憲法記念日を迎えるに当たっての会長談話

本日は、日本国憲法が施行されてから77年目の憲法記念日です。


現在、世界では武力による衝突が多発しています。2022年2月に始まったロシアによるウクライナ侵攻、2023年10月から生じているハマス等パレスチナ武装勢力とイスラエルとの間における紛争など、各地で武力紛争が生じており、世界中に重大な被害と混乱、不安をもたらし続けています。


そのような状況の中、政府は、2022年12月に閣議決定した新たな国家安全保障戦略、国家防衛戦略及び防衛力整備計画に基づき、他国の軍事拠点などを直接攻撃できる長射程ミサイルの導入前倒しを決めるなど、敵基地攻撃能力ないし反撃能力の保有に向けた取組を加速しています。また、政府は、本年3月、イギリス、イタリアと共同で開発する次期戦闘機について、第三国への輸出を可能とする閣議決定をしました。


しかし、過去の紛争を振り返ってみても、武力行使は更なる武力行使を招く結果にしかなりません。日本は戦後、唯一の被爆国として諸外国との間で平和的外交関係を築いてきました。世界中が武力によって混乱、不安が生じている今こそ、日本政府は武力に依拠するのではなく、日本国憲法が掲げる恒久平和主義、国際協調主義の原理に基づき、国際平和の維持のために最大限の外交努力を尽くすべきです。


また、国会では、憲法改正手続法における国民投票に関する広告規制の議論が十分に行われていないにもかかわらず、自民党からは緊急事態条項の創設を想定して、衆議院憲法審査会に憲法改正条文案の起草機関の設置が提案されるなど、憲法改正に向けた取組が進められています。さらに、大規模災害や、感染症のまん延等の事態への対応を目的に国が地方自治体に対して補充的な指示ができるとする制度の創設も審議されています。当連合会は、極度の権力集中による政府の権力濫用の危険性を避けるためにも、国民主権や地方自治の本旨の観点を踏まえ、いずれの議論についても反対の意見を述べています。


日本国憲法は、あらゆる人が個人として尊重され、多様性を認め合う社会の実現を目指しています。当連合会は、この理念を大切にし、立憲主義を堅持し、国民主権に基づく政治を実現することにより個人の人権を守る立場から、引き続き、基本的人権の擁護と社会正義の実現のための活動を積極的に行ってまいります。



 2024年(令和6年)5月3日

日本弁護士連合会
会長 渕上 玲子