「豊川事件」異議申立棄却決定に関する会長声明


本日、名古屋高等裁判所刑事第2部(田邊三保子裁判長)は、田邉雅樹氏が申し立てた、いわゆる豊川事件について、2019年(平成31年)1月25日に名古屋高等裁判所刑事第1部において出された再審請求棄却決定を維持し、田邉氏の異議申立を棄却する旨の不当決定をした(以下「本決定」という。)。当連合会は、本決定に対し、無辜の救済という再審法の理念に反するものとして抗議する。


豊川事件は、2002年(平成14年)7月、愛知県豊川市で発生した幼児誘拐殺人事件である。翌年4月、田邉氏は、任意同行を求められて取調べを受け自白して逮捕されたが、公判では一貫して無実を訴え、2006年(平成18年)1月、名古屋地裁は無罪判決を言い渡した。しかし、検察官控訴により、名古屋高裁は逆転有罪判決を言い渡し、上告棄却によって懲役17年の刑が確定した。田邉氏は、当連合会の支援の下、2016年(平成28年)7月、再審請求を申し立てた。


本件には直接の物的証拠はなく、情況証拠は田邉氏と犯人を結び付けるものではない。確定判決の有罪認定は、任意性と信用性に疑問のある自白が脆弱な情況証拠に支えられるというものであった。


再審請求審において、弁護団は、事件当時の潮の流れを前提とすれば自白どおりの地点から幼児を海に投げ捨てた場合、遺体の発見場所に流れ着くとは考えられないとする意見書、幼児を乗せたとされる車のシートに当然付着するはずの幼児の衣類の繊維がないことを示す鑑定書等、自白が客観的事実と矛盾することを示す新証拠を提出した。そして、異議審においても、これらの新証拠を補強する科学者の意見書等を新たに提出した。しかし、裁判所は、弁護団の申立てにもかかわらず、証人尋問を実施することなく本決定を出した。本決定からは新証拠を真摯に検討した形跡はうかがえず、充分な審理が尽くされたものとはいえない。


当連合会は、豊川事件の再審開始と、田邉氏の無罪が確定するまで、引き続き支援を行い、あらゆる努力を惜しまない。


また、このような不当な決定がなされる現状を踏まえ、改めて再審における証拠開示の制度化、再審開始決定に対する検察官の不服申立て禁止及び再審請求人に対する手続保障を中心とする手続規定の整備などをはじめとする再審法改正を含め、えん罪を防止・救済するための制度改革の実現を目指して全力を尽くす決意である。



2023年(令和5年)6月7日

日本弁護士連合会
会長 小林 元治