第4回普遍的定期的審査(UPR)における日本政府の態度表明に対する会長声明
2023年1月31日、国連人権理事会の普遍的定期的審査(the Universal Periodic Review。以下「UPR」という。)作業部会にて、日本の人権状況に関する192の国連加盟国による審査が行われ、その結果文書が本年7月10日、国連人権理事会で採択された。日本に対する勧告数は、2008年の第1回審査における26から回を追うごとに増加し、今回の4回目の審査では300に及んでいる。
UPRの手続では、被審査国は勧告に対して「支持(support)」か「留意(note)」かの態度を表明することが求められているところ、日本政府も本年6月8日付け文書で各勧告に対する態度を表明した。
第一に、当連合会は、日本政府に対し、「支持」を表明した勧告の確実な実施を求める。
とりわけ国内人権機関の設立と個人通報制度の導入について、日本政府は第1回審査から多数の勧告を受け続けている。そして、日本政府はこれに対し一貫して「支持」を表明しているものの、正確には「支持」を「フォローアップすることに同意する(accept to follow up)」と曖昧な表現に置き換えて回答しており、実際にも、日本政府はこの問題の具体的検討状況を明らかにしておらず、未だ実現に向けた道筋は見えない。国際社会に対しては国際人権法を遵守する旨表明しながら、国内ではかかる対応をとり続けることは、勧告を出した各国政府からの信頼を損ねるものであるとともに、国連人権システムの軽視と言わざるを得ない。
また、日本政府は女性差別に関しても多数の勧告を受け続けている。これに対して日本政府は施策の推進に関するものについて、これまでと同様「フォローアップすることに同意する」との態度を表明している。しかし、世界経済フォーラム(World Economic Forum)による2023年世界ジェンダーギャップ報告書(The Global Gender Gap Report 2023)において、日本は146か国中125位、前年より9ランクダウンで、2006年の同報告書公表開始以来、最低の地位にまで落ち込んだ。かかる状況から脱却するためには、さらに強力な施策が必要であることは明白である。
第二に、当連合会は、日本政府に対し、受け入れなかった勧告について、次回審査では受け入れるよう求める。
具体的には、多数の勧告を受け続けている死刑制度の廃止、死刑に関するモラトリアム(執行停止)の導入、また、代用監獄の廃止等を求める勧告について日本政府は「受け入れない(not accept)」との従前の立場を維持した。このうち死刑制度について、日本政府は世論を存置の根拠の一つとしている。しかし、世論調査は、調査方法により結論が異なることもある上、生命に対する権利という基本的人権に関わる問題を世論で決定するべきではない。
また、包括的差別禁止法の制定を求める勧告についても、日本政府は従前どおり「留意」との立場に留まった。しかし、現実に日本国内では様々な形態の差別に苦しむ人々が存在すること、それがインターネットの普及によりさらに深刻化していること等に鑑みると、差別への対応として現行法が謳っている啓発や教育だけでは不十分であることは明白である。
最後に、入管難民問題について、強制送還政策を国際人権法に合致させること、移民・難民の権利保護を促進することなどの勧告が出された。しかし、日本政府がこれらを尊重しない入管法改正法案を推進し、本年6月9日に国会がこれを成立させたことは極めて遺憾である。
以上のとおり、当連合会は、今後とも日本政府に対し、支持した勧告を単にフォローアップするのみならず確実に実行すること、受け入れなかった勧告について、受入れに向けた真摯な検討をすることを求め続ける。
また、国会及び裁判所も国家機関として当然に条約を誠実に遵守する義務を負うのであるから、勧告の履行のために法律の制定あるいは改廃が必要な場合には、国会は直ちに必要な行為を行うこと、及び、法律や国家行為について条約適合性の判断が求められた場合には、裁判所は勧告内容を十分考慮した上でその判断を行うよう求める。
2023年(令和5年)7月11日
日本弁護士連合会
会長 小林 元治