「送還忌避者のうち本邦で出生した子どもの在留特別許可に関する対応方針について」に対する会長声明


2023年8月4日、出入国在留管理庁は、「送還忌避者のうち本邦で出生した子どもの在留特別許可に関する対応方針について」(以下「対応方針」という。)を発表した。


対応方針は、改正入管法の施行時までに、日本で出生して小学校、中学校又は高校で教育を受けており、引き続き日本で生活をしていくことを真に希望している子どもとその家族を対象に、家族一体として在留特別許可をするとしている。


対応方針により、日本に生まれながらも日本に在留する法的地位(在留資格)のない子どもとその家族の一部に在留資格が認められ、日本で安定して生活する他の子どもたちと同様の生活が送れるようになることを歓迎する。


一方で、対応方針の以下の点については、懸念を表明するとともに、その適用範囲の拡大を求める。


まず、対応方針は、子どもが「本邦で出生」したことを要件としているが、2022年末時点の「送還忌避者」のうち日本で出生していない子どもは94人いるとのことである。子どもの最善の利益(子どもの権利条約3条)を保護するとの観点からみれば、日本で出生したかどうかだけで線引きをする合理性はない。日本で出生したことだけでなく、日本で子どもが成長してきた環境、人格を形成してきた過程に着目し、子どもの最善の利益を保護すべく、対応方針の要件を改めるべきである。


この点について、法務大臣は、同日、「我が国で出生していないこどもについても、個別の事案ごとにその点を含めて、諸般の事情を総合的に勘案して在留特別許可の許否を判断していく」としたが、上記のとおり、本来は対応方針の要件を限定せずに救済すべきであり、仮に対応方針の要件を改めない場合にも、出入国在留管理庁の裁量的な個別判断でなく確実に救済できる方策を実現すべきである。


次に、対応方針の対象として日本で出生した「子ども」、すなわち改正法施行時点で18歳未満であることを要件としているため、仮に日本で出生していたとしても(あるいは幼少期から日本で成長したとしても)18歳を超えてしまった者は対応方針の対象外となってしまう。しかしながら、日本で成長し暮らしてきた環境、人格形成過程を保護するとの観点からすれば、「自国」として日本に在留する権利が認められてしかるべきである(自由権規約12条4項についての条約機関の一般的意見27参照)。加えて、18歳を超えているかどうかは対応方針の実施が遅きに失したという本人が如何ともし難い事象によるものでもある。したがって、18歳を超えている者であっても、日本で出生した者や日本で成長した者は対応方針の対象とすべきである。


最後に、仮に子どもが日本で出生したこと、18歳未満であること、その他の要件を満たすとしても、「親に看過し難い消極事情がある場合」は対応方針の対象外とされている。ここに「親に看過し難い消極事情がある場合」とは、親が①入国・上陸の際に不法入国・不法上陸であったこと、②偽造在留カード行使や偽装結婚等の出入国在留管理行政の根幹に関わる違反をしたことがあること、③薬物使用や売春等の反社会性の高い違反をしたことがあること、④懲役1年超の実刑の前科を有していること、⑤複数回の前科を有していることなどとされている。対応方針に従えば、親にこのような消極事情がある場合には、家族一体として在留資格が与えられないこととなる。


しかし、子は親の付属物ではないから親の消極事情を考慮すべきではなく、子自身の在留資格については、その最善の利益を検討して在留資格を与えるべきである。その上で、親だけを送還するか否かについては、親の消極事情が親だけの送還による家族分離を正当化させるほどのものであるかについて、家族結合権(自由権規約17条、23条)の保障や比例原則の観点から慎重に判断すべきである。


当連合会は、日本で出生した子どものみならず、日本で育った子どもや、その後成年となった者などについても、在留資格の有無にかかわらず、その人権が擁護されるよう、対応方針の拡大を強く求める次第である。



2023年(令和5年)9月4日

日本弁護士連合会
会長 小林 元治