少年鑑別所に収容された全少年への国選付添人制度の拡大、勾留された全被疑者への国選弁護制度の拡大及び被害発生直後から犯罪被害者等を弁護士が支援する国の制度の創設を求める決議

arrow_blue_1.gifEnglish


 

1 少年は、成人に比して未熟であり、えん罪の危険性は大きい。また、非行を犯した少年の多くは、家庭で虐待を受け、学校で疎外されるなど、居場所がなく、信頼できる大人に出会えないまま、事件を起こしており、少年に対して法的援助をするとともに少年の成長・発達を支援する弁護士付添人の存在は、極めて重要である。少年事件の弁護士付添人は、審判において、非行事実の認定や保護処分の必要性の判断が適正に行われるよう、少年の立場から手続に関与し、家庭や学校・職場等少年を取り巻く環境の調整を行い、少年の立ち直りを支援する活動を行っている。



資力のない少年に弁護士付添人の援助を受ける権利を実質的に保障するためには、国費でこれを付する制度が不可欠であるが、2007年に導入された現行の国選付添人制度は、その対象事件を殺人、強盗等の重大事件に限定しており、しかも、裁判所が必要と認めた場合にのみ裁量で付する制度にとどまっている。しかしながら、少年鑑別所に収容された少年は、窃盗、傷害等の事件でも少年院送致や児童自立支援施設等送致の重大な処分を受ける可能性が高く、弁護士による援助の必要性は罪名で区別することはできない。子どもの権利条約第37条は、自由を奪われた全ての児童は、弁護士と接触する権利を有すると規定しているところである。



また、被疑者国選弁護制度の対象事件が拡大され、窃盗、傷害等の事件についても被疑者国選弁護人が選任されるようになったが、国選付添人制度の対象事件は限定されたままのため、家庭裁判所送致後は引き続いて国選付添人として活動できないという問題も生じている。



当連合会及び全国の弁護士会は、このような事態を放置できないことから、少年が希望すれば無料で弁護士が面会する当番付添人制度を全国で実施するとともに、全国の会員から特別会費を徴収して少年・刑事財政基金を設置し、これを財源として弁護士費用を援助する少年保護事件付添援助制度を拡充してきた。しかし、これらは、本来、国費で弁護士付添人を付する制度で対応すべきものである。



当連合会は、2009年12月18日、「全面的国選付添人制度に関する当面の立法提言」を発表し、弁護士の対応態勢の確保を進めるとともに、付添人活動の質的向上を図るために研修体制の充実に努めてきた。その結果、全面的国選付添人制度の実施の諸条件は整っており、その実現はまさに喫緊の課題となっている。本年3月から、法務省は「平成20年改正少年法等に関する意見交換会」を開始しており、その中でも、当連合会は全面的国選付添人制度の速やかな実現を求めているところである。



2 また、当連合会は、身体を拘束された全ての被疑者の事件を国選弁護制度の対象とすることを求めたが、主として弁護士の対応態勢を理由として、段階的実施となり、対象外の事件については、被疑者が自らの費用で私選弁護人を選任するか、あるいは、限られた財源による刑事被疑者弁護援助制度を利用するほかないという状態が続いている。



しかしながら、軽罪であるがために、身体拘束された被疑者の不利益や不安が小さく、えん罪に陥る危険が少ないというわけでは決してない。むしろ、痴漢えん罪事件にみられるように、有罪を認めても言い渡される量刑が軽いということから、不利益や不安から逃れようと捜査段階において事実に反する自白をしてしまう誘惑に駆られやすいという側面を有している。



身体拘束を受けた被疑者の弁護人依頼権は、被疑事実の軽重にかかわらず、憲法第34条の保障するところであり、身体拘束を受けた被疑者に対する国選弁護制度を実現することは、憲法第34条、第14条、第37条第3項、そしてまた、「市民的及び政治的権利に関する国際規約」(自由権規約)第14条、「あらゆる形態の抑留又は拘禁の下にある全ての者の保護のための諸原則」(被拘禁者保護原則)原則17、「弁護士の役割に関する基本原則」等、憲法と国際人権法を基盤とし、その要請に応えるものである。



弁護士会における会員数の増加、交通事情の改善あるいは各弁護士会内の連携支援の強化などにより、弁護士の対応態勢が整っていることに鑑みると、今や、被疑者国選弁護制度の対象事件の制限を撤廃し、勾留された全ての被疑者の事件に拡大すべき時期が到来したというべきである。



3 さらに、現行の被害者法律援助事業は、生命、身体、自由又は性的自由に対する犯罪及び配偶者暴力、ストーカー行為による被害を受けた者又はその親族若しくは遺族(以下「犯罪被害者等」という。)のうち、一定の資力要件を満たす者を対象に、弁護士による援助の必要性と相当性を要件として、弁護士報酬や費用等を援助するものとなっている。



このように、現行の被害者法律援助事業は、犯罪被害者等に対し、被害発生直後の早い段階から、参加や損害賠償請求に限らない広汎な援助を、経済的負担なくして提供することが可能な制度であり、資力の乏しい被害者等にとって、必要性が極めて高い重要な事業となっており、当連合会がその会費から事業費用を支出し、日本司法支援センターに業務を委託する形で継続させている。



しかしながら、そもそも、資力の乏しい犯罪被害者等に対する弁護士の支援は、本来国が支えるべきものである。



このことは、犯罪被害者等基本計画において「公費による弁護士選任」が重要な検討課題とされ、その後の検討会において、被害者法律援助事業が「さらに充実が図られるよう努めるべき」とされたことからも明らかである。



4 ここに、当連合会は、政府及び国会に対し、以下のことを強く求める。



(1) 可及的速やかに、国選付添人制度の対象事件を観護措置決定により少年鑑別所に収容された少年の事件全件にまで拡大するよう少年法を改正し、2013年には確実に実施すること。



(2) 被疑者国選弁護制度の対象事件を勾留された全ての被疑者の事件に速やかに拡大すること。



(3) 資力の乏しい犯罪被害者等が、被害発生直後から、被害届提出、告訴・告発、事情聴取同行、法廷傍聴付添い又は少年審判傍聴付添い、刑事手続における和解の交渉等のような法的支援を弁護士によって受けられるよう、国として制度を創設すること。



以上のとおり決議する。


2012年(平成24年)5月25日

日本弁護士連合会

 





(提案理由)

第1 少年鑑別所に収容された全少年への国選付添人制度の拡大

1 全面的な国選付添人制度実現を求める当連合会の意見

2007年11月から導入された現行の国選付添人制度は、対象事件を「故意の犯罪行為により被害者を死亡させた罪」及び「死刑又は無期若しくは短期二年以上の懲役若しくは禁錮に当たる罪」といういわゆる重大事件に限定した上、少年鑑別所送致の観護措置決定がなされた場合に、裁判所が必要と認めたときに、その裁量で国選付添人を付するものとしている(少年法第22条の3)。



これに対し、当連合会は、2007年11月2日の第50回人権擁護大会において、「全面的な国選付添人制度の実現を求める決議」を採択し、①国に対して、国選付添人制度の対象事件を、観護措置決定により身体拘束された全ての少年の事件にまで拡充した全面的国選付添人制度の実現を求めるとともに、②全弁護士会での当番付添人制度の導入と少年保護事件付添援助事業の拡充、③弁護士の対応能力の確保、④国民の広い支持を得るための弁護士付添人の重要性を訴える活動の強化を決意した。



当連合会は、この決議を受けて、2008年12月5日の臨時総会において、少年保護事件付添援助事業の継続・拡充のための財源として、少年・刑事財政基金の設置及び特別会費の徴収を決定した。



さらに、2009年1月15日の理事会において、「全面的国選付添人制度実現本部」の発足を決定するとともに、「全面的国選付添人制度実現本部発足にあたっての理事会決議」を採択し、全面的国選付添人制度実現へ向けた運動を強化することを宣言した。



また、2009年12月18日、「全面的国選付添人制度に関する当面の立法提言」を採択し、現行の国選付添人制度を拡充し、①その対象事件を、少年鑑別所送致の観護措置決定により身体拘束された全ての少年の事件に拡大する、②家庭裁判所が必要と認めた場合のみならず、少年又は保護者から請求があった場合も国選付添人を付する、という制度に少年法を改正すべきであるとの提言を行った。



なお、本年3月から、法務省は「平成20年改正少年法等に関する意見交換会」を開始しており、その中でも、当連合会は全面的国選付添人制度の速やかな実現を求めているところである。

 

2 少年に対する弁護士付添人の援助の必要性

弁護士付添人は、少年審判において、非行事実の認定や保護処分の必要性の判断が適正に行われるよう、少年の立場から手続に関与し、家庭や学校・職場等、少年を取り巻く環境の調整を行い、少年の立ち直りを支援する活動を行っている。少年は、成人に比して未熟であり、えん罪の危険性は大きい。また、少年たちの多くは、家庭で虐待を受け、学校で疎外されるなど、居場所がなく、信頼できる大人に出会えないまま、非行に至っており、少年に対して法的援助をするとともに、少年の成長・発達を支援する弁護士付添人の存在は、極めて重要である。



我が国も1994年5月に批准した子どもの権利条約は、「自由を奪われたすべての児童は、弁護人その他適当な援助を行う者と速やかに接触する権利を有」する(第37条(d))、「刑法を犯したと申し立てられ又は訴追されたすべての児童は」、「防御の準備及び申立てにおいて弁護人その他適当な援助を行う者を持つこと」、「法律に基づく公正な審理において、弁護人その他適当な援助を行う者の立会い・・・の下に遅滞なく決定されること」について保障を受ける(第40条第2項(b)(ⅱ)(ⅲ))と規定している。特に、 同条約原文では、第40条第2項が、「弁護人その他適当な援助を行う者」を"legal or other appropriate assistance"と規定しているのに対し、第37条(d)は、"legal and other appropriate assistance"と規定していることから、少なくとも「自由を奪われた児童」、すなわち身体拘束された少年に対しては、弁護士の援助を受ける権利が保障されていると解される。さらに、国連子どもの権利委員会は、2010年6月、日本政府の第3回政府報告書審査に基づく最終見解において、少年司法に関し、「すべての児童が手続のあらゆる段階で法的及びその他の支援を受けられることを確保すること」(パラグラフ85(d))と勧告している。このように、少なくとも身体拘束を受けた少年に対して弁護士の法的援助を実質的に確保することは、国際的にも求められている。



しかしながら、多くの少年やその保護者には、弁護士付添人の費用を負担する資力がなく、仮に保護者に資力があったとしても、少年のために費用を支出することには消極的な場合がほとんどであって、少年が弁護士付添人の援助を受ける権利を実質的に保障するためには、国選付添人制度が必要である。

 

3 国選付添人制度対象事件拡大の必要性

現行国選付添人制度が対象事件を重大事件に限定し、しかも家庭裁判所の裁量で付することとされている結果、家庭裁判所の審判に付され観護措置決定により少年鑑別所に収容された少年1万639人のうち、国選付添人が選任された少年は、僅か342人(約3.2%)にすぎない(2010年)。



しかしながら、少年鑑別所に収容された少年については、刑事処分を相当とする検察官送致や少年院送致、児童自立支援施設送致等の収容を伴う保護処分といった重大な処分となる可能性が高く、適正な処分の選択や少年の納得という観点からも、弁護士付添人の援助が必要である。



しかも、2009年5月21日以降、被疑者国選弁護制度の対象事件が、いわゆる必要的弁護事件にまで拡大された結果、多くの事件で被疑者段階で選任された国選弁護人が、家庭裁判所送致後には国選付添人となることができないという事態が生じている。被疑者国選弁護人は、家庭裁判所での少年審判を見据えて少年に働きかけを行ったり、被害者と示談交渉をするなどの弁護活動を行っているのであり、少年が私選で選任しない限りは付添人として活動できないというのは大きな制度的矛盾である。



したがって、国選付添人制度の対象事件を拡大することは喫緊の課題である。



また、国選付添人制度が裁判官による裁量選任のみのままでは、被疑者国選弁護人が選任された事件について、家庭裁判所が、国選付添人は必要ないと判断すれば、当該弁護士は国選付添人に選任されないこととなる。しかしながら、被疑者国選弁護人が継続して活動できるようにするためには、少年又は保護者が請求した場合には、国選付添人に選任する制度とする必要がある。



4 当連合会及び全国の弁護士会の取組

上記のように国選付添人制度が極めて限定的な中で、当連合会及び全国の弁護士会は、身体拘束を受けた全ての少年に対して弁護士付添人の援助を受ける権利を保障するべく、以下のような取組を進めてきた。

   

(1) 当番付添人制度の全国実施

2001年2月に福岡県弁護士会が身体拘束をされた全ての少年を対象に「全件付添人制度」を実施し、これを受けて、全国の弁護士会で当番付添人制度の実施を目指して取組を進め、2009年11月には、全国での実施が実現した。また、当初は、その対象事件や対象年齢を限定して実施した弁護士会も少なくなかったが、これを身体拘束事件全件に拡大する取組を進め、既に50弁護士会で実現している。

  

(2) 被疑者国選弁護人が選任された事件について、家庭裁判所送致後も付添人として活動する体制の確立

全国の弁護士会で、被疑者国選弁護人が選任された場合には、家庭裁判所送致後も引き続き付添人として活動することを呼びかけ、やむを得ない事情により継続できない場合には、これを弁護士会が把握して、他の弁護士が付添人として活動する体制の確立を進めており、基本的には全国のほとんどの弁護士会で、その体制が確立されている。
  

(3) 少年保護事件付添援助制度

 上記のとおり資力のない少年に弁護士付添人の援助を実質的に保障するためには弁護士費用の援助が不可欠である。2009年6月以降、全国の会員が特別会費を拠出していた当番弁護士等緊急財政基金を引き継ぎ
「少年・刑事財政基金」が設置され、同基金を財源として当連合会から日本司法支援センターに業務を委託して少年保護事件付添援助制度(以下「付添援助制度」という。)が運営されており、現在、全国の会員からは、月額4、200円の特別会費を徴収している。付添援助制度による少年保護事件の援助件数は、2010年度で7、276件(終結件数)に上り、その援助総額は7億5、967万円に達している。



(4) 弁護士研修の実施

当連合会において、毎年、少年事件付添人活動に関する特別研修を実施して全国の会員が中継で受講できる体制をとっているほか、各弁護士会においても研修を実施しており、付添人活動の質的向上に取り組んでいる。



5 全面的国選付添人制度の実現を

上記のとおり、全国で身体拘束を受けた全ての少年を対象とした全面的国選付添人制度への対応態勢は確立しているといえる段階に達している。



現在、弁護士付添人のほとんどは、付添援助制度を利用したものであるが、上記のような少年にとっての弁護士付添人による援助の重要性に照らせば、本来、国費によって付するべきものであって、付添援助制度は、あくまでも、全面的国選付添人制度実現までの暫定的な措置である。



全国の弁護士会及び弁護士会連合会は、全面的国選付添人制度の実現を求める会長声明、総会決議、理事長声明等を発表しており、この総意を受けて、当連合会としては、政府及び国会に対して、可及的速やかに、国選付添人制度の対象事件を観護措置決定により少年鑑別所に収容された少年の事件全件にまで拡大するよう少年法を改正し、2013年には確実に実施することを求めるものである。



第2 勾留された全被疑者への国選弁護制度の拡大

1 被疑者弁護制度の意義

免田、財田川、松山、島田の死刑再審無罪4事件を始めとして、近年でも、志布志事件、氷見事件、足利事件、布川事件と、身体拘束を利用した不当な取調べによる虚偽の自白を証拠とした数々の重大なえん罪が明らかになった。



このことは、捜査機関に身体拘束され、取調べにさらされると、強制的な雰囲気を払拭して一人で身を守ることは極めて困難であることを示している。身体拘束されて一般社会から隔離され、刑事手続に付されることの不利益と不安は、極めて大きい。実際、身体拘束を利用した取調べによる虚偽自白の獲得により、死刑事件を含む多くのえん罪が生み出されてきたのである。



身体拘束された被疑者が、弁護人から、被疑者として保障された権利の告知、捜査の在り方についての警察及び検察との交渉、証拠保全、被害者との示談交渉、身体拘束からの解放に向けた活動など弁護人の援助を受ける利益は、極めて大きい。



軽罪であるがために、身体拘束された被疑者の不利益や不安が小さく、えん罪に陥る危険が少ないというわけでは決してない。むしろ、痴漢えん罪事件にみられるように、有罪を認めても言い渡される量刑が軽いということから、身体拘束による不利益や不安から逃れようと捜査段階において事実に反する自白をしてしまう誘惑に駆られやすいという側面を有している。



身体拘束された被疑者に対して弁護人の援助を実質的に保障することは、身体拘束された被疑者が自己負罪を強要されないよう被疑者の黙秘権を保護するとともに、複雑な刑事手続や証拠収集に関して専門的な見地から助言をすることにより、被疑者が刑事手続に当事者として参加する機能を保障するという、極めて重要な意義を有している。

 

2 憲法及び国際人権法からの要請

身体拘束を受けた被疑者の弁護人依頼権は、被疑事実の軽重に関わらず、憲法第34条の保障するところであり、身体拘束を受けた全被疑者に対する国選弁護制度を実現することは、憲法第34条、第14条、第37条第3項、そしてまた、「市民的及び政治的権利に関する国際規約」(自由権規約)第14条、「あらゆる形態の抑留又は拘禁の下にある全ての者の保護のための諸原則」(被拘禁者保護原則)原則17、「弁護士の役割に関する基本原則」、「少年司法運営のための国際連合標準最低規則」等、憲法と国際人権法を基盤とし、その要請に応えるものである。

 

3 当番弁護士制度・刑事被疑者弁護援助制度から被疑者国選弁護制度の創設とその成果

被疑者及び被告人の権利を適切に保護するためには、弁護人の援助を受ける権利を実質的に保障することが重要である。2006年10月からは、被疑者国選弁護制度が実施されたが、それ以前には、資力が十分でないなどの理由で自ら弁護人を依頼することができない者について、国選弁護人を付すことができるのは、起訴後に限定されていた。



当連合会は、1989年9月16日に松江市で開催された第32回人権擁護大会における「刑事訴訟法40周年宣言」において、「現在の刑事手続を抜本的に見直し、制度の改正と運用の改善をはかるとともに……あるべき刑事手続の実現に向けて全力をあげてとりくむ」ことを宣言した。それを契機に、被疑者国選弁護制度の実現に向けて、被疑者段階における弁護人依頼権の実質的な保障を目的として、当番弁護士制度及び刑事被疑者弁護援助制度(以下「被疑者援助制度」という。)が実施された。



当番弁護士制度は、要請を受けた事件に当番の弁護士が接見に出動し、その費用は被疑者に負担させないこととして、1990年に大分県、福岡県で発足し、その後各地で展開され、1992年には全国の弁護士会で実施された。1990年には、被疑者援助制度が財団法人法律扶助協会により実施された。さらに、当連合会は、1995年に当番弁護士等緊急財政基金を設置した。



これらの取組が結実し、被疑者国選弁護制度が実現されるに至った。当連合会は、身体を拘束された全ての被疑者を国選弁護の対象とすることを求めたが、主として、弁護士過疎・偏在等の弁護士の対応態勢を理由に、段階的かつ対象事件を限定した実施となった。



2006年10月から、死刑又は無期若しくは短期1年以上の懲役若しくは禁錮に当たる事件を対象とする被疑者国選弁護制度が実施され(被疑者国選第一段階)、2009年5月21日からは、死刑又は無期若しくは長期3年を超える懲役若しくは禁錮に当たる事件にまで対象が拡大された(被疑者国選第二段階。以下「第二段階」という。)。これにより、より多くの被疑者に勾留段階から国選弁護人が選任されるようになり、充実した弁護活動が行われている。



被疑者段階において行われる弁護活動は多岐にわたる。例えば、上述のように、被疑者の権利の告知、捜査の在り方についての警察及び検察との交渉、証拠保全、被害者との示談交渉、身体拘束からの解放に向けた活動などである。これらの活動を行うためには、丁寧に接見を行い、被疑者との信頼関係の構築に努めることも必要である。



また、起訴された時点で既に弁護人が選任されている事案も増大した。2010年の実績(地方裁判所)によれば、事件総数のうち、被疑者段階から弁護人の付いた被告人の割合は、64.2%となっており、増加傾向がみられる。不起訴の割合は、2004年に23.7%、2005年に25.5%であったものが、2008年には26.5%、2009年には27.3%と増加している。また、国選弁護人が選任された被告人の保釈率についても、2006年に4.5%であったものが、2009年には9.0%にまで増加している。その他、勾留理由開示請求、勾留取消請求件数及び準抗告の件数が増加している。これらの件数の増加は、被疑者段階から積極的な弁護活動が行われるようになった影響によるものと認められる。



2010年12月に行われた第11回国選弁護シンポジウムの報告によれば、被疑者国選弁護事件(2009年5月21日~2010年4月30日)の86%の事件で、指名通知当日ないし翌々日には初回接見が行われている。さらに、多くの弁護人は少なくとも3~5日に1回は接見している。また、上記シンポジウムでは、被疑事実が当初裁判員裁判対象事件であったケースも含めて、起訴前弁護活動の結果、略式起訴になった事案の接見状況が報告されている。このように略式起訴となった事件の全件の接見回数は平均3回であり、初回接見までの期間は平均0.91日である。このように成果を上げた事案については、平均的には、指名通知を受けたその日のうちに接見が行われ、弁護活動が始まっている。その素早い活動が、その後の略式起訴という結果につながっている事案も多い。可能な限り直ちに接見に赴くことが、その後の弁護活動、そして、成果を生み出す原動力になっていることが実証されている。

 

4 当番弁護士制度及び被疑者援助制度による弁護人確保とこれを支えてきた財源

第二段階の被疑者国選弁護制度では、その対象事件を死刑又は無期若しくは長期3年を超える懲役若しくは禁錮に当たる事件に限定しているため、これ以外の事件、例えば、死体遺棄、迷惑防止条例違反(痴漢)、道路交通法違反(酒気帯び運転)、公務執行妨害、暴行、名誉毀損、贈賄等の被疑事件については、被疑者国選弁護人の援助が受けられず、いまだ当連合会が財源を負担する当番弁護士制度と被疑者援助制度により、弁護人の援助を確保している。



当連合会は、2009年5月21日の第二段階の被疑者国選弁護制度の実施後も、当番弁護士等緊急財政基金が同月をもって廃止されたことに伴い、同年6月に少年・刑事財政基金を設置し、一般会費とは別に会員から特別会費を徴収して、同基金に繰り入れ、その内から当番弁護士制度及び日本司法支援センターに業務を委託している被疑者援助制度のために支出している。その支出額は、2010年度には、4億5、813万円に及んでいる。



5 国選弁護人契約弁護士数と被疑者国選弁護事件数

当連合会及び弁護士会は、第二段階への対応のため、国選弁護人契約弁護士の確保や対応態勢の確立に取り組んできた。その結果、国選弁護人契約弁護士数は、日本司法支援センター発足当初の8、427人(2006年10月2日現在)から2012年3月1日現在で2万806人に増加し、同センターの常勤弁護士(スタッフ弁護士)の配置人数は、同日現在で191人となっている。



これに対し、被疑者国選弁護事件数は、第二段階実施により、2009年度は6万1、857件(2010年6月11日集計時点)、2010年度は7万917件(2011年5月13日集計時点)となっている。



被疑者国選弁護事件の対象を勾留された全事件に拡大した場合(被疑者国選第三段階。以下「第三段階」という。)、事件数は10万件程度と予測している。これは、勾留状発付予測数に国選予測率を乗じて算出したものである。第二段階の2010年度の7万917件に比較して、第三段階では事件数で3万件程度増加し、率にして約1.4倍に増加するものと試算している。



6 対応態勢の調査・検証結果

当連合会は、2010年度に各弁護士会に対して実施した、第二段階における対応態勢に関する調査により、一部に支部会員1人当たりの負担が多いなど問題が生じている地域はあるものの、それらの地域においては他の地域の弁護士によって対応するなどの対応策がとられており、各弁護士会の努力により、概ね対応態勢に問題のない状況となっていることを明らかにした。



さらに、当連合会は、2011年10月から2012年2月までの間、全弁護士会と第三段階の対応態勢についての協議を行い、その結果、各弁護士会とも、会員数の増加、高速道路の開通にみられる交通事情の改善あるいは各弁護士会内の連携支援の強化などによって、ほぼ対応態勢に問題がないことが明らかになっている。



7 被疑者国選弁護制度の対象事件の制限の撤廃を

このように、被疑者国選弁護制度の拡充が被疑者の人権保障の向上と適正な刑事手続の確立に寄与することが明らかになり、弁護士会の対応態勢も整っていることから、被疑者国選弁護事件の対象を限定する事由は消滅したというべきであり、当連合会は、改めて、国に対し、被疑者国選弁護制度の対象事件の制限を撤廃し、勾留された全ての被疑者の事件に速やかに拡大することを求めるものである。


第3 被害発生直後から犯罪被害者等を弁護士が支援する国の制度の創設

1 被害者法律援助事業の持つ意義

資力の乏しい犯罪被害者等が弁護士の援助を受ける制度としては、被害者法律援助事業のほかに、国選被害者参加弁護士制度や民事法律扶助制度が存在する。



しかし、国選被害者参加弁護士制度は、刑事訴訟法第316条の34から第316条の38までに規定する行為を弁護士に委託しようとする被害者参加人を対象とするものであって(犯罪被害者等の権利利益の保護を図るための刑事手続に付随する措置に関する法律第5条)、被害者参加以外の行為を委託しようとする被害者は、これを利用することができない。



また、民事法律扶助制度は、民事裁判等手続において自己の権利を実現するための準備及び追行に必要な費用を支払う資力がない国民等を対象とするものであり(総合法律支援法第30条第1項第2号)、民事裁判等手続以外について弁護士の援助を希望する被害者は、利用することができない。



これに対し、現行の被害者法律援助事業は、被害届提出、告訴・告発、事情聴取同行、法廷傍聴付添い(被害者への証人尋問の際の付添い、意見陳述の際の付添い等)、刑事手続における和解の交渉(刑事手続に付随する示談交渉を含む。)等の被害者支援の様々な活動について幅広く援助の対象としており、犯罪被害者等にとって大きな力となっている。



また、国選被害者参加弁護士制度は、参加決定を受けた後、すなわち加害者の公訴提起後にしか援助を受けられず、民事法律扶助制度も、相手方を特定しなければ機能しないのに対し、現行の被害者法律援助事業は、犯罪の発生直後から利用することができ、犯罪被害者等に対し、早期の機動的な援助を提供している。



さらに、現行の被害者法律援助事業は原則として償還不要とされており、償還を前提とする民事法律扶助制度に比べ、被害者等の負担も軽微である。



2 被害者法律援助事業を国の事業に

そもそも、「公費による弁護士選任」は、2005年に政府が策定した犯罪被害者等基本計画における重要な検討項目の一つとなっている。また、同計画に基づいて設置された「経済的支援に関する検討会」は、犯罪被害者等法律援助事業について、同事業が果たす役割の重要性に鑑み、「犯罪被害者等の支援のためにさらに充実が図られるよう努めるべきである」との中間取りまとめを発表している。



援助事業は、本来、国が支えるべきものというべきである。



現行の被害者法律援助事業は、当連合会がその会費から事業費用を支出し、日本司法支援センターに業務を委託する形で継続させている。



しかしながら、被害者法律援助事業の周知が進むにつれて利用件数も大きく伸長し、それに伴って弁護士報酬等の支出が増大しており、常に財源問題を抱える状況になっている。



当連合会では、2011年2月に被害者法律援助事業の事業費に充てるべく特別会費を徴収して当面の財源を確保することとしたが、利用件数の増大数は予測不可能であり、いつまた財源不足に至るやもしれず、その事業の存続は決して安定したものではなくなっている。



ところで、民事法律扶助制度は、財団法人法律扶助協会が自主財源で運営していたところ、2000年10月の「民事法律扶助法」の施行により、全面的に国費化され、さらに2006年10月の「総合法律支援法」の施行により、日本司法支援センターの本来事業とされるに至った。



現在、被害者については、国選被害者参加弁護士のみが制度化されているだけで、捜査段階での被害者援助における弁護士報酬等については、何ら国費が支出されていない状況にある。



そこで、被害者法律援助事業の意義、必要性に鑑みれば、国選被害者参加弁護士制度以外の被害者法律援助事業も、国の事業とされるべきである。



3 全国の弁護士会の対応態勢

犯罪被害者支援については当連合会の犯罪被害者支援委員会に対して全ての弁護士会から委員が派遣されており、各弁護士会に受け皿となる人材が育っている。



そして、各弁護士会には、日本司法支援センターが実施している「犯罪被害者支援に経験や理解のある弁護士制度」及び「国選被害者参加弁護士制度」について日本司法支援センターと契約している弁護士が複数名いる。



このように全国で対応態勢が確立している。



4 被害発生直後から犯罪被害者等を弁護士が支援する国の制度の創設を

上記のとおり、弁護士会の対応態勢も整っていることから、当連合会は、国に対し、資力の乏しい犯罪被害者等が、被害発生直後から、被害届提出、告訴・告発、事情聴取同行、法廷傍聴付添い又は少年審判傍聴付添い、刑事手続における和解の交渉等のような法的支援を弁護士によって受けられるよう、制度を創設することを求める。