外国人児童・生徒に対して教育を受ける機会を平等に保障することを求める会長声明


2024年9月にさいたま市教育委員会が、同市に住む市立小学校6年生のトルコ国籍クルド人児童につき、一家が難民不認定となり在留資格を喪失したことを契機として除籍処分(以下「本件除籍処分」という。)を行い、その後本年1月30日から復学を認めたものの、同児童は卒業が間近に迫っていた約5か月間就学の機会を奪われていたことが新聞報道により明らかになった。


日本が批准する子どもの権利条約(児童の権利に関する条約)28条、並びに経済的、社会的及び文化的権利に関する国際規約(社会権規約)13条及び14条等は、人種や国籍、在留資格等にかかわらず、全ての子どもに初等教育を受ける機会を平等に保障している。教育は、人が成長、発達し、自己の人格を形成、実現していくための基盤であり、教育を受ける機会を保障されること自体が重要な人権であって、他の人権を豊かに保障していく基礎となるものである(社会権規約委員会の一般的意見第13(E/C.12/1999/10)参照)。


これらを踏まえて、2011年12月16日付け内閣総理大臣答弁書は「我が国の公立の義務教育諸学校においては、在留資格の有無を問わず、就学を希望する外国人児童生徒を日本人児童生徒と同様に無償で受け入れることとしている」と述べており、文部科学省も2012年7月5日付け通知において、「外国人児童・生徒の就学機会確保」に一層努めるべく、就学手続時に在留カード等の提示がない場合であっても、一定の信頼が得られると判断できる書類により居住地等の確認を行うなどの「柔軟な対応」を全国の教育委員会に対して求めている。


本件除籍処分はこれら諸規定や国の方針に明らかに反するものであり、後に撤回したとはいえ、約5か月もの間小学校教育から排除された当該児童及びその家族の心の傷の大きさは計り知れない。


当連合会は、第61回人権擁護大会において採択した「新しい外国人労働者受入れ制度を確立し、外国にルーツを持つ人々と共生する社会を構築することを求める宣言」(2018年10月5日)において、「人は、国籍、在留資格の内容、有無等にかかわらず、ひとしく憲法、国際人権法上の人権を享有する。国籍や民族の相異を理由に、時の在留政策や雇用側の利害等により、その人権を安易に制約することは許されない。」ことを明確にしているところ、これは子どもの教育を受ける権利にも妥当するものであり、本件除籍処分は甚だ遺憾である。


当連合会は、文部科学省や各地の教育委員会に対して、同種の事案が他に存在していないかを緊急に点検し、必要な対応を迅速に行うとともに、前記条約や通知等の趣旨を教育現場に周知徹底することを通じて、外国人児童・生徒や外国にルーツを有する児童・生徒の教育を受ける機会が、人種や在留資格の有無に関わりなく、また差別に晒されることなく平等に保障されるよう求める。



2025年(令和7年)2月19日

日本弁護士連合会
会長 渕上 玲子