「鶴見事件」第3次再審請求棄却決定に関する会長声明


横浜地方裁判所第2刑事部(丹羽敏彦裁判長)は、2023年11月7日、いわゆる鶴見事件の第3次再審請求の再審請求審について、再審請求を棄却する決定をした(以下「本決定」という。)。


鶴見事件は、1988年6月20日に発生した強盗殺人事件である。髙橋和利氏(以下「和利氏」という。)は、同年7月1日に逮捕され、第1回公判から殺人については一貫して無罪を主張しており、確定判決は和利氏の自白の信用性を否定したにもかかわらず、情況証拠のみで、和利氏に対して死刑判決を言い渡した。


和利氏は、第2次再審請求の途中で2021年10月8日に病死し(享年87歳)、和利氏の妻髙橋京子氏(以下「京子氏」という。)が、和利氏の遺志を引き継ぎ、同年12月24日に第3次再審請求を申し立てたものである。


第3次再審請求審において、弁護人は、①本件の凶器は確定判決が認定した「バール様の凶器」「プラスドライバー様の凶器」ではないとする法医学鑑定、②和利氏以外の真犯人の可能性を示す証拠、③本件現場から採取された黄色ビニール片、黒色小片は、いずれも和利氏に由来するものではなく、真犯人に由来するものであるとする証拠、④和利氏の自白は虚偽であり、和利氏は犯行を体験していない可能性が高いとする心理学鑑定等、多数の新証拠を提出した。


しかし、請求審である横浜地裁は、弁護人が提出した鑑定等の新証拠について事実の取調べを行うことなく、また、弁護人が請求していた未開示証拠の開示を検察官に命じることなく、再審請求を棄却したのである。


本決定は、弁護人が提出した新証拠を十分に検討することなく、その証拠価値を否定したものである。また、本決定は、新旧全証拠の総合評価を行っておらず、白鳥・財田川決定にも違反するばかりか、「疑わしきは被告人の利益に」という刑事裁判の鉄則にも反しており、到底是認できない。


和利氏は、逮捕されてから33年以上もの長期間にわたり、死刑執行の恐怖の中で身体を拘束されてきたのであり、生存中に救済されるべきであった。和利氏の遺志を引き継いだ京子氏も現在89歳という高齢であり、速やかに再審が開始され、雪冤を果たすことなく他界した和利氏の名誉回復がなされなければならない。


弁護人は、本年11月13日に東京高等裁判所に対して即時抗告を申し立てたものであり、当連合会は、引き続き鶴見事件の再審を支援し、再審開始、無罪判決の獲得に向けて、あらゆる努力を惜しまないことをここに表明する。


また、事実の取調べを行わず証拠開示請求にも対応しないまま、本決定のような不当な決定がなされる現状を踏まえ、改めて再審における証拠開示の制度化、再審開始決定に対する検察官の不服申立て禁止及び再審請求人に対する手続保障を中心とする手続規定の整備をはじめとする再審法改正を含め、えん罪を防止・救済するための制度改革の実現を目指して全力を尽くす決意である。



2023年(令和5年)11月29日

日本弁護士連合会
会長 小林 元治