「袴田事件」に関する最高検察庁の検証結果を受け、改めて一刻も早い再審法改正の実現を求める会長声明


昨年12月26日、最高検察庁は、1966年に発生した静岡4人強盗殺人・放火事件(いわゆる「袴田事件」)に関し、静岡地方裁判所が袴田巖氏に再審無罪判決を言い渡し、その後検察官の上訴権放棄により無罪判決が確定したことを受け、再審手続及び捜査・公判に関する検証結果を記載した報告書(以下「報告書」という。)を公表した。


報告書は、その冒頭において、「(袴田氏の)無罪の結論を否定するものではなく、検察は袴田氏を犯人視していない」としながらも、全体として、袴田事件が無実である袴田氏を死刑囚として50年近くにわたり身体拘束し、袴田氏を日々死刑執行の恐怖にさらし続け、甚大な人権侵害をもたらした「死刑えん罪事件」であることを真摯に受け止めたものとは評価できない。そもそも、報告書の目的は再審請求手続の長期化の原因や捜査公判上の問題点の検証に限定されており、死刑えん罪の原因究明が目的とされていないことや、独立した第三者を入れずに内部限りで検証を行っていること自体に大きな問題がある。その意味で、報告書は、「内部検証」の限界を自ら露呈しているともいえる。


加えて、報告書の内容は、現在の法制度では再審によるえん罪被害の救済に大きな限界があることを認めているものといえ、換言すれば、えん罪被害の速やかな救済のためには再審法(刑事訴訟法第4編)を改正することが必須であることを改めて明らかにしている。


すなわち、報告書では、手続が長期間に及んだことについて、検察官の対応には問題がなかったとするが、そもそも具体的な手続規定がないからこそ、検察官の対応が問題視されることもなく、その進行が個々の裁判体の裁量に大きく委ねられてしまい、再審請求手続が長期化したのである。


また、報告書では、第1次再審請求から約30年間経過してようやく「5点の衣類」のカラー写真等が検察官から開示されたことについて検察側の対応に問題がなかったとするが、これも証拠開示に関する規定が存在しないことが大きな要因となっている。報告書では今後証拠開示について「適切に対応」していく旨述べられているが、最近でも飯塚事件の第2次再審請求の即時抗告審において、検察官は裁判所による証拠開示の勧告に対し消極的な態度を示している。


さらに、報告書では、再審開始決定を不服として検察官が即時抗告をした対応について、「申立てで(審理が)不当に長期化したとは認められない」とする。しかし、検察官が即時抗告を行ったことより、2014年3月に静岡地裁が再審開始決定を出してから再審公判が開始するまで、実に約10年間もの歳月が経過した。近年でも、布川事件、松橋事件、湖東事件及び福井女子中学生殺人事件(第1次再審請求)において、再審開始を認める裁判所の決定に対して検察官が抗告等を行い、手続が長期化するという事態が繰り返し生じている。


このように、最高検察庁が公表した検証結果でも、再審法の不備、すなわち再審法改正の必要性とその具体的な内容が更に明らかとなった以上、再審法改正について各種協議会や審議会等により年単位の協議・審議を行うことは迂遠というほかない。今、何よりも急がれるのは、立法府での審議を進め、一刻も早く再審法改正を実現することである。


「袴田事件」などのえん罪事件を契機として、現在、再審法の不備がえん罪被害者の速やかな救済を阻害しているという実情が、広く社会に認識されるに至っている。昨年3月11日に超党派で結成された「えん罪被害者のための再審法改正を早期に実現する議員連盟」の参加国会議員数は、既に全国会議員の過半数を超えて現在363名にまで上り、今なお増加している状況である。また、全国の地方議会や地方自治体の首長、各種団体からも、再審法改正への賛同が相次いで寄せられている。


当連合会は、一刻も早く再審法が改正され、捜査書類及び証拠物の証拠開示の制度化、再審開始決定に対する検察官による不服申立ての禁止、再審請求手続における手続規定の整備の実現が必要であることを改めて強く訴えるものである。



2025年(令和7年)1月17日

日本弁護士連合会
会長 渕上 玲子