全国全ての弁護士会による総会決議が採択されたことを受け、改めてえん罪被害者救済のための再審法改正を一刻も早く実現することを求める会長声明


当連合会は、再審法(刑事訴訟法第4編再審)の改正を重要課題の一つに掲げ、60年以上にわたり、その実現に向けて取り組んできた。そして、この度、全国52の全ての弁護士会において、再審法の改正を求める総会決議が採択された。これは、全国の弁護士が、えん罪という国家による究極の人権侵害の救済とその根絶のために、再審法の改正が急務であることを確認し、改正の実現を強力に推し進める決意をしたことを示すものである。


現在の再審法は、大正時代の刑事訴訟法の規定をほぼそのまま引き継いでおり、現行法の施行から75年にわたり法改正が行われていない。捜査機関が保有している証拠の開示に関する規定が存在しておらず、再審請求事件の審理に関する手続規定もないに等しい。そのため、再審請求事件の審理に関しては、「再審格差」とも呼ばれる裁判体による格差が生じており、再審請求人の適正かつ迅速な審理を受ける権利が保障されているとは到底言えない状況にある。また、再審開始決定によってえん罪の疑いが明らかになってもなお、現行法の下では検察官が同決定に不服申立てを行うことが可能であるため、えん罪被害者の救済が遅れる原因となっている。このような再審法の不備のために、例えば、「袴田事件」では、再審開始決定が確定するまでに事件発生から実に約57年もの年月を要し、最初の再審請求から44年目を迎えた現在もなお、袴田巖さんのえん罪からの救済は果たされていない。そのほか、日弁連支援事件だけでも11の事件で、今なおえん罪被害者が救済を待つ状況にある。


近年、「袴田事件」などのえん罪事件を契機として、再審法の不備がえん罪被害者の速やかな救済を阻害しているという実情が広く国民に認識されるに至っている。そのような事態を受けて、本年3月11日には、与野党134名の国会議員の参加を得て、超党派で「えん罪被害者のための再審法改正を早期に実現する議員連盟」が結成された。参加する議員の数は既に290名を超えており、今なお増えている状況である。また、本日までに、7道府県議会を含む260を超える地方議会で再審法改正を求める意見書が採択されており、全国の地方自治体の首長や各種団体からも再審法改正への賛同が相次いで寄せられている。このように、再審法改正に向けた機運は、これまでにないほどの大きな高まりを見せている。


これに対し、法務省は、今なお再審法の改正に消極的な姿勢を崩していない。しかし、上記議員連盟の活動などを通じて、現在の再審法は、再審請求人に対する手続保障が不十分であるなど、憲法上の刑事手続に関する基本的人権との関係でも問題があることが浮き彫りとなっている。このような問題点について、実務運用の改善だけで対応するには根本的な限界があり、その手続の基本的な在り方を定める再審法を改正することが必要不可欠である。このことは、全国の弁護士及び弁護士会の総意である。えん罪被害者とその親族の多くが高齢化している現状に照らせば、もはや一刻の猶予もなく、直ちに法改正を実現すべきである。


当連合会は、国会議員や多くの市民とも協力して、えん罪被害者救済のための再審法改正を一刻も早く実現するため全力を尽くす決意である。



2024年(令和6年)5月29日

日本弁護士連合会
会長 渕上 玲子