個人が尊重される民主主義社会の実現のため、プライバシー権及び知る権利の保障の充実と情報公開の促進を求める決議

2013年6月、元NSA(米国国家安全保障局)局員エドワード・スノーデン氏は、米国政府がインターネット関連企業の協力を得て、全世界のインターネット上のデータを監視できる情報環境を作り、秘密裏に活用していた実態を内部告発し、世界を震撼させた。同氏の内部告発は、国家が高度デジタル技術等を用いて国境を越えて秘密裏に個人の行動を過去にまで遡って監視することが可能な社会(超監視社会)の下で、プライバシー権が脅かされている実態と、国家が隠匿していた公的情報が内部告発等により市民に公開されることの重要性を明らかにした。
 

日本においても、インターネット、監視カメラ、GPS装置など、大量の情報を集積する技術が飛躍的に進歩し、マイナンバー(共通番号)制度も創設された。また、「組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律等の一部を改正する法律」(以下「組織犯罪処罰法改正法」という。)により、いわゆる「共謀罪」が多数新設されたことで、市民に対する監視が強化されることへの懸念も指摘されている。
 

公的情報の公開については、特定秘密の保護に関する法律(以下「秘密保護法」という。)が施行され、政府が恣意的に情報を隠匿する懸念が高まる中、PKO派遣部隊の日報や学校法人の獣医学部設置の過程文書が不存在扱いされ、また、学校法人への国有地売却経緯に関する文書を行政機関の判断だけで短期間で廃棄したとされるなど、情報公開と国民の知る権利を軽視する運用が政府によってなされている。
 

このままでは日本は、保護されるべき私的情報が国家により自由に収集・利用され、公開されるべき公的情報が公開されない国になってしまいかねない。こうした現状に歯止めをかけ、個人が尊重される民主主義社会を実現するためには、プライバシー権及び知る権利の保障を充実させるとともに、情報公開の促進を図ることの重要性を改めて確認する必要がある。
 

人は監視されていると感じると、自らの価値観や信念に基づいて自律的に判断し、自由に行動して情報を収集し、表現することが困難になる。すなわち、プライバシー権及び知る権利は、個人の尊重にとって不可欠な私的領域における人格的自律を実現するとともに、表現の自由の不可欠な前提条件となっており、立憲民主主義の維持・発展にも寄与する極めて重要な人権である。
 

したがって、大量の情報が集積される超監視社会とも呼ぶべき現代にあって、個人が尊重されるためには、公権力により監視対象とされる個人の私的情報は必要最小限度とし、公権力が私的情報を収集、検索、分析、利用するための法的権限と行使方法等を定めた法制度を構築すべきである。
 

また、個人が尊重される民主主義社会の実現のためには、その手段である民主制の過程が健全に機能しなければならない。代表民主制下において国民が自律的に代表者を選任し政策形成に参加するためには、公的情報が国民に対して十分に公開されていることが不可欠である。そのためには、知る権利の保障の充実と、情報公開を促進する制度の整備が必要である。
 

さらに、知る権利には、メディアによる自律的な報道や内部告発による権力監視が大きく奉仕するのであり、これらを萎縮させない仕組みの構築も重要である。
 

こうした知る権利及び情報公開の重要性に照らせば、行政機関をして重要な政策決定に係る意思形成過程の公的情報は必ず記録・保存させ、恣意的な秘密指定や廃棄を許さず広く公開させるとともに、権力監視の仕組みを強化する必要がある。
 

以上を踏まえ、当連合会は以下の具体策を提言する。


1 超監視社会におけるプライバシー権保障の充実


(1) 公権力が、自ら又は民間企業を利用して、あらゆる人々のインターネット上のデータを網羅的に収集・検索する情報監視を禁止すること。


(2) 監視カメラ映像やGPS位置情報などを取得し、それを捜査等に利用するに際して、これを適正化するため、新たな立法による法規制を行うこと。


(3) 捜査機関による通信傍受の対象犯罪を更に拡大し、また、会話傍受を可能とする立法を行わないこと。加えて、通信傍受の適正な実施について独立した第三者機関による監督を制度化すること。


(4) 市民監視を拡大し、市民の自由を著しく萎縮させるおそれの強い、組織犯罪処罰法改正法によって多数新設された、いわゆる「共謀罪」の規定を削除すること。


(5) 公安警察や自衛隊情報保全隊などの情報機関の監視権限とその行使について、法律により厳格な制限を定め、独立した第三者機関による監督を制度化すること。


(6) マイナンバー制度が、あらゆる個人情報の国家による一元管理を可能とする制度となり、市民監視に利用されることのないよう、制度上・運用上の問題点を明らかにし、廃止、利用範囲の大幅な限定、民間利用の禁止等の対応を行うこと。


2 知る権利の保障の充実のための情報公開の促進と権力監視の仕組みの強化
 

(1) 公的情報の公開、保存及び取得に関し、基本理念と基本事項を定める情報自由基本法(仮称)を制定すること。


(2) 行政機関の保有する情報の公開に関する法律(以下「情報公開法」という。)等を改正し、本来市民が入手すべき情報を、行政機関が恣意的に隠匿できない情報公開制度を確立すること。


(3) 公文書等の管理に関する法律(以下「公文書管理法」という。)上、電子データが「行政文書」とされていることを踏まえて、全ての電子データを長期間保存することとし、また、行政文書の恣意的な廃棄等が行われないよう監視するために独立性の強い第三者機関を設けること。


(4) 秘密保護法について、廃止を含めた抜本的見直しを行うこと。
 

(5) 内部告発者の保護を強化するとともに、公益通報制度を周知すること。
 

(6) メディアによる権力監視を一層強化するために、自律的に多様な報道を行うことが促進される仕組みを構築すべきであること。
 

当連合会は、上記提言を実現すべく全力を尽くしていく決意である。
 

以上のとおり決議する。

 

2017年(平成29年)10月6日
日本弁護士連合会


提案理由

第1 はじめに

1 「テロとの戦い」を大義に進められる監視の強化

2013年6月、元NSA(米国国家安全保障局)局員エドワード・スノーデン氏は、英国及び米国の新聞記事を通じて、米国政府がインターネット関連企業の協力を得て、全世界の人々のインターネット上のデータを取得し、いつでも検索し、行動監視できる情報環境を作り運用していたことを、世界に向けて暴露した。そこには、同盟国か敵対国かの区別はなく、人の社会的地位の区別もない。こうした同氏の内部告発に、世界中の人々は驚愕し、恐怖し、怒り、各国の政府要人たちも怒りをあらわにした。
 

ところが、諸外国の政府の対応と異なり、日本政府はこの件に関して目立った抗議の意思も表明せず、今のところ黙殺している。
 

しかし、これは他人事ではない。日本でも昨今、市民監視に利用可能なデジタル化された監視技術やマイナンバー制度などの社会基盤が着々と整備されつつある。米国の上記監視システムが「9.11同時多発テロ」をきっかけに「テロとの戦い」のために作られた愛国者法を基盤にしていたことを踏まえれば、テロや犯罪防止を理由に監視や警察権力の強化を正当化しようとしている日本でも米国と同様のことが行われる危険性がある。
 

実際、スノーデン氏がメディアに提供した文書により、NSAが日本の情報機関などに対し、インターネット上の電子メールなどの情報を収集・検索できる「XKEYSCORE」と呼ばれる監視システムを提供していたことが明らかになったと報じられている。
 

2 スノーデン氏の内部告発が示唆したこと

スノーデン氏の内部告発が明らかにした現代の監視社会の特徴とは、以下のとおりである。
 

それは第1に、政府がインターネット関連の大企業と手を組めば、高度デジタル化技術と大規模なインフラを手段としてあらゆる人々の行動監視が可能となる言わば超監視社会であること、第2に、政府の監視対象とされた市民は、テロや犯罪防止の名の下に、過去に遡ってまでプライバシー情報を探索されかねないこと、第3に、このような政府による市民監視は通常秘密裏に実施されることである。
 

他方、スノーデン氏による暴露の経緯と結果は、超監視社会における後述の諸課題を解決するための教訓をも示している。
 

第1に、この暴露がスノーデン氏の決死の内部告発によって実現したということ、第2に、フリージャーナリストたちと複数の新聞社が国境を越えて連携し、政府と深刻な対立を生じることを覚悟した上で世界に向けて報道したことにより、超監視社会の問題を世界的に明らかにすることができたこと、第3に、国際的な批判により、秘密裏かつ無制限に行われていた米国による大量情報監視に一定の歯止めをかけることができたこと、第4に、世界の人々がスノーデン氏の内部告発を正当なものと評価し、スノーデン氏の保護を求めたことで、スノーデン氏の生命が守られ、言論活動が継続できていること、である。
 

これらのことから、現代の超監視社会において個人が尊重される民主主義社会を実現するためには、以下の3点が重要であることが示唆される。
 

第1に、プライバシー権の持つ価値の高さを再認識することである。プライバシー権は、テロや犯罪の助長につながる私事や悪事を隠すための権利ではなく、個人の尊重の基礎である人格的自律の確立に不可欠であり、表現の自由に直結し立憲民主主義の維持発展に寄与する極めて高い価値を持つ人権である。
 

第2に、公的情報の公開あるいは内部告発の重要性を確認することである。スノーデン氏の内部告発により公開されなければ、米国の大量情報監視の実態は現在でも国民には知らされず、批判や一定の歯止めをもたらすこともなかった。
 

第3に、権力監視の仕組みを強化することである。政府等に情報を公開させるためには、情報公開制度の確立のみならず、内部告発者の保護や報道の自律性の強化が不可欠である。

 

第2 プライバシー権が実現する価値

1 プライバシー権は何のためにあるか

超監視社会の下にありながら、我が国の市民社会では、プライバシーへの重大な脅威に対する危機感の高まりは余り感じられない。その一因には、市民監視に利用し得る技術が、犯罪防止や犯罪捜査に一定の成果を挙げていることが考えられる。そのため、監視はテロや犯罪の防止に役立つのに対して、プライバシー権は、それらの助長につながるやましい「私事や悪事を隠すための権利」にすぎず、その尊重の必要性は監視の必要性よりも劣後すると誤解されやすい。
 

プライバシー権の保障の意義は、果たしてそれだけに限られるのか。
 

約70年も前、ジョージ・オーウェルの近未来小説『1984年』は、全ての市民がテレスクリーンという装置を通じて国家権力によってあらゆる私生活を監視される社会を描き出した。この社会では、ただ私生活を「放っておいてもらう」ことができないのみならず、私的領域において主体的に思考、行動し、他者と交わることが許されず、監視者の意を受けた生き方を余儀なくされ、その主体性が失われていく。人は、監視されていると感じている状況においては、真に自由に主体的自律的に思考し、行動し、表現することが困難になることが、そこでは明らかにされている。プライバシーの侵害は、個人の人格を奪うことにつながるのである。
 

スノーデン氏は、このプライバシーの重要性について、「個人には自分の信じるところを決定して表現するまでに他人の偏見や決めつけを逃れて、自分自身のために考える自由が必要です。プライバシーは個人の権利の源なのです。」と鋭く指摘した。
 

すなわち、プライバシー権は、単に「一人にしてもらう権利」にとどまらず、公権力が侵すべきでない個人の私的領域を守り、個人の主体的な自己実現を可能とするための「個人の権利の源」となる重要な人権と言うべきなのである。
 

さらに、表現の自由は、内心における自由な自己決定に基づいて行使されるべき権利であるところ、私的領域における個人の主体的な自己実現があってこそ初めて自由な表現行為に到達できる。このため、上記の内実を持つプライバシー権は、表現の自由に直結する重要な人権とも言うべきであり、プライバシー権は、私的領域の確保にとどまらない、立憲民主主義の維持発展にとっても不可欠な、国家や社会に対する批判的精神をも備える個人の自律性を醸成するための権利であると捉えられる。


2 超監視社会における個人の尊重の実現

現代の超監視社会は、かかるプライバシー権の価値を脅かし、個人の人格的自律性を損ない、立憲民主主義の破壊にもつながる大きな危険をはらんでいる。
 

かかる社会状況に鑑みると、個人が尊重される民主主義社会を実現するためのプライバシー権の重要性を踏まえて、公権力等により監視対象とされる個人の私的情報は必要最小限度とし、公権力等による私的情報の収集、検索、分析、利用に関する法的権限と行使方法等を定めた法制度を構築すべきである。


第3 情報公開、権力監視及び知る権利の保障の充実がもたらす価値

1 プライバシー権と知る権利の関係

個人が尊重されるためには、プライバシー権が保障されることにより、個人が自分の信念や価値観に基づき自律的に行動し、表現できる私的領域が確保されることが重要である。そして、この権利が個人の表現の自由を支えるものともなっている。
 

ところが、いかに私的領域が確保されたとしても、国民が社会的に重要な情報を知らされていない状態に置かれていては、自らの思想良心を形成し、自己実現と自己統治をなし得る個を確立することはできず、主権者として正しく意見表明、行動することもできない。オーウェルが描いた世界の中では、国家権力に都合が良いよう事実と歴史を隠蔽、改ざんし、その情報を監視装置でもあるテレスクリーンで流し続け、まさに国民監視と情報操作を両輪として国民を支配する道具として用いていたのであり、このことは、プライバシー権と知る権利があいまって保障されなければならないことを象徴している。
 

国民をして自律的に行動できる個を確立し、真の主権者たらしめるためには、国民に知る権利と情報公開が保障されなければならない。

 

2 情報公開は国民主権原理から導かれる政府の説明責任(アカウンタビリティ)であること

公的情報に関しては、この1年間に限っても、PKO日報や学校法人加計学園の獣医学部新設の過程文書など重要な公文書が不存在扱いされ、あるいは学校法人森友学園に対する国有地売却経緯に係る資料を短期間で廃棄したとされるなどの運用がなされている。さらに数年前に遡れば、原発事故をめぐる原子力災害対策本部の議事録未作成問題や、安全保障政策の大転換のきっかけとなった集団的自衛権の解釈変更をめぐって内閣法制局が閣議決定前の内部検討の経緯を記した議事録を作成しなかった問題なども記憶に新しい。
 

このように、重要な公文書が作成されなかったり、安易に廃棄されてしまう背景には、情報公開が国民主権原理から導かれる行政機関の義務としての説明責任であるとの認識の欠如がある。

 

3 健全な民主制の過程と真の国民主権の実現

民主制の過程が健全に機能するためには、政府が国民に対して説明責任を果たすことが不可欠である。
 

政府の説明責任は、国民主権原理の当然の帰結として導かれる。すなわち、主権者である国民の信託を受けている政府は、国民に対して、自らの諸活動を説明する責務を負わなければならず、この責務が果たされなければ、主権者は「情報を与えられた市民」とは言えず、真の主権者とは言えない。公的情報が公開されてこそ、国政に対する理解と批判を踏まえて、主権者としての責任ある意思形成が可能となる。このようにして形成された民意が国政に反映されることにより、日本の国民主権原理が採用している代表民主制はその効果を最大限に発揮するのである。


4 メディアによる知る権利への奉仕と権力監視の重要性

インターネットの発展により一般市民からの情報発信が活発化している現代社会においても、政府等の行政機関による情報公開やメディアによる報道が市民にとって公的情報を知るための重要な手段であることは変わらない。
 

主権者としての意思形成を可能にするために政府等の行政機関に対して情報開示を請求する権利は、市民の知る権利の具体化であり、報道は公的情報の伝達機関として、市民の知る権利に奉仕している。
 

しかし、重要な政治課題に関して市民が日常的に情報公開請求を行い、公開された情報を的確に分析し、社会に問題提起をすることは、非現実的である。政府等による情報公開が促進されたとしても、文書未作成、短期間での廃棄、不開示、虚偽説明などにより、国民に対して情報が隠蔽される事態はなくならないであろう。民主主義社会にあっては日常的な権力監視こそが重要な課題であり、それを担うのがメディアである。メディアは、自らの主体的な判断により情報を収集し、自律した報道を行うことにより権力を監視するのである。これは、市民の知る権利を拡大充実させるものとして極めて重要である。
 

メディアのこのような役割からすると、政府による報道への介入や秘密保護法における罰則による取材規制などは、市民社会にとって極めて深刻な問題である。


5 情報公開の促進と知る権利の保障の充実のために

民主制の過程が健全に機能するための知る権利及び情報公開の重要性に鑑み、行政機関をして、重要な政策決定に係る意思形成過程等の公的情報は必ず記録、保存させ、恣意的な秘密指定や廃棄を許さず、広く公開させるとともに、権力監視の仕組みを強化する必要がある。

第4 超監視社会におけるプライバシー権の保障の充実のための具体策

当連合会は、第2で述べたところを踏まえ、現代の超監視社会におけるプライバシー権保障の充実のため、以下の具体策を提言する。


1 公権力が、自ら又は民間企業を利用して、あらゆる人々のインターネット上のデータを網羅的に収集・検索する情報監視を禁止すること

2017年4月24日、スノーデン氏から文書の提供を受けたアメリカの報道機関は、NSAが日本に対しても、「XKEYSCORE」と呼ばれるインターネット上の電子メールなどを網羅的に収集・検索できる監視システムを2013年に提供していたことを、明らかにした。
 

報道によると、この監視システムにより、一般のインターネット利用者がネット上でやり取りするほぼ全ての電子情報が監視できるという。このシステムが現実に使用されれば、日本で生活する全ての人々のプライバシーや通信の秘密などを侵害する重大な人権侵害となる。


2 監視カメラ映像やGPS位置情報などを取得し、それを捜査等に利用するに際して、これを適正化するため、新たな立法による法規制を行うこと

現在、監視カメラの設置については法規制がなく、警察、事業者、商店街、個人等多様な設置主体によって、都市部を中心として、全国的に設置が進められている。また、近時は、タクシーやバス、電車、新幹線など、交通機関への監視カメラの設置も急増している。その背景には、警察や自治体による安全安心社会のための設置の推奨と、監視カメラの価格の低廉化がある。また、監視カメラで記録される顔画像データが高度化し、個人識別のための顔認証システムへの利用も着実に進みつつある。
 

監視カメラが防犯に一定の効果を持ち、その映像が被疑者の早期検挙等、犯罪捜査に役立っているのも事実である。しかし、一方で、監視カメラは、常時、無数の人々の行動を記録し、被撮影者の知らない所での再生や確認も可能であり、管理運用や利用の仕方によっては、無数の人々の肖像権やプライバシー権を侵害することになる。さらに、顔認証システム機能が濫用されれば、膨大な監視カメラ画像から特定の個人を検索し識別することにより、特定の人の行動を過去に遡って監視することさえ可能となる。
 

そして、民間の設置者が、監視カメラ映像を捜査機関へ安易に提供することが一般的となれば、捜査機関は、あらゆる監視カメラ映像を容易に入手できることとなり、日本社会は捜査機関による常時監視が可能な社会になってしまう。
 

また、最近、捜査機関が無断でGPS発信装置を捜査対象者の車両等に取り付け、捜査対象者の位置情報や移動履歴を把握する捜査手法について、その違法性が問題となっている。GPS機能を用いた位置情報は、技術の進歩により、極めて正確な位置の特定が可能となっており、無限定かつ継続的に位置を把握し続けることもできる。GPS機能を利用した追跡捜査は、これまで法規制がないまま任意捜査として行われてきたが、2017年3月15日最高裁大法廷判決は、こうした捜査が違法であり、現行の令状主義になじまず、捜査を合法化するためには新たな立法が必要であるとした。
 

さらに、GPS機能付き移動端末の位置情報を捜査機関が取得する捜査手法については、電気通信事業者側に提供の制限を設けるガイドライン(総務省告示)が定められ、裁判官の令状があることと、利用者の移動端末に表示することで利用者に知らせることとしていたが、2015年のガイドライン改正では、令状があれば、利用者に知らせる必要はないとした。
 

監視カメラやGPS機能を利用した捜査が、何らの法規制もないまま、捜査機関の判断によって無限定に拡大していけば、プライバシー権が過度に侵害されるおそれがある。したがって、個人情報の収集、利用・第三者提供、保管、廃棄の各場面において、これまで積み重ねられてきた裁判例を参考に、捜査の必要性とプライバシー権保護との比較衡量を行いつつ、新たな立法による法規制を行い、捜査利用の無限定な拡大に歯止めをかける必要がある。


3 捜査機関による通信傍受の対象犯罪を更に拡大し、また、会話傍受を可能とする立法を行わないこと。加えて、通信傍受の適正な実施について独立した第三者機関による監督を制度化すること

2016年5月、犯罪捜査のための通信傍受に関する法律(以下「通信傍受法」という。)の改正法が可決・成立した。これまで薬物・銃器・集団密航・組織的殺人に限定していた対象犯罪を、傷害、窃盗、詐欺などまで拡大するとともに、プライバシー権等の侵害の危険性から必要とされていた、通信事業者等の常時立会いを不要とする法改正である。
 

そもそも通信傍受の対象となる通話の内容は、事前に確実性をもって令状が想定する、犯罪に関する会話とは限らない。むしろ、それ以外の会話がなされる可能性が高い。加えて、傍受されている当事者は、傍受されていることを知らない。このような捜査手法は憲法が保障する通信の秘密やプライバシー権を著しく侵害するものであることは明らかであるだけに、認められる範囲は、捜査の必要性に照らし、必要最小限度にとどめる必要がある。対象犯罪の拡大は、プライバシー権等の侵害の場面を増大させるものであるから、現行法以上に拡大すべきではない。
 

プライバシー権等の侵害の問題は、現在の令状の運用でも発生している。公表された通信傍受の実施状況によれば、無関係通話が傍受実施通話の約83%を占めるとのことである。これらの通話は、本来傍受されるべきではないものだったのである。通信事業者等が立ち会っていても、このような過剰な通信傍受が行われていたことからすれば、通信事業者等の立会いがなくなる通信傍受法改正法の下では、なおさらのこと、過剰な通信傍受が行われる危険性が高い。
 

そうであれば、法律で許容された通信傍受についても、その適正な実施を担保するためには、実施を監視する機関を設置することが不可欠である。衆議院法務委員会及び参議院法務委員会の附帯決議でも、該当性判断のための傍受又は再生を行う際に通信の秘密及びプライバシーの保護に十分に留意して厳正に実施することを求めてはいるが、被侵害利益の重要性と原状回復の不可能性に鑑みれば、令状主義によるチェックのみならず第三者による監視が必要不可欠である。
 

具体的には、捜査機関から独立し、専門的知識を有し、かつ守秘義務を負う第三者によって構成される監視機関が、捜査機関による傍受の実施状況、傍受装置及び傍受した通信の記録等を監視又は検査し、不適正な実施と判断したときは、傍受の実施の中止や傍受記録の消去を命じるなどの措置を講ずることができる仕組みを構築すべきである。
 

他方で、現時点では法制化が見送られているが、通信傍受法の対象犯罪の拡大を取りまとめた「法制審議会・新時代の刑事司法制度特別部会」では会話傍受の導入が議論されていた。しかし、会話傍受は、一たび傍受機器が設置されると、時間的にも内容的にも無制約に傍受できてしまうだけに、通信傍受以上にプライバシー権を侵害するおそれの高い捜査手法であるから、これを許容すべきではない。


4 市民監視を拡大し、市民の自由を著しく萎縮させるおそれの強い、組織犯罪処罰法改正法によって多数新設された、いわゆる「共謀罪」の規定を削除すること

いわゆる「共謀罪」の創設を含む組織犯罪処罰法改正法(同法における「テロ等準備罪」)が、本年6月15日に可決・成立し、7月11日に施行された。
 

既に秘密保護法の中に共謀罪処罰が規定されていたが、組織犯罪処罰法改正法の施行により、現行法上未遂の段階に至っても処罰されない犯罪を多数含む277もの犯罪が、未遂にも予備にも至らない共謀及び準備段階で処罰されることとなった。
 

処罰範囲が不明確な現状の中、対象犯罪が大幅に拡大されたことは、今後、客観的な痕跡の残りにくい「共謀」事実や、日常的な行為と区別がつきにくい「準備行為」を捜査するという理由で、捜査機関が犯罪とは無縁の市民の行動や言動などを監視するようになるおそれがある。実際、衆議院法務委員会での審議において、計画(共謀)よりも前の段階から尾行や監視が可能となることが明らかになった。
 

その捜査手法として、官民の監視カメラ映像の活用、さらにGPS位置情報の収集が広く利用されるようになることは必至である。通信傍受範囲の更なる拡大や会話傍受の法制化が実現すれば、市民生活の監視が著しく強化されることになる。また、組織犯罪処罰法改正法の自首減免規定は、密告を助長するものであり、市民間の相互監視を促進することになる。
 

その結果、監視社会化が更に進み、国民のプライバシー権は日常的に侵害の危機に晒され、言論・表現の自由は著しく萎縮するに違いない。
 

このような問題状況からすれば、共謀罪の規定を削除すべきであるとともに、それが実現するまでは、本決議で提案している事項も含めた運用の監視が必要である。


5 公安警察や自衛隊情報保全隊などの情報機関の監視権限とその行使について、法律により厳格な制限を定め、独立した第三者機関による監督を制度化すること

2007年、陸上自衛隊情報保全隊(その後、自衛隊情報保全隊に組織変更)が、自衛隊のイラク派遣に反対する全国の市民を広汎に監視していることが判明した。この事件に関しては、国家賠償請求訴訟において、最高裁でも一部の監視行為を違法としている。
 

2010年には、公安警察が収集したと思われる、600人以上のイスラム教徒の監視データ等が流出した。
 

2014年には、岐阜県警察大垣署警備課によって収集されたと考えられる風力発電施設建設に反対する市民の行動の監視データが電力会社の子会社に提供されていたことが判明した。
 

これらの事件に共通するのは、個人情報を収集された者が特に触法行為をしたわけではなく、一市民として普通に生活し、憲法上の人権(言論・表現の自由等)を行使しているにすぎないこと、個人情報を収集する側には個別具体的な収集権限の根拠法がないことである。公権力のこのような活動が市民の日常生活や政治的活動を萎縮させ、思想・良心の自由やプライバシー権を強く制限することが明らかである点に鑑みれば、情報機関の独断で市民に対する広汎な監視をすることは認められるべきではない。組織犯罪処罰法改正法が施行された現在、このことは一層強く指向されるべきである。
 

そして、規制の遵守を担保するためには、十分に実効的な権限と専門性を持つ、情報機関から独立した第三者機関による監督がなされるべきである。
 

この点に関連して、ジョセフ・カナタチ国連特別報告者は、組織犯罪処罰法改正法案の国会審議を受け、「警察などに監視活動の権限を与える法令には、監視される個人がアクセスできる有効な手続的救済方法を備えなければならない」、「監視技術の発展、とりわけスノーデンの暴露を受けてみると、このような(第三者)機関は、民主社会においてプライバシー権、表現の自由その他の基本的人権が生き長らえ、繁栄するために最低限必要な保護機構である」と提言している。


6 マイナンバー制度が、あらゆる個人情報の国家による一元管理を可能とする制度となり、市民監視に利用されることのないよう、制度上・運用上の問題点を明らかにし、廃止、利用範囲の大幅な限定、民間利用の禁止等の対応を行うこと

いわゆるマイナンバー法の運用が2016年1月1日から開始し、国民等に割り振られた個人番号が、税・社会保障等の分野で利用されるようになった。
 

のみならず、参議院内閣委員会の附帯決議には、民間利用の検討まで盛り込まれており、実際に、運用開始に先立って、預金口座に個人番号を紐付けるための法改正が行われている。個人番号と官民に存在する多種多様なパーソナルデータ(個人に関する情報のうち、単体では個人の特定・識別につながらないもの)を紐付ければ、個人識別情報(住所・氏名・性別・生年月日など)を利用した名寄せ以上に、多くのパーソナルデータを容易に結合できる状況となる。
 

民間には、特定個人の行動や嗜好等を解析し得る情報があふれており、移動端末の位置情報や電子乗車券の乗車履歴を解析することで、特定個人の一日の動きが推測できるし、電子マネーやポイントカード、ウェブサイトの購入履歴や閲覧履歴を解析すれば、特定個人が興味を持つ商品や本などが把握できる。
 

今後の法改正によって個人番号を利用できる事務が拡大し、個人番号を利用した情報の紐付けが可能となれば、国家による特定の個人の監視も可能となる。しかも、捜査機関が個人番号付きの個人情報を取得・利用した場合については、マイナンバー法上、国民等がこれを確認する仕組みも、個人情報保護委員会がチェックする仕組みもない。
 

マイナンバー制度が、あらゆる個人情報の国家による一元管理を可能とする制度となり、市民監視に利用される危険性を含む制度であることからすれば、そのようになることを未然に防ぐ必要がある。


第5 情報公開の促進と権力監視の仕組みの強化のための具体策

当連合会は、第3で述べたところを踏まえ、健全な民主制の過程と真の国民主権を実現し、市民の知る権利の保障を充実するため、情報公開の促進と権力監視の仕組みを強化する具体策を提言する。


1 公的情報の公開、保存及び取得に関し、基本理念と基本事項を定める情報自由基本法(仮称)を制定すること

現在の日本政府等の行政機関には、公的情報を国民に隠そうとする体質が強く認められる。その背景には、情報公開が国民主権原理の当然の帰結として導かれる政府の説明責任(アカウンタビリティ)であることや、情報公開が市民の知る権利と健全な民主制の過程の実現に資する高い価値を持つことについての認識の欠如がある。
 

このような状況を踏まえ、当連合会は、憲法第21条第1項の保障する市民の知る権利を具体化し、かつ発展させるために、「情報自由基本法(仮称)」を制定すべきことを提言している(2016年2月18日付け「情報自由基本法の制定を求める意見書」)。
 

この提言は、「国民主権の下において、公的情報は本来、国民の情報である」と明確に位置付け、公的情報の公開、保存及び取得に関し、基本理念を定めるとともに、国及び地方公共団体等の責務を明らかにすることを求めている。


2 情報公開法等を改正し、本来市民が入手すべき情報を、行政機関が恣意的に隠匿できない情報公開制度を確立すること

公的情報に国民の側からアクセスできる制度として情報公開制度があるが、そこでの法律及び条例は、いずれも不開示事由が広範に過ぎ、行政にとって不都合な情報が充分に開示されず、行政の恣意的な運用を許している。
 

例えば、市民団体が秘密保護法の可決前に行った情報公開請求では、立法過程の協議資料や法案という重要部分が全く開示されなかったが、同法が成立するや、不開示対象文書の95%が開示されるという事態が起きている。安全保障関連では、情報公開請求に対して日米合同委員会の議事録が不開示とされながら、別件訴訟では国が同じ文書を証拠として提出したという事態が起こっている。
 

当連合会は、更なる情報公開の促進のため現行法の改正を求めてきたが、未だ実現していない。
 

また、立法府や司法府の保有する情報の公開については、現在でも法律が存在せず、国民の権利として認められていない。さらに、民間企業は、新関西国際空港株式会社など一部の例外を除き、多額の公金が投入されている企業であっても情報公開制度の対象になっていない。しかし、国民主権原理の下では立法府や司法府の情報も情報公開の対象とすべきであり、また、公金が多額投入された電力会社や環境に重大な影響を与える事業を行う企業等の社会的影響に鑑みれば、それらが保有する、広く社会一般の利益や生活に関わるような「公益情報」も、情報公開制度の対象とされるべきである。


3 公文書管理法上、電子データが「行政文書」とされていることを踏まえて、全ての電子データを長期間保存することとし、また、行政文書の恣意的な廃棄等が行われないよう監視するために独立性の強い第三者機関を設けること

情報公開請求は作成された文書等について行われるものであるから、作成すべき文書等が作成されていない場合や、保存されるべき文書等が廃棄されている場合には、開示されない。情報公開制度が十分に機能するには、公文書管理制度が適正に運用されている必要がある。昨今、政治問題になっている南スーダンPKO派遣部隊の日報問題、森友学園問題、加計学園問題の混乱は、いずれも公文書管理法の運用が深く関わっている。
 

南スーダン日報問題は、実際には自衛隊内の複数の場所に電子データが存在しながら、情報公開請求に対して、防衛省が「文書不存在」と回答し、「文書を既に廃棄して存在しない」と説明したことに、混乱の発端がある。森友学園問題では、国有財産が廉価で売約されることとなった過程について、交渉記録を公にするよう求められた財務省が「契約成立により廃棄した」と答え、交渉記録を公にしないことが問題になっている。加計学園問題では、獣医学部の設置が許可された検討過程が記載された文書が、所管官庁である文部科学省内の調査で当初は「確認できなかった」とされながら、再調査の結果、内閣府からの圧力があったことを示す内部文書として発見・公表されるという混乱を来している。
 

これらの問題は、行政実務で通常利用されている電子データが、公文書管理法の「行政文書」の定義に含まれていながら、その他の条文で電子データの管理・利用・保存について具体的な定めがないことに起因している。電子データは、紙情報と比べて多くの保管場所を必要としない上に検索が極めて容易で利便性が高いことから、「行政文書」としての位置付けを明確にすることにより、現行法に存在する1年未満という短期間で廃棄し得る文書とする必要はなくなり、「怪文書」か真正文書かの区別も容易になる上、文書が見つからないという事態も防止できる。
 

これとは別に、行政文書の保存期間を行政機関内部の判断だけで決めている現状は、恣意的な期間設定や当てはめを可能にしている点で問題である。公文書管理制度の運用の適正を確保するため、監視機関として、従前政府において構想された公文書管理庁のような独立性の強い第三者機関を設けるか、公文書管理委員会の権限を強化すべきである。
 

これらの点については、当連合会が既に、「公文書管理法の早期制定と情報公開法の改正を求める意見書」(2008年10月22日)や、「公文書管理法の改正を求める意見書」(2013年11月22日)において提案しているところである。


4 秘密保護法について、廃止を含めた抜本的見直しを行うこと

公的情報に対する市民の知る権利が実質的に不十分な保障しか受けていない中、2013年12月に秘密保護法が強行採決により制定され、2014年12月に施行された。
 

同法の規定する「特定秘密」は範囲が広く曖昧で、当該情報を保有する行政機関が「特定秘密」を指定することとなっている。しかも、秘密指定の運用状況を実効的に監視する機関が存在しない。国民の関心の高い公的情報が、行政機関の都合で「特定秘密」に指定され、主権者である国民の目から隠されるおそれは高く、知る権利は更なる大きな制約を受けることとなった。
 

加えて、衆議院情報監視審査会のまとめた平成28年年次報告書には、特定秘密の記載された文書が存在しないにもかかわらず秘密指定がなされているという問題が指摘されている。すなわち、将来対象情報が出現する可能性があるとの理由からあらかじめ秘密指定したり、文書が既に存在しないにもかかわらず、職員の頭の中に知識として存在するとの理由から秘密指定しているという実態があるのである。特に後者は、罰則規定との関係で、捜査、刑事裁判に混乱をもたらすことは必至である。


5 内部告発者の保護を強化するとともに、公益通報制度を周知すること

政府内や巨大企業内における不正は、ときに政府の政治判断や企業の経営判断を誤らせ、社会に回復し難い深刻な被害を与えることがある。これを未然に回避するには、組織内での是正努力にとどまらず、組織外に対する内部告発ができるようにする必要があり、そのためには内部告発者の保護を強化する必要がある。
 

現在、我が国には、官民を対象とした公益通報者保護法が存在するが、公益通報制度が十分に周知されていない上、同法自体、通報者や通報対象事実の範囲が限定されていること、通報対象先の定義規定が複雑であること、通報先ごとの通報者保護の要件が厳格に過ぎること、内部資料の持ち出しにかかる責任減免が存在しないことなど、公益通報者の保護が不十分である。
 

また、内部告発者が当該組織内で組織的、継続的に差別され、排除されないように保護するためには、内部告発者の特定につながる情報が内部告発を受ける者以外に漏れないようにする必要がある。内部告発者の特定につながる情報が外部に漏れた場合には、漏えい者について刑事罰を含めて厳しい処置を講じることで、漏えいが起こりにくい状態を作ることも重要である。さらに、正当な内部告発については社会が内部告発者を評価するメッセージを明確にすることによって、行政機関や大企業などが内部告発者を差別しにくい社会環境をつくる必要がある。
 

正当な内部告発は、当該組織内の違法不当な状態を改善させるために役立ち、一般市民に違法不当な現状を知らせることで、当該組織の改善の大きな圧力となる。公益通報者保護制度の実効性の向上に関する検討会最終報告書(2016年12月公表)、及びこれに対する当連合会の2017年1月27日付け「『公益通報者保護制度の実効性の向上に関する検討会最終報告書』に関する意見書」に沿った具体的な法改正が必要である。


6 メディアによる権力監視を一層強化するために、自律的に多様な報道を行うことが促進される仕組みを構築すべきであること

インターネットの普及により、誰もが自由にニュースを発信できる社会は、言論の自由や知る権利を充実させる一方、無責任あるいは悪意ある虚偽ニュースが氾濫する危険がある。このような社会であればこそ、既存の新聞、テレビ、雑誌などの組織メディアが責任ある報道を発信する意義が大きくなっている。
 

ところが、既存の組織メディアは、広告収入の大幅減により、経営が厳しくなり、記者数を減らし、少なくなった記者で様々な取材対応をしなければならなくなっており、行政機関等の記者会見の内容をそのまま記事にするような状況に陥っている。また、一部の組織メディアの幹部が政府主催の会議の委員に就任することが常態化しており、組織メディアが政府に対する批判勢力であることを止め、協力者になる傾向さえ生じている。
 

2016年2月、衆議院予算委員会において、総務大臣は、番組編集が不偏不党の立場から明らかに逸脱していると認められるという極端な場合においては、政治的に公平を確保しているとは認められず、 放送法第4条第1項第2号(「政治的に公平であること」)に違反するものとして行政指導を行い、改善されなければ電波法第76条に基づく電波停止の措置を採り得る旨の答弁をした。政府が放送法第4条を根拠に1つの番組内容だけで「政治的公平性」を判断し政治介入できるとすると、放送メディアは政府に迎合的な報道をするようになるおそれがあり、公権力に対する監視機能が弱められる。
 

こうした現状を改めるには、組織メディアが各自の努力にとどまらず、組織メディア相互、さらにフリージャーナリストなどとの連携により、不当な政治介入を批判する態度を鮮明にし、メディアの社会的役割が政府の権限濫用の監視にあることを改めて自覚する必要がある。その上で記者クラブをフリージャーナリストに開放して市民への情報提供のチャンネルを増やしたり、メディアとして内部告発をしやすい環境を整えたり、重要な権力批判報道に際しては企業を超えた連携によってその全容を市民に明らかにするよう努めるなど、権力監視報道を充実させるべきである。
 

当連合会は、法律実務家団体としてこのような活動の展開に積極的に協力するものである。


第6 結語

当連合会は、2007年に開催された第50回人権擁護大会において、「人権保障を通じて自由で安全な社会の実現を求める宣言」を行い、当時、テロの防止や犯罪対策を理由に様々な立法や施策が進められていたことに警鐘を鳴らし、憲法及び国際人権法の定める基本的人権の保障を実現すること、立憲主義的憲法を堅持することの重要性を訴え、以降、この宣言に従って活動を続けてきた。
 

しかし、現実は、市民の監視に利用可能な各種の技術や社会基盤が急速に発達・普及している超監視社会になっているにもかかわらず、これらに対する法規制がほとんどなく、市民のプライバシー権に対する侵害のおそれは危機的状況に至っている。他方、知る権利の保障を充実し健全な民主制の過程を実現するために必須である公的情報の公開は進まず、権力監視が十分に行えていない。
 

当連合会は、改めて、個人が尊重される民主主義社会の実現のために、プライバシー権及び知る権利の保障の充実と情報公開の促進が重要であることを確認するとともに、これらの実現を目指し、今後も全力を尽くしていく決意を行い、上記のとおり決議するものである。