「大崎事件」再審請求即時抗告棄却決定に関する会長声明


福岡高等裁判所宮崎支部(矢数昌雄裁判長)は、2023年(令和5年)6月5日、いわゆる大崎事件第4次再審請求事件につき、請求人の即時抗告を棄却し、鹿児島地方裁判所の再審請求棄却決定を維持する決定をした(以下「本決定」という。)。


大崎事件は、1979年(昭和54年)10月12日、鹿児島県大崎町の農道脇に転落し、前後不覚で道路上に横臥していた「被害者(義理の末弟)」が、午後9時頃近隣住民2名によって自宅に運ばれてきたところ、原口アヤ子氏(以下「アヤ子氏」という。)が、アヤ子氏の元夫、義弟を含めた計3名で共謀して同日午後11時頃「被害者」を殺害し、翌午前4時頃、その遺体を義弟の息子も加えた計4名で遺棄したとされる事件である。逮捕時からの一貫したアヤ子氏の無罪主張にもかかわらず、確定審においては被害者の死因を頸部圧迫による窒息死と推定した法医学鑑定書、「共犯者」とされたその余の3名の自白、義弟の妻の供述を主な証拠として、アヤ子氏に懲役10年の有罪判決が下された。


アヤ子氏は満期服役後、鹿児島地方裁判所に対して、これまで3度にわたり再審請求を申し立てており、第3次再審請求では、再審請求審、即時抗告審において、いずれも再審開始の判断を得た。にもかかわらず、最高裁判所第一小法廷(小池裕裁判長)が、2019年(令和元年)6月25日、「被害者」が帰宅した時点で死亡又は瀕死の可能性があり、帰宅時の「被害者」の様子に関する近隣住民2名の供述が信用できない、それゆえ、「共犯者」3名の各供述の信用性に重大な疑義が生じるとした即時抗告審の決定は、法医学鑑定の問題点やそれに起因する証明力の限界を十分に考慮していないから「取り消さなければ著しく正義に反する」として、地方裁判所、高等裁判所のした再審開始決定を取り消し、再審請求を棄却するという前代未聞の決定をした。


弁護団は、2020年(令和2年)3月30日、死亡時期について救命救急医の鑑定書、近隣住民2名の供述について異なる専門的知見により分析した2種類の鑑定書を新証拠として、第4次再審請求を申し立てた。本請求審の新証拠は、それぞれが車の両輪となって、「被害者」が帰宅前に死亡しており、そもそもアヤ子氏らが「被害者」を殺害することはあり得ない、つまり殺人事件は存在しないことを明らかにするものであった。


第4次再審請求審の鹿児島地方裁判所は、申立てから2年弱という期間で5名の鑑定人の証人尋問を行い、現地での進行協議期日を実施する等の積極的な訴訟指揮を行ったが、新証拠の評価を誤ったまま、再審請求を棄却したものであった。本決定も、鹿児島地方裁判所の決定と同様に、新旧全証拠の総合評価を適切に行っておらず、「疑わしいときは被告人の利益に」の原則が再審にも適用されるとした白鳥・財田川決定に明らかに違反しているほか、死亡時期に関する検討も不十分であって、到底是認できないものである。


また、アヤ子氏は今月15日に96歳となる高齢である。一刻も早く再審開始決定を勝ち取り、再審公判を開かねばならない。


当連合会は、アヤ子氏らが無罪となるための支援を続けるとともに、再審における証拠開示の制度化や、再審開始決定に対する検察官の不服申立て禁止を始めとする再審法改正を含め、えん罪を防止・救済するための制度改革の実現を目指して全力を尽くす決意である。



2023年(令和5年)6月5日

日本弁護士連合会
会長 小林 元治