日弁連新聞 第547号
法曹養成制度改革を巡る動き
法律改正と日弁連の対応
6月19日、「法科大学院の教育と司法試験等との連携等に関する法律等の一部を改正する法律」(以下「改正法」)が成立した。改正法は、法科大学院と法学部等との連携に関する規定を新設するほか、法科大学院在学中の司法試験受験を可能とし、早期卒業等の活用と併せて、法曹志望者の時間的・経済的負担の軽減を図ることを主眼とするものである。
今般の制度改革により、法科大学院との連携を企図する大学の法学部には「法曹コース」の設置が奨励され、優秀な学生が3年次修了時点で法科大学院へ進学できる仕組みが明確化された。また一定の要件を満たした学生は、法科大学院の最終学年で司法試験を受験することが可能となり、最短で大学入学から5年で司法試験に合格することができるようになる。ただし、改正法では、法科大学院在学中に司法試験に合格した者であっても、司法修習生として採用されるためには法科大学院を修了することが要件とされている。
日弁連は今般の制度改革に対し、2018年10月に「法科大学院在学中の司法試験受験を認める制度変更に関する基本的確認事項」を理事会で承認し、法科大学院を中核とするプロセスとしての法曹養成制度を堅持するとともに、法科大学院の理念である公平性・開放性・多様性が確保されるよう主張してきた。また、制度改革に当たっては、法科大学院の関係者および日弁連の関係者を交えた会議体を設置し、司法試験については試験時期を含めた試験の内容を、予備試験については試験の内容等について検討するよう求めてきたところである。
改正法の成立を受けて、今後、法曹三者のほか法科大学院関係者や文部科学省を交えた会議体が設置され、司法試験の実施時期等について協議を行うことが見込まれている。
日弁連は、今後の協議において、前述した基本的確認事項の理念が的確に反映されるよう、関連委員会の意見を踏まえながら、真摯に取り組んでいく。
(事務次長 武内大徳)
第15回
ACLA/CCBEとの三極会議
7月12日~14日 ポルトガル・ポルト
今回は①弁護士の独立、②刑事手続における弁護士へのアクセス、③リーガルサービスの質の確保、④AIなどの自動化された意思決定システムの倫理的問題点と弁護士が果たす役割の4つのテーマと、各団体の近年の活動について、活発かつ充実した情報・意見交換が行われた。
①については、とりわけCCBEが成立を推進する 「弁護士の役割に関するヨーロッパ条約」に関連し、法の支配・基本的人権などの普遍的な価値を維持するための弁護士の役割の重要性が確認された。
②については、日本と中国ではいまだ弁護人の取調べ立会権が認められていない一方、CCBEでは越境的な事件で逮捕状請求国と執行国双方での弁護人へのアクセス権の保障を目指しているという状況の違いはあるものの、いかに司法アクセスを充実させるかという共通課題を認識した。
③については、弁護士の質の確保に向けた弁護士会の役割が強調され、④については、人権侵害のリスク、 意思決定過程の透明性や説明責任の担保等の課題に対応しつつ、AIなどをいかに効率的に利用するかにつき議論が交わされた。
最終日は、世界最古の大学の一つでポルトガル屈指の名門大学でもあるコインブラ大学(13世紀創立)を訪問した。18世紀ごろに建てられたジョアン5世図書館は圧巻であった。当時作成された日本地図も保管されており、昔からの日本との繋がりを実感した。
(国際室嘱託 佐藤暁子)
菊地会長らが福島第一原子力発電所などを視察
6月29日 福島県
日弁連の菊地裕太郎会長、副会長など16人が、昨年に引き続き東京電力福島第一原子力発電所などを視察した。
廃炉資料館と福島第一原発の構内を視察
福島県いわき市に入った一行は、福島県弁護士会の鈴木康元会長らの案内により、今も住民が避難を続けている広野町・楢葉町を北上し、昨年11月に開館した富岡町にある東京電力廃炉資料館を訪れた。
資料館では、廃炉作業に関する展示を見学し、東京電力の担当者から作業の進捗状況について説明を受けた。
その後、視察用バスで向かった福島第一原発構内では、車内から1〜4号機の原子炉建屋の外観を見学するとともに、廃炉作業関連設備などについて担当者の説明を受けながら1時間ほど視察した。
原発構内は今もなお大事故の衝撃を物語る状況であったものの、少しずつ廃炉作業が進んでいることが見て取れた。
今も続く住民の避難―広大な中間貯蔵施設を目の当たりに
続いて、本年1月大熊町に新設された中間貯蔵工事情報センターで担当者から説明を受け、除染に伴い発生した除去土壌や廃棄物、焼却灰等を貯蔵する中間貯蔵施設をバス車内から視察した。
施設は東京ドームの約340倍もの広さに及び、福島第一原発を取り囲む形で大熊町と双葉町にまたがっている。大熊町は町の大半が廃棄物置場となっている状態で、事故からの復旧に要する莫大な費用に一同大きな衝撃を受けた。
その後、事故から8年以上が経過した現在も住民が避難を余儀なくされている富岡町に入り、町内に一部残る帰還困難区域の状況を目の当たりにした。
視察を終え、菊地会長は福島県弁護士会の取り組みに対する謝意を述べ、日弁連として今後も弁護士会や関係機関と連携し、被災地の支援を継続していきたいとの決意を改めて表明した。
(事務次長 大坪和敏)
改正独占禁止法成立
6月19日、課徴金減免制度の見直しを主な内容とする「私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律の一部を改正する法律」が成立した。
課徴金減免制度とは、カルテルに関与した事業者が、そのカルテルについて自主的に競争当局に申告した場合、課徴金が減免される制度である。カルテルについての情報入手を容易にし、カルテルの摘発に資することを目的とする。
今回の改正は、公正取引委員会の調査に協力するインセンティブを高める仕組みを導入し、事業者と公正取引委員会の協力による効率的・効果的な実態解明などを行う領域を拡大するとともに、複雑化する経済環境に応じて適切な課徴金が課されるようにするものである。
【課徴金減免制度の改正】
減免申請による課徴金の減免において、新たに、事業者が事件の解明に資する資料の提出などをした場合に、公正取引委員会がその協力度合いに応じて課徴金の額を減額する仕組み(調査協力減算制度)を導入し、減額の対象となる事業者数の上限を廃止する。
【課徴金算定方法の見直し】
課徴金の算定基礎の追加、算定期間の延長など課徴金の算定方法を見直す。
【その他】
弁護士・依頼者間の通信秘密の保護(秘匿特権)として、弁護士との相談に係る法的意見等についての秘密を実質的に保護し、適正手続(独占禁止法76条2項参照)を確保する観点から、改正法の施行に合わせて、同条1項に基づき規則・指針等が整備される。
【今後の予定】
改正法は、公布日(6月26日)から起算して1年6か月の範囲内で、政令で定める日から施行される。
規則案、指針案は来年春ごろにパブリックコメントに付される予定である。日弁連は、依頼者の通信秘密の保護が実質的に確保された内容となるよう公正取引委員会との協議を続ける。
(事務次長 大坪和敏)
「全国一斉女性の権利110番」を実施
1991年、日弁連は両性の平等に関する委員会の前身である女性の権利に関する委員会の設置15周年を機に、各地の弁護士会の協力を得て、電話相談「全国一斉女性の権利110番」を実施した。以来現在に至るまで毎年1回「110番」を実施し、弁護士会によってはLGBTの権利に関する相談等についても対応している。
2019年度の「110番」は、6月23日から29日までの男女共同参画週間を中心に各地で実施され、7月5日現在の集計で約450件の相談が寄せられた。
直近5年の相談内容や相談者の年齢・職業などの傾向については大きな変化は見られず、相談内容としては、夫婦関係(離婚問題)が約半数を占め、続いて女性に対する暴力が10〜20%となっている。
相談件数は年により増減があるものの、1000件弱から500件程度の間で推移しており、近年はやや減少傾向にある。さまざまなツールが発達している今、電話や面談のような従前の手段が相談者にとって利用しやすいものであるかなども含め、減少の原因を分析・検討していく予定である。
(両性の平等に関する委員会第3部会 部会長 本田正男)
*「110番」の実施結果(統計情報)は日弁連ウェブサイトでご覧いただけます。2019年度の実施結果は、今冬をめどに掲載予定です。
日弁連短信
福島視察で思うこと
日弁連執行部による東京電力福島第一原子力発電所などの視察に同行しました。視察の概要については1面をご覧いただくとして、ここでは個人的に感じたことを述べたいと思います。
廃炉作業の進捗状況
東京電力廃炉資料館および福島第一原発の資料と説明によると、燃料デブリ(事故によって原子炉内の燃料が溶け落ち制御棒などと一緒に固まったもの)の取り出しは、2021年から始める予定とのことでしたが、元が燃料だけに高レベルの放射性物質を放出しており、本当に取り出しが可能なのか、取り出したデブリを安全に保管できるのかについては不安を覚えざるを得ませんでした。
がれきの処理や燃料の取り出しなど目に見える部分で少しずつ進捗は見られるものの、あと何十年かかるのかと思うと、その国民的な損失は計り知れないものです。
日弁連は、かねて公害対策・環境保全委員会においてこの問題に取り組んでおり、1976年の人権擁護大会では原子力の開発・利用とエネルギー政策に関して危険性と環境保全の観点から検討を促し、2000年の同大会では原発の新増設の停止と既存の原発の段階的廃止などを提言しています。これらが実現できていれば、このような悲惨な事態は避けられたのにと残念に思いました。
損害賠償について
視察のガイド役で原発事故被害の損害賠償請求に携わる渡邉淑彦会員(福島県)から、問題点について分かりやすい解説を受けました。その中で、1961年の「原子力損害の賠償に関する法律」(原賠法)の制定に際し、故我妻榮博士が部会長を務めた原子力災害補償専門部会が「被害者には、最終的には国が責任を負うべき」との趣旨の答申をしていたことを知りました。我妻博士が優れた民法学者であることは論をまちませんが、この見識の高さに改めて敬意を覚えました。残念ながら原賠法は、私企業が第三者に損害を与えた場合に国が補償をする理由はないという思想で成立し、今に至っています。
日弁連の課題
放射性廃棄物等の中間貯蔵施設に広大な土地が使用されていることや、今もなお帰還困難区域が残っている現状を目の当たりにしたことで、日弁連が今後取り組むべき課題について再確認する必要性を実感しました。とりわけ、2021年に満了が迫る損害賠償請求権の消滅時効期間の再延長に向けて至急取り組まなければならないと改めて思う次第です。
(事務総長 菰田 優)
難波ビデオ店放火殺人事件の再審請求支援を決定
日弁連は6月20日、いわゆる難波ビデオ店放火殺人事件の再審請求支援を決定した。
本件は2008年10月、大阪市浪速区難波の個室ビデオ店に入店したO氏が、放火して自殺しようと企て、持ち込んだキャリーバッグに火を放ち店舗を全焼させ、店舗内にいた16人を急性一酸化炭素中毒等により殺害し、7人は殺害に至らなかったとされる事件である。O氏は現住建造物等放火、殺人、殺人未遂の罪で起訴された。
O氏は公判で放火の事実を否認したものの、大阪地裁は2009年12月、科学捜査研究所技官の鑑定意見や捜査段階におけるO氏の自白などを根拠に死刑を言い渡し、2014年3月に最高裁で死刑判決が確定した。O氏は同年5月に再審請求を行ったが、大阪地裁、大阪高裁ともに請求を退け、最高裁も本年7月17日に特別抗告を棄却した。
捜査資料によれば、事件当日にO氏が利用していた18号試写室よりも、9号試写室の方が焼損状況が激しいことが明らかになっている。この点につき、弁護団が燃焼工学の専門家らに鑑定意見を依頼したところ、いずれも9号試写室が最初の火元である可能性が高いとの結論を得ており、確定判決が依拠した科捜研技官の鑑定意見に合理的な疑いが生じている。
O氏の自白についても秘密の暴露はなく、供述内容の変遷から捜査官の誘導もうかがわれ、その信用性には疑問が残る。
再審開始のために乗り越えるべきハードルは多いが、誤判の疑いがある以上、O氏の死刑執行を阻止しなければならない。日弁連は、再審開始に向けて、今後あらゆる支援を行っていく。
(人権擁護委員会第一部会 部会長 杉本周平)
日本における国際仲裁の振興に向けて
「UNCITRAL2006年改正モデル仲裁法を反映した法整備要綱試案」を公表
日本の仲裁法の現状
2003年に制定された日本の現行仲裁法は、UNCITRAL(国連国際商取引法委員会)の1985年モデル仲裁法に準拠しているが、その後、UNCITRALは仲裁廷の保全処分に執行力を認める内容を含む2006年改正モデル仲裁法を制定した。国際仲裁振興が進んでいる多くの国では、この2006年改正モデル仲裁法の改正事項を反映した国内仲裁法制の改正を行っているが、日本では改正対応を行っておらず世界水準から立ち遅れた状況にある。
課題 〜ソフト・ハード両面の整備
現在、東京で国際仲裁・ADR審問施設を開業する準備が進められているが、日本に国際仲裁を呼び込むためには、ハード面のみならず仲裁法改正をはじめとするソフト面の整備も急ぐ必要がある。政府の「国際仲裁の活性化に向けた関係府省連絡会議」が2018年4月に公表した中間とりまとめでも、仲裁関連法制の見直しの要否が検討課題として挙げられている。
要綱試案を公表
日弁連は2006年改正モデル仲裁法の改正事項について検討し、6月21日に「UNCITRAL2006年改正モデル仲裁法を反映した法整備要綱試案」を公表した。要綱試案は、①民事執行法上の債務名義の種類として仲裁廷が命じた暫定措置または保全措置であって執行決定があるものを追加すること、②仲裁廷が命じることができる暫定措置または保全措置の定義規定を仲裁法に置くこと、③仲裁廷の暫定措置または保全措置についての執行決定申立て規定を仲裁法に設けること、④仲裁廷の暫定措置または保全措置についての執行決定拒否事由の規定を仲裁法に設けることなどを内容としている。
日本の仲裁法および民事執行法等を2006年改正モデル仲裁法に準拠したものとするためには、仲裁廷が発した暫定措置または保全措置に執行力を付与することが必要であり、要綱試案の趣旨に沿った法改正が望まれる。
(国際商事・投資仲裁ADRに関するワーキンググループ 座長 鈴木五十三)
第6回
可視化実践経験交流会
6月29日 大阪弁護士会館
改正刑事訴訟法が本年6月1日から施行され、一部の事件について取調べの全過程の録音・録画制度が始まった。具体的な事例を基に、可視化時代の弁護実践について検討・意見交換を行った。当日は111人が参加した。
事例報告
各会員から以下の事例について報告があった。
① | 公判前整理手続における任意性判断の事実取調べで多数の署名押印のない調書が調べられた事例。 |
---|---|
② | 受刑中の別件取調べにおいて、警察官の不当誘導によって供述調書ができた事例。弁護人のアドバイスにより、取調べで警察官が誘導を認める映像を残すことができた。 |
③ | 共犯者多数の事件で、軽度の知的障がいを持つ被疑者の自白調書が作成された事例。検察官によるDVDの証拠請求に対し、裁判所は提示命令を出し、必要性なしとした。 |
④ | 母が娘と共謀したとされる殺人、死体遺棄事件で、検察官がいわゆる実質証拠としてDVDを請求したが、裁判所は必要性なしとし、殺人罪が無罪となった事例。 |
⑤ | 被告人が捜査段階で自ら虚偽の自白をした事例。 |
⑥ | 責任能力に争いがあり、検察官が請求した弁解録取のDVDを裁判所が却下した事例。 |
⑦ | いわゆる司法面接(協同面接)による事例。 |
⑧ | 取調べにおける弁護人立会いを実施した事例。 |
今後の弁護実践のために
川出敏裕教授(東京大学大学院法学政治学研究科)、取調べの可視化本部の秋田真志副本部長(大阪)、川﨑拓也幹事(大阪)によるパネルディスカッションでは、各事例の具体的問題点に加え、記録媒体の公判における必要性や関連性、それらの証明の程度、さらに実質証拠としての採用の問題などが議論された。また録音・録画以外の、いわゆる司法面接や弁護人の立会いなどにも議論が及び、今後の弁護実践のために有益なものとなった。
◇ ◇
(取調べの可視化本部 事務局次長 清水伸賢)
司法試験受験者向け
企業内弁護士セミナー
6月15日 弁護士会館
- 司法試験受験者向け企業内弁護士セミナー
司法試験受験者に対し、企業が求める人材、企業内弁護士の役割や業務内容、企業への就職活動に関するスケジュールや準備等について情報を提供するためのセミナーを開催した。(共催:東京弁護士会、第一東京弁護士会、第二東京弁護士会)
藤本和也会員(第一東京)は採用する企業の立場から、企業内弁護士の特徴の一つとして、特定の業界そのものに精通する点を挙げた。また企業やポジションによって、企業内弁護士がコントロールできる法的リスクの程度等が異なるため、置かれた立場を冷静に分析し、企業の方針に安易に追従しないことが肝要であると説いた。
上野陽子会員(第一東京)は採用された弁護士の立場から、企業内弁護士はさまざまな部署から相談されることをいとわない人に向いており、周囲を巻き込んで知恵を出し合い問題を解決する推進力が必要であると力説した。周囲を巻き込むには、仲間を助けたいという気持ちを常に持ち、身近な存在として、面倒な仕事も進んで引き受け、信頼関係を構築する姿勢が大切であると述べた。
東京三弁護士会就職協議会の川口里香議長(第一東京)は、企業内弁護士として企業に入る場合、「何をやりたいか」を明確にし、「その企業で何ができるか」を確認した上で自らの活躍の場を獲得するべきと強調した。
パネルディスカッション形式による質疑応答では、参加者から多数の質問が寄せられた。企業内弁護士の社内における位置付けをどのようにして知るのかとの質問に対し、藤本会員は、法務のトップの地位や経歴、企業における役職員の構成等からある程度推測できるとした。上野会員は、法務部の人数や全従業員に占める割合、社内の法務問題をすべて把握することができるか否か、異動の有無や内容、顧問弁護士に依頼する内容等からも一定程度推知できると指摘した。
第30回 日本弁護士連合会夏期消費者セミナー
集団的消費者被害回復の到達点と今後の展望
消費者団体訴訟の活用を目指して
7月6日 弁護士会館
- 第30回日本弁護士連合会夏期消費者セミナー「集団的消費者被害回復の到達点と今後の展望~消費者団体訴訟の活用を目指して~」
第30回となる今回は、集団的消費者被害に関する過去の取り組みと成果を振り返り、2016年10月に施行されたいわゆる消費者裁判手続特例法(以下「特例法」)に基づく裁判制度の活用など今後の展望を検討した。
基調講演
~特例法裁判制度と消費者集団被害事件
三木浩一教授(慶應義塾大学大学院法務研究科)は特例法裁判制度について、訴訟審理を共通争点と個別争点とに分けて共通争点の審理を先行させ、その後個別争点を審理する二段階の訴訟手続であること、特定適格消費者団体を訴訟の主体とすることなど概要を説明した。提訴を躊躇する少額多数の被害者の救済、迅速かつ効率的な審理の実現など制度の意義に言及する一方、当事者適格が限定される、特例法2条4号や3条4項により対象事件が限定されるといった問題点についても指摘した。
消費者問題対策委員会の大迫惠美子委員(東京)は、消費者集団被害事件を①個別の回収を目指す事件、②財産保全と平等分配を目指す事件、③債務不存在確認を主張する事件など解決方法により分類し、各事案類型ごとの特徴と問題点を解説した。
大髙友一幹事(第一東京)は、特例法裁判制度の運用状況を解説し、課題として①救済対象となる事案の範囲、②対象消費者への通知広告費用の負担や授権時の対応負担、③和解による柔軟な解決についての制度上の担保、④特定適格消費者団体の人的・財政的基盤を指摘した。特例法裁判制度も弁護団方式による集団的被害救済も一長一短であり、相互補完的に利用すれば相乗効果を生み出せる可能性があると提言した。
集団的消費者被害の回復のために
石田幸枝氏(公益社団法人全国消費生活相談員協会理事)が加わったパネルディスカッションでは、特例法裁判制度の今後について、弁護団方式との協働を積極的に取り入れるべき、多様化したコミュニケーションツールを活用し多くの被害者に対応できる仕組みを検討すべきなど、活発な議論が交わされた。
第2回
自治立法に関する総合研修
6月17日・24日 弁護士会館
弁護士が条例制定に関与する際に必要とされる実務的なスキルの向上を目指して研修会を開催した。
基調講演
~法・条例の実施場面を中心とした弁護士ニーズ
平田彩子准教授(岡山大学大学院社会文化科学研究科)が基調講演を行った。平田准教授は、法解釈・適用につき依拠すべき情報が乏しい場合、自治体職員は自治体間ネットワークの情報に依拠する傾向があり、自治体グループごとに法解釈・適用の傾向が異なることなどを指摘した。その上で、弁護士へのニーズとして、法解釈・適用の情報源となり自治体職員の背中を押す役割、コンプライアンス確保の役割などを挙げた。
事例発表
~豊田市不良な生活環境を解消するための条例(ごみ屋敷条例)
瀧薫子会員(豊田市職員/愛知県)が、自治体内弁護士としてごみ屋敷条例の原案作成から運用までに携わった経験を語った。瀧会員は、条例の立案から制定までの流れ、検討事項などを具体的に紹介し、弁護士が条例制定に関わることにより、迅速な判断、説得的な論拠の提示が可能となり、施行後の運用まで支援できると述べた。
罰則協議について
南部晋太郎氏(法務省刑事局刑事法制企画官)が、条例に罰則を設ける際の検察庁との罰則協議について説明した。南部氏は、罰則協議を受けた検察庁における検討方法や問題のある罰則の例などを紹介し、実効的な罰則制定のための罰則協議の有効性を述べた。
矛盾抵触が問題となる法律の調査方法
小澤毅夫氏(川崎市総務企画局総務部法制課課長)は、条例との矛盾抵触が問題となる法律の調査方法として、①法令用語、②規制事項等の性質・内容、③影響が想定される法令に関する文献・裁判例、④他の例規や他自治体の先行事例の4つのアプローチを挙げ、川崎市の条例を題材にこれらの用い方を説明した。
(法律サービス展開本部自治体等連携センター 条例部会幹事 鈴木康太)
2019年度 第1回
刑事施設視察委員会弁護士委員
全国連絡会議
7月3日 弁護士会館
全国各地の刑事施設(刑務所・拘置所)に設置されている刑事施設視察委員会では、地元の弁護士会から推薦された弁護士が委員を務め、多くの施設で委員長に選出されるなど、視察委員会の活動の中心的な役割を担っている。全国の弁護士委員による情報交換・経験の交流を通じて、視察委員会の活動を充実させ、刑事施設の運用改善に寄与することを目的として、本年度の第1回連絡会議を開催した。
はじめに、刑事拘禁制度改革実現本部の海渡雄一本部長代行(第二東京)から、視察委員会が設置されるに至った経緯、委員会に期待される役割や活動内容の具体例などについて説明があった。
続いて、事前に施設委員会の弁護士委員を対象に行ったアンケート調査の結果に基づき、各地の視察委員会の活動状況や課題などが報告された。提案箱に投入する意見書の用紙の交付を求めるのに願箋を必要とする施設では、願箋を求めるだけで意見書を投函することが施設側に知られてしまうため、自由に意見書を提出できない雰囲気があるなどの問題点が指摘された。当日の出席者によると、用紙の交付に願箋の提出を必要としない施設も少なくなく、施設によって運用が異なることが確認された。
そのほか笹森学会員(札幌)から、岐阜刑務所が、白内障の受刑者に低濃度の色つき眼鏡の使用を認めなかったこと、新聞・雑誌について入所時の廃棄同意を理由として一律に宅下げを拒否したことをいずれも違法とした裁判について、詳細な報告があった。
(刑事拘禁制度改革実現本部事務局次長 上本忠雄)
JFBA PRESS -ジャフバプレス- Vol.144
もっと知りたい!
日本弁護士政治連盟
日本弁護士政治連盟(以下「弁政連」)は、日弁連・弁護士会の目的を達成するために必要な政治活動および政治制度の研究を行うことを目的として設置された組織で、弁護士の会員のみで構成されています。
弁政連の活動について、村越進理事長(第一東京)、伊藤茂昭副理事長/組織強化委員長(東京)、谷眞人幹事長(東京)にお話を伺いました。
(広報室長 吉岡祥子)
弁政連だからできる活動
日弁連の主張を立法に反映させるには、国会議員の理解を得ることが不可欠です。しかし、強制加入団体である日弁連が国会議員や政党と交流や接触を行うことには、おのずから制約があります。任意団体である弁政連であればこそ、日弁連で検討している人権課題等のさまざまな政策を立法に反映させるために、積極的に日弁連と国会議員・政党との橋渡しの役割を果たせます。
日弁連の活動と連携して近時実現できた政策課題として、①司法修習生に対する経済的支援の実現、②国選弁護報酬の増額、③原発損害賠償請求権の時効特例法等が挙げられます。
重点的に取り組んでいる事項
日弁連と国会議員・政党との橋渡しの役割を果たすには、日頃から良好な関係を構築しておく必要があります。そのために、毎年春と秋に、弁政連主催で、日弁連執行部と各党の党首レベルを含む複数の国会議員との朝食懇談会を開催して、日弁連側からの課題の説明と意見交換をしています。また、国会議員の勉強会や政治資金パーティーに、弁政連役員が日常的に参加しています。さらに、国政選挙においては、偏りのない広い視野から、適正な選考による国会議員の推薦・支援活動を行っています。
法の支配が社会の隅々まで及ぼされるようにするには、弁護士が今までに増して、政治・行政の場で活躍することが必要です。そのために、弁護士が国会議員等に立候補するための支援や、政策秘書等への就任支援等を行っています。
このほか、他の士業団体も精力的に活動していますので、その政治連盟の動向にも気を配り、幹事長間の意見交換や理事長レベルでの懇親会も行っています。
弁政連での活動の魅力
弁護士として人権課題等に取り組むと、法の解釈適用の問題というよりは、法律そのものに問題があるのではと感じる場合が少なからずあります。法律に問題があれば、それを解消するための立法がなされれば課題の解決につながります。弁政連の活動が架け橋となって、弁護士会の委員会活動における課題や日弁連の政策課題について、国会議員等の理解を得られ、立法化が実現していくところに、活動の充実感があります。
弁政連出身者が国や地方自治体の議員に立候補したり、議員の政策秘書に就任することを支援することで、より強固な結びつきが形成できることにもやりがいを感じます。
また、日頃から国会議員等と接触して国政課題や重要法案に関する情報をいち早く入手することで、日弁連等の方針決定に向けて貴重な情報を提供することができます。国会議員や政党との勉強会、懇談会を開催したり、各地で首長や地元の議員と交流したりしていますが、こうした機会に、日頃は聞けないような、議員生活や政界の実態等を知ることができるのも魅力の一つです。
政党青年組織との交流や、若手国会議員との意見交換等も企画しており、若手会員も参加しやすい活動を心がけていますので、ぜひ参加いただきたいと思います。
議員、自治体等からの反響は
弁政連の広報誌である「弁政連ニュース」の座談会での発言が、議員の国会における発言に引用されるなど、その活動は注目されています。
また、支部の活動としては、たとえば、三重県支部では、毎年、「三重県内地方自治体に対する要望集」を作成してさまざまな政策課題につき提案を行っていますが、条例の制定や改正につながる成果を上げており、高い評価を得ています。
各政党から、もっと弁護士が国会議員になってほしいとさまざまな機会で言われており、今後も立候補支援や育成に尽力していきたいと思います。
会員のみなさまへ
弁政連は、強力な政治連盟を組織し、その政治力を活用して法改正に取り組んでいる他士業に比べると、まだまだ組織面でも脆弱なところがあります。日弁連の政策課題を実現するためには、弁政連の一層の組織強化が不可欠です。一人でも多くの会員に弁政連に加入していただきたいと切に願っています。
第62回人権擁護大会・シンポジウム(於:徳島市)にご参加を!
10月3日・4日、徳島市で第62回人権擁護大会・シンポジウムが開催されます。当日参加も可能ですので、ぜひご参加ください。
シンポジウム
2019年10月3日(木)12時30分~18時
第1分科会 取調べ立会いが刑事司法を変える
~弁護人の援助を受ける権利の確立を~
JRホテルクレメント徳島 クレメントホール
第2分科会 今こそ、国際水準の人権保障システムを日本に!
~個人通報制度と国内人権機関の実現を目指して~
あわぎんホール(徳島県郷土文化会館)
第3分科会 えん罪被害救済へ向けて
~今こそ再審法の改正を~
徳島グランヴィリオホテル グランヴィリオホール
大会
2019年10月4日(金)10時〜17時
あわぎんホール(徳島県郷土文化会館)
―――今年の秋は、徳島へ行こう! ―――
今年も人権擁護大会の季節がやってまいりました。人権擁護大会は日弁連最大のイベントで、今年は徳島で開催されます。徳島弁護士会は、会員数90人の小所帯ですが、四国遍路の「お接待の精神」で皆さまをおもてなしすべく、会を挙げて鋭意、準備に取り組んでいるところです。
人権擁護大会の目玉は、何といってもシンポジウムです。今年も3つのシンポジウムが開催されます。それぞれに趣向を凝らした内容が検討されていますので、ぜひとも多くの方にご参加いただきたいと思います。たまには、日常の喧騒から離れて、人権についてじっくりと思いを巡らせてみませんか。
そして、シンポジウムで最先端の人権課題に触れ、人権擁護大会で大いに議論した後は、徳島の食事や酒、そして観光を心ゆくまでご堪能ください。特に、徳島といえば阿波踊り。空港名からして「徳島阿波おどり空港」ですから、推して知るべしです。懇親会では、美味しい料理や地酒とともに、有名連の阿波踊りで皆さまを歓迎いたします。皆さまには、単に鑑賞するだけではなく、この機会にぜひ「踊る阿呆」になっていただきたいと思います。また、公式観光として用意したコースをはじめ、徳島の自然、歴史、文化を満喫できる見所も、たくさんあります。
どうですか、徳島に行きたくなりましたか。まだまだ間に合いますので、行こうかどうしようか迷っている方は、今すぐお申し込みください。徳島弁護士会会員一同、皆さまのお越しを心よりお待ち申し上げております。
(徳島弁護士会人権擁護大会実行委員会事務局長 上地大三郎)
ブックセンターベストセラー
(2019年5月・手帳は除く) 協力:弁護士会館ブックセンター
順位 | 書名 | 著者名・編者名 |
出版社名・ 発行元名 |
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1 | Q&A 若手弁護士からの相談374問 | 京野哲也・林 信行 編著/中川佳男・山田圭太・花房裕志・佐々木久実 著 | 日本加除出版 |
2 | 一問一答 新しい相続法 | 堂薗幹一郎・野口宣大 編著 | 商事法務 |
3 | 実務解説 改正相続法 | 中込一洋 著 | 弘文堂 |
4 | 概説 改正相続法 | 堂薗幹一郎・神吉康二 編著 | きんざい |
5 | 離婚調停[第3版] | 秋武憲一 著 | 日本加除出版 |
婚姻費用・養育費等計算事例集(中・上級編)新装版 | 婚姻費用養育費問題研究会 編 | 婚姻費用養育費問題研究会 | |
7 | 刑事弁護Beginners(ビギナーズ)ver.2.1[季刊刑事弁護増刊] | 現代人文社 | |
8 | 民事反対尋問のスキル | 京野哲也 編著 | ぎょうせい |
9 | 詳解 相続法 | 潮見佳男 著 | 弘文堂 |
一問一答 民法(債権関係)改正 | 筒井健夫・村松秀樹 編著 | 商事法務 | |
交通賠償のチェックポイント[実務の技法シリーズ4] |
髙中正彦・加戸茂樹 編著/ 荒木邦彦・九石拓也・島田浩樹 著 |
弘文堂 |
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ライブ実務研修人気講座ランキング 2018年12月~2019年3月
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順位 | 講座名 |
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1 |
改正相続法と家裁実務~遺産分割事件を中心として~ |
2 |
2018労働基準法改正(労働時間・有給休暇)の解説 |
3 |
民法(債権法)改正と倒産実務への影響 |
4 |
証拠の収集と効果的な提出~損害賠償請求を中心に~ |
5 | あきらめない情状弁護 |
6 |
中小企業の事業承継支援の全体像(入門編)連続講座 第2回「法務・税務・経営のポイント」 |
7 | セクハラ事案の防止・事後対応と弁護士の関与 |
8 | 弁護士が知っておくべき内部統制の基礎・事業会社の内部監査 |
9 | 相続税調査とその対応について |
10 | 法律事務所の事務処理ルール 第3回「判決後の実務(強制執行を中心に)」 |
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