制はできており、気軽に国際公務キャリア相談窓口に相談してほしい。
(事務次長 小町谷育子)
弁護士職務の適正化に関する全国協議会
8月2日 弁護士会館
弁護士職務の適正化に関する情報を共有し、今後の取り組みに生かすため、全国の弁護士会の会長や懲戒担当役員等が集まり協議会を開催した。
なお昨年まで同日に開催していた「市民窓口及び紛議調停に関する協議会」は、本年からブロック別協議会として別途開催する。
協議〜会請求と事前公表
弁護士会が独自に立件した(いわゆる会請求)事例として、①弁護士会の承認を得ず、詐欺の被害者に対し被害回復に係る事件の依頼を勧誘し、かつ、その依頼者に事件処理の経過や結果を報告せず、除名になった事例、②判決書を偽造して懲役1年6月執行猶予4年の判決が確定し、弁護士登録取消となった事例、③病気を理由とする事件放置により戒告となった事例、④預り金の不適切な取り扱いや依頼者などからの金銭借り入れを繰り返し、業務停止1月となった事例、⑤暴行や器物損壊が弁護士の品位を失う非行に該当するとして業務停止1月となった事例について、出席者から報告があった。これらの事例を基に、いわゆる会請求の手続や、懲戒の手続に付された事案の事前公表の要件の充足などについて議論した。
報告〜日弁連の取り組み
懲戒手続の諸問題に関する検討ワーキンググループの渕上玲子座長(東京)は、業務停止期間中の業務規制などについて、現在の法律事務所や弁護士の業態などを踏まえ、改正を検討中であると報告した。
弁護士職務の適正化に関する委員会(以下「委員会」)の山口健一委員(第二東京)は、会員サポート窓口で最も多い相談類型が、利益相反など弁護士法や弁護士職務基本規程に抵触するか否かであると紹介した。
日弁連高齢者・障害者権利支援センターの坂下宗生副センター長(広島)は、弁護士後見人などの不正による被害者の事後的救済を目的として保証機関型信用保険を活用した保証制度を創設する準備を進めていると説明した。
委員会の宮崎裕二委員長(大阪)は、昨年、適正な弁護士業務を行う上で必要なツールを一覧表にまとめた「弁護士業務に役立つお品書き」を作成したことに触れ、今後も不祥事根絶に向けて取り組みを強化すると語った。
多文化共生総合ワンストップセンター構想に関する全国連絡協議会
7月17日 弁護士会館
本年4月から新たな外国人労働者受け入れ制度が始まった。これに伴い、全国の国際交流協会などでは、政府が策定した外国人材の受入れ・共生に関する総合的対応策を踏まえ、多文化共生総合ワンストップセンターを開設し、外国人に対する相談体制の整備・拡充が進められている。
このようなワンストップセンター構想を受け、主に国際交流協会などとの連携に向けた取り組みを検討するため、連絡協議会を開催した。弁護士会などから94人の会員が参加した。
菊地裕太郎会長は冒頭の挨拶で、日弁連や弁護士会においても、外国人に対する法的サービスの充実やリーガルアクセスの向上に向けて全力で取り組む必要があると述べた。
連絡協議会の開催の趣旨説明に続き、第1部では、全国における外国人に対する法的サービスの提供の現状と課題を取り上げた。29地域の弁護士会が国際交流協会や自治体などと連携して外国人法律相談を実施している現状や、全国の有志の弁護士による「外国人ローヤリングネットワーク(LNF)」の活動、多言語情報提供サービスなどの法テラスの取り組みが紹介された。
第2部では、出入国在留管理庁の担当者によるワンストップセンター構想の概要と現状の説明に続き、具体的な事例として、浜松国際交流協会と静岡県弁護士会、佐賀県国際交流協会と佐賀県弁護士会の連携の状況が紹介された。
第3部では、ワンストップセンター型の相談窓口における外国人法律相談のモデル案について検討し、日弁連や弁護士会などに期待される役割について活発な議論を行った。
(人権擁護委員会第6部会 部会長 難波 満)
シンポジウム
事業者の違法な収益を被害者のもとに
〜日本での違法収益吐き出し法制の実現に向けて
8月2日 弁護士会館
- シンポジウム「事業者の違法な収益を被害者のもとに~日本での違法収益吐き出し法制の実現に向けて」
日本国内で多数の被害者を出したMRI事件(*)について米国での被害回復手続が進み、ようやく被害者への配当手続の段階に至った。日本におけるあるべき違法収益吐き出し法制を考える契機とすべくシンポジウムを開催した。
消費者問題対策委員会の五十嵐潤幹事(第二東京/MRI被害弁護団事務局長)は、米国では行政、刑事、民事のいずれの手続にも資産の凍結など違法収益を被害者のもとに取り戻させるためのメニューがあることを説明し、MRI弁護団がこれらの手続を活用しながら被害者への配当の原資を確保していった経過を振り返った。
中川丈久教授(神戸大学法学部)は「日本で可能な違法収益の吐き出し制度」と題する基調報告の中で、違法収益移転措置命令(行政手法)は規制ターゲットを極悪層・中間層・善良層の三層に区分したときの中間層に対して特に有効な手段であり、極悪層には違法収益移転措置命令に加えて刑事手法も採り得るようにすべきと述べた。残る善良層に対しては、指導と自主規制を促すことで足りると説明した。
パネルディスカッションでは、磯辺浩一氏(NPO法人消費者機構日本専務理事)が、日本版クラスアクションと言われているいわゆる消費者裁判手続特例法に基づく裁判制度について、救済の対象が限定的であるなどの制度的制約を大きく改善することが必要であると訴えた。五十嵐幹事は「MRI事件では発覚後半年足らずという早い段階で加害者の資産凍結に至ったが、そのためには行政が保有する情報の開示が不可欠だった」とした上で、日本でも例えば金融商品取引法192条を改正することで米国の制度に近づけることが可能ではないかと指摘した。
*MRI事件
米国法人であるMRIインターナショナルが、米国内の診療報酬債権を安く買い取り額面で回収して利ざやを稼ぐという債権回収ビジネスを展開していると称して、日本人8700人から額面総額1365億円の資金を集めたとされる詐欺事件
フランス全国法曹評議会主催
G7 Bars Meeting
7月11日・12日 フランス・パリ
主要国首脳会議(G7)がフランスで開催されるのに合わせて、G7参加国の7弁護士会の代表が集まり、「G7 Bars Meeting」が開催された。日弁連からは国際活動に関する協議会の片山達副議長(第二東京)が参加した。
会合では、「法の支配」を軸として、ジェンダーなどを理由とする差別、AIなどの技術の応用と公平な裁判を受ける権利との関係、環境問題、責任ある企業行動などの共通の課題について議論し、その成果として、G7参加各国政府に対して取り組みを求める提言を採択した。
ヨーロッパではAIによる裁判の導入を検討している国もあり、アルゴリズムの開発やAIの活用の際に、公平な裁判を受ける権利をどう担保するかが喫緊の課題となっている。この問題のみならず今回の会合で取り上げられた各課題について日弁連でも早急に議論を進める必要を感じた。
また、犯罪被害者の権利と感情に配慮しながら死刑制度の廃止を目指す日弁連の取り組みについては、世界でテロ対策等を理由に死刑の復活の動きもある中、死刑廃止は連帯して取り組むべき喫緊の課題であるとして、死刑廃止・停止国が大半を占めるG7参加各国の弁護士会から歓迎され、死刑廃止を求める宣言も採択された。
今回の会合はG7のエンゲージメントグループとして位置付けられており、会合の成果はG7の準備会合にも報告された。
この会合の次回以降の開催は未定だが、濃密な議論を通して、各国弁護士会との間で今後につながる信頼関係を築くことができた。
(国際室嘱託 尾家康介)
*採択された提言・宣言等は日弁連ウェブサイトでご覧いただけます。
原発賠償シンポジウム
原発ADRの現状、中間指針の改定、時効延長の必要性について
7月27日 弁護士会館
原発ADRの現状を分析し、あるべき制度設計等を検討した。(共催:日本環境会議)
潮見佳男教授(京都大学大学院法学研究科)は基調講演で、原発被害賠償訴訟について、権利の概念が広がってはいるが、それが必ずしも損害賠償に結び付いておらず、損害賠償の在り方を見直すべきと説いた。
渡邊真也会員(福島県)は、住民が集団で申し立てた原発ADRで東京電力が和解案の受諾を拒否する事例が増えている実情を指摘し、東京電力は和解案尊重義務を履行すべきと批判した。災害復興支援委員会の渡辺淑彦幹事(福島県)は、東京電力が「東京電力株式会社福島第一、第二原子力発電所事故による原子力損害の範囲の判定等に関する中間指針」(以下「指針」)の範囲を超えることを理由に和解案の受諾を拒否していることに言及し、指針自体の見直しの必要性を主張した。
関礼子教授(立教大学社会学部現代文化学科)は、ふるさと喪失の実態は、単なる空間の剥奪ではなく、自然との関わり・人のつながり・子孫への持続性から成る全体の剥奪であるとし、被害の深刻さを訴えた。
続くパネルディスカッションで、吉村良一教授(立命館大学大学院法務研究科)は指針の改定の方法として、損害項目の追加および損害項目ごとの増額並びに指針の暫定性を明確にした横浜地裁平成31年2月20日判決のように指針を抜本的に見直す方法があると提案した。
大坂恵里教授(東洋大学法学部法律学科)は、原発ADRを機能させるためには、和解案への拘束力の付与や迅速かつ適正な手続の実現の観点から制度を再設計すべきと語った。
大森秀昭会員(東京)は、東京電力に賠償請求していない人や原発ADRを初めて利用する人が今も少なからずおり、各地の訴訟における裁判所の判断が待たれる中、あと2年足らずで損害賠償請求権が時効消滅となることは回避しなければならないと述べた。
シンポジウム
住宅瑕疵担保履行確保法施行10年目の現状と課題
―安全な住宅に居住する権利は実現されているか―
8月1日 弁護士会館
- シンポジウム「住宅瑕疵担保履行確保法施行10年目の現状と課題-安全な住宅に居住する権利は実現されているか-」
特定住宅瑕疵担保責任の履行の確保等に関する法律(以下「瑕疵担保履行確保法」)が施行されて間もなく10年になる。消費者の立場からこの10年を振り返り、欠陥住宅問題を解決するためのよりよい制度について検討した。
施行後10年の運用状況
国土交通省住宅局住宅生産課住宅瑕疵担保対策室長の川合紀子氏が「瑕疵担保履行確保法施行10年の現状」と題する基調講演を行い、資力確保措置や住宅瑕疵担保責任保険、住宅紛争処理・相談業務などについて、概要や10年間の運用状況等を説明した。
消費者からみた問題点
消費者問題対策委員会土地・住宅部会の河合敏男幹事(第二東京)は基調講演で、瑕疵担保履行確保法の問題点を指摘した。①適用対象や瑕疵の内容が限定されていること、②当事者が交代した場合の手当が十分でないこと、③住宅紛争審査会のあっせん・調停に時効中断効がないなど、被害者救済のために十分に機能しているとは言えないこと、④瑕疵担保保険の不適切な運用事例が見られることなどを問題点として挙げ、欠陥住宅の予防という視点に立って制度を検討すべきと論じた。
消費者のための瑕疵担保履行確保法を目指して
パネルディスカッションでは、木津田秀雄氏(胡桃設計一級建築士事務所代表・一級建築士)、齋藤拓生幹事(仙台)が加わり、河合幹事が指摘した問題点について議論した。
木津田氏は多くの建築訴訟で鑑定等を行った経験を踏まえ、現場の実務に合った法改正や制度の見直し、運用の工夫などについて具体的に指摘した。
川合氏は、③の時効の中断効は認める方向で検討していると報告するほか、運用の改善などについて前向きな姿勢も示すなど、有意義な議論が展開された。
高校生模擬裁判選手権
8月3日 東京・大阪・金沢・高松
- 第13回高校生模擬裁判選手権を開催します!
高校生たちが実際の法廷を使って実務家さながらの議論を繰り広げる高校生模擬裁判選手権が本年も開催された。13回目を迎えた本年は、全国4つの会場で同日開催され、全28校が参加した。本稿では、関東大会の模様をお伝えする。
(共催:最高裁判所、法務省・検察庁ほか)
今回の課題事案は、被告人が雑貨店でコーヒー粉4点(時価3496円相当)を持って店外に出たところを警備員に現認されて逮捕されたという窃盗事案。被告人の言い分は店に戻って会計するつもりだったというもので、争点は窃盗の故意の有無である。
模擬裁判は東京地裁の法廷で行われ、高校生たちは検察官役と弁護人役に分かれ、午前と午後で役を交換する方式で裁判に臨んだ。審査員は現役の裁判官・検察官・弁護士のほか、学者やジャーナリストなどが務めた。
模擬裁判は実際の刑事手続にのっとって進められた。証拠調べ(被告人質問)では、高校生たちは被告人が被害品を隠すように持っていたことを立証するため、被害品のコーヒー粉と事件当時に被告人が所持していたとされるタブレット端末の模型を使って実演し、論告、弁論では、自らの主張を整理した模造紙を掲げて示すなど、創意工夫を凝らして主張立証を展開した。
高校生たちが尋問の際に供述明確化のために図面を示す許可を裁判長に求めたり、検察官役が図面を示す際に、弁護人役がすかさず提示された図面を確認するなど、細かい手続についてもよく研究していたことに審査員から感嘆の声が上がった。また、検察官役から追及され得る点を弁護人役が先回りして質問したことや、回答に対する臨機応変な対応には、実務家として即戦力レベルなどと称賛が集まった。
優勝した浜松北高等学校の生徒は、「尋問担当のチームと論告担当のチームに分かれ、論告で述べたいことから逆算して尋問内容を決めた」「チームワークよく取り組めた」などと感想を述べた。対戦した渋谷教育学園幕張高等学校の生徒は、対戦校の尋問の流れが参考になったと称え、捲土重来を誓った。また高校生たちは、支援弁護士らの支援に対し、感謝の言葉を述べた。
各会場の優勝校および準優勝校
- 【関東大会(東京)】
- 優 勝:静岡県立浜松北高等学校(静岡)
- 準優勝:中央大学杉並高等学校(東京)
- 【関西大会(大阪)】
- 優 勝:西大和学園高等学校(奈良)
- 準優勝:三木学園白陵高等学校(兵庫)
- 【中部北陸大会(金沢)】
- 優 勝:新潟県立直江津中等教育学校(新潟)
- 準優勝:福井県立大野高等学校(福井)
- 【四国大会(高松)】
- 優 勝:高松第一高等学校(香川)
- 準優勝:愛光高等学校(愛媛)
JFBA PRESS -ジャフバプレス- Vol.145
知ってほしい
刑事司法にかかわる通訳
近年、国際化に伴い日本語を解さない被疑者や被告人が増加しており、刑事司法にかかわる通訳について社会の関心も高まっています。
今回は、刑事司法にかかわる通訳人の立場から吉田理加氏(立教大学大学院異文化コミュニケーション研究科兼任講師)、日弁連が2013年7月に公表した法廷通訳についての立法提案に関する意見書(以下「2013年意見書」)の作成にかかわった立場から日弁連刑事弁護センター副委員長(制度改革小委員会)の吉岡毅会員(埼玉)にお話を伺いました。
(広報室嘱託 木南麻浦)
吉田理加氏
法廷における通訳業務の特殊性とは?
会議通訳では意訳を用いながら趣旨を伝えることが重要ですが、法廷通訳では解釈を加えずに言いよどみや言い間違いも含めて一言一句を正確に訳すことが求められます。ここが大きく違う点です。
どんなところに難しさを感じますか?
たとえば、スペイン語の「Perdóneme, por favor.」は、神に対して許しを請うという意味合いの表現で、スペイン語圏では謝罪や反省の態度を示していると解釈されます。しかし、これを日本語に直訳すると「自分を許してくれというばかりで反省をしていない」と被告人の意図とは逆の意味が伝わってしまいかねません。会議通訳であれば躊躇なく「申し訳ありませんでした」と訳すでしょう。一言一句訳すだけではなく、発話を通してなされた行為や態度が正しく解釈されるように訳すことこそが、正確に訳すことなのでしょうが、常に葛藤があります。
法廷の緊張感の中で瞬時に適切な言葉を選択するのはどのくらい大変ですか?
私はよく「25メートルのプールに深く潜り一度も息継ぎしないで泳ぎきるのに似ている」と表現するのですが、そのくらいの集中と疲労をイメージしていただくと分かりやすいかもしれません。
要通訳事件を担当する弁護人へのメッセージ
法廷通訳や接見通訳は会議通訳と異なり、一人で長時間通訳を続けなければならないことがあります。述語が2つになる複文よりもできるだけ単文を使うことや、二重否定表現は使わないことなどを心がけていただくと誤訳の危険を減らすことができありがたいです。
弁護人の立場やお考えもあると思いますが、通訳人の接見への同行は、法廷に臨む前に被告人の用いる方言や話し方の特性を確認でき、より正確な通訳をするために大変有益な機会だと感じています。
吉岡毅会員
刑事司法にかかわる通訳について社会の関心が高まっているように思いますが、きっかけは?
やはり裁判員裁判だと思います。刑事司法において通訳の果たす役割の重要性そのものは裁判員裁判導入の前後で変わったわけではありません。ただ、裁判員裁判では、刑事裁判の原則である直接主義・口頭主義が徹底されますし、集中審理により1回の開廷時間が長時間になります。従来から指摘されていた通訳人の過重な負担などの問題がマスコミに取り上げられることが増えたのです。これが2013年意見書の公表に繋がりました。
2013年意見書の公表後変わったことは?
2013年意見書では通訳人の資格・名簿制度、継続的な研修制度を法律で定めるべきこと、報酬制度・通訳の質確保のための規定を最高裁判所規則で定めるべきことを主張していますが、残念ながら制度自体は何も変わっていないと言わざるを得ません。
一方、日弁連では通訳人や研究者を講師に招いて、弁護士と通訳人双方を対象とした研修会を開催するなど、通訳人と協働して状況の改善を目指す活動を続けています。研修会は非常に実践的な内容なので、ぜひ参加していただきたいです。日弁連から弁護士会への研修講師派遣も可能です。
また、日弁連刑事弁護センターでは会内資料「要通訳事件における公判弁護の手引き」と通訳人研修会資料「通訳人の皆さんへ(お願い)」を作成していますのでこちらも活用してください。現在、捜査弁護の手引きも作成中です。
会員へのメッセージ
こうした取り組みが一定の成果を上げ、刑事司法にかかわる通訳の質の向上が図れるとしても、弁護人と通訳人の協働や努力だけではどうにもならない問題は残ります。改めて制度改革の必要性を強く訴えていきたいと考えています。
会員の皆さんには、もし、自分が言葉の通じない外国で刑事手続を受けることになったらどんな気持ちだろうかと考えて、要通訳事件に積極的に取り組んでいただきたいと思います。
日弁連委員会めぐり100
所有者不明土地問題等に関するワーキンググループ
(広報室嘱託 本多基記)
WG設置の経緯と特徴
従前から所有者死亡後も相続登記がされず長い間放置されたままの土地が多数存在し、売買などの際に支障を来していました。東日本大震災では、所有者不明土地が多数存在したことから復興事業に遅れが生じ問題となり、その後、被災地以外でも所有者不明土地が全国に多数存在することが指摘され、問題が顕在化しました。
2017年以降、民間の研究会として所有者不明土地問題研究会が設けられ、法務省や国土交通省においても研究会が発足するなど問題解決に向けて取り組みが進められてきました。このような状況の中、日弁連でも、検討組織に委員を推薦し、推薦委員をバックアップするとともに、日弁連内の意見を集約し、より望ましい法改正等に向けた提言等を行うため、本WGが設置されました。本年7月末日現在のメンバーは40人です。そのうち各委員会の推薦委員が16人いるほか、東日本大震災の被災地で任期付公務員として実務対応をした会員も所属し、それぞれの経験を踏まえた多角的な議論が行われています。会議の出席率が高いのも大きな特徴です。
現在の活動内容
現在、WGにおいて集中して取り組んでいるのが民法・不動産登記法の改正作業への対応です。2019年2月に法制審議会民法・不動産登記法部会が設置されてから、概ね月1回のペースで部会が開催され審議が行われています。法制審議会では2020年秋ごろまでに要綱を答申し、それを受けて改正法案が国会に上程される予定です。改正法案は生起している社会問題を立法的に解決するためのものです。
WGでは毎回法務省の担当者と意見交換を行っていますが、そこでのやりとりからは部会の審議において日弁連に大きな期待が寄せられていることを感じます。
会員へのメッセージ
所有者不明土地問題は今まさに解決しなければならない問題です。皆さんも自分の暮らしている土地や故郷の土地のことを想起して身近な問題として捉え、この問題に関心を持っていただきたいと思います。
ブックセンターベストセラー
(2019年6月・手帳は除く) 協力:弁護士会館ブックセンター
順位 | 書名 | 著者名・編者名 | 出版社名・発行元名 |
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1 | 携帯実務六法2019年度版 | 「携帯実務六法」編集プロジェクトチーム 編 | 東京都弁護士協同組合 |
2 | 東京家庭裁判所家事第5部(遺産分割部)における相続法改正を踏まえた新たな実務運用 | 東京家庭裁判所家事第5部 編著 | 日本加除出版 |
3 | 一問一答 新しい相続法 | 堂薗幹一郎・野口宣大 編著 | 商事法務 |
4 | 平成30年改正知的財産権法文集 平成31年4月1日施行版 | 発明推進協会 編 | 発明推進協会 |
5 | Q&A 若手弁護士からの相談374問 | 京野哲也・林 信行 編著 | 日本加除出版 |
6 | 弁護士のための遺産相続実務のポイント ―遺産分割・遺言無効・使途不明金ほか遺産分割の付随問題 | 森 公任・森元みのり 著 | 日本加除出版 |
7 | Before/After 相続法改正 | 潮見佳男 他 編著 | 弘文堂 |
8 | 民事訴訟等の費用に関する書記官事務の研究 | 裁判所職員総合研修所 監修 | 法曹会 |
9 | 別冊ジュリストNo.243 商法判例百選 | 神作裕之・藤田友敬 編 | 有斐閣 |
10 | 婚姻費用・養育費等計算事例集(中・上級編) 新装版 | 婚姻費用養育費問題研究会 編 | 婚姻費用養育費問題研究会 |
海外情報紹介コーナー⑥
Japan Federation of Bar Associations
ペットは財産か家族の一員か?
本年1月、カリフォルニア州では、離婚裁判において、裁判官がペットにとって何が最善かを考慮して、誰が離婚後ペットと生活を共にするかを決定できる法律が施行された。これまでペットは財産扱いであったが、新法では、ペットについても子どもの場合のように共同監護権が認められることになった。もっとも、裁判官が子どもの共同親権の場合のように具体的な養育プラン(どちらが週のうち何日ずつペットと生活するか、医療に関する決定をどうするかなど)を定めるところまで立ち入るかについては、裁判官次第であり、今後の判例法の積み重ねが注目される。
(国際室嘱託 小野有香)