「飯塚事件」第2次再審請求棄却決定に関する会長声明


本日、福岡地方裁判所第4刑事部は、いわゆる「飯塚事件」に関する第2次再審請求事件につき、再審請求を棄却する旨の決定を行った。


本件は、1992年2月20日、福岡県飯塚市において小学校1年生の女児2名が登校途中に失踪し、翌21日に遺体が発見された事件である。久間三千年氏は、略取誘拐、殺人、死体遺棄の容疑で逮捕・起訴されたが、逮捕以降、一貫して、本件への関与を全面的に否認した。しかし、1999年9月29日、第一審の福岡地方裁判所は死刑判決を言い渡し、その後、控訴・上告も棄却され、2006年10月8日、死刑判決が確定した。


久間氏はその後も無実を訴え、再審請求を準備していたが、死刑判決の確定からわずか2年後の2008年10月28日、久間氏(当時70歳)に対する死刑が執行された。そのため、久間氏の遺族は、2009年10月28日以降、久間氏の遺志を引き継いで再審請求を行い、2021年7月9日には第2次再審請求を行っていたものである。


本件では、久間氏と犯行との結び付きを証明する直接証拠は存在せず、情況証拠のみによって有罪認定が行われている。死刑判決の柱となる重要な証拠として、被害女児の遺体から検出されたDNA型が久間氏のそれと一致したとする警察庁科学警察研究所の鑑定結果(MCT118型鑑定)のほか、事件当日、誘拐現場とされる通学路上で被害女児を見たとする目撃者の供述調書や、事件当日に遺留品発見現場付近で久間氏の所有車両と特徴が一致する車両を見た旨の目撃者の証言が挙げられている。


第2次再審請求では、新たに証人尋問が実施された。事件当日に通学路上で被害女児を見たとする供述調書を作成された目撃者は、供述調書の内容は警察官の強引な誘導によるもので事実ではなく、被害女児を目撃したのは事件当日のことではない旨を証言した。また、別の目撃者は、事件当日、後部座席に2人の女児を乗せた犯行使用車両と思われる車を目撃したが、その車の特徴は久間氏の所有車両とは異なり、運転していたのも久間氏とは別の人物であった旨を証言した。


既に第1次再審請求の段階で、科警研のDNA型鑑定結果には写真の改ざん等の重大な欠陥があったことは明らかとなっている。このことに加え、これらの目撃者の新たな証言によれば、事件当日の被害女児の誘拐現場が特定できず、また、遺留品発見現場付近で目撃されたという久間氏の所有車両と特徴が一致する車両も本件犯行とは無関係ということになり、本件の犯人を久間氏であるとする確定判決の認定が全面的に崩れることは明らかであった。


しかしながら、本日の決定は、新たな証言の信用性をいずれも否定した。その上で、これらの新証言が確定審及び第1次再審請求審において取り調べられた他の証拠の証明力に影響することはなく、情況事実の総合評価の結論を左右することもなく、久間氏が犯人であることについて合理的な疑いを超えた高度の立証がなされているという結論は揺らがないとして証拠の明白性を否定したものであり、新証拠に旧証拠を凌駕するほどの高度な証明力を要求するものであって、「疑わしいときは被告人の利益に」の鉄則を無視した不当な決定である。


本件では、既に、科警研のDNA型鑑定結果には重大な欠陥があったことが明らかとなっていることも踏まえれば、この度の新たな証言により本件の犯人を久間氏であるとする確定判決の認定には合理的な疑いが生じており、再審開始決定がなされるべきであった。


また、第2次再審請求の審理においては、裁判所が証拠リストの開示を勧告したにもかかわらず、検察官がこれに従わなかったという再審請求手続上の問題も明らかとなっている。加えて、本件は、そもそもえん罪の疑いのある事件であるにもかかわらず、久間氏について既に死刑が執行されており、死刑制度の非人道性を改めて浮き彫りにしている。


当連合会は、本件の再審請求につき注視するとともに、引き続き、死刑制度の廃止及び再審請求事件における証拠開示の制度化を含む再審法改正等、えん罪を防止・救済するための制度改革の実現を目指して全力を尽くす決意である。



2024年(令和6年)6月5日

日本弁護士連合会
会長 渕上 玲子