防衛省が調達する装備品等の開発及び生産のための基盤の強化に関する法律案についての会長談話


今国会に「防衛省が調達する装備品等の開発及び生産のための基盤の強化に関する法律案」が提出された。同法案は、2023年5月9日に衆議院本会議で可決され、現在は参議院で審議されている。


同法案は、装備品等契約における秘密の保全措置について規定し、武器等の機微情報の保全を強化するとしている。すなわち、同法案第27条第1項は、防衛大臣が「装備品等契約を履行させるため、装備品等又は自衛隊の使用する施設に関する情報であって、公になっていないもの(自衛隊法第59条第1項の規定により同法第2条第5項に規定する隊員が漏らしてはならないこととされる秘密に該当する情報に限る。)のうち、その漏えいが我が国の防衛上支障を与えるおそれがあるため特に秘匿することが必要であるもの(略)を取り扱わせる必要があると認めたときは、これを装備品等秘密に指定」する制度を定めている。また、同条第3項は、装備品等契約企業は「装備品等秘密」を取り扱う従業員を定め、その氏名、役職その他を防衛大臣に報告しなければならないとし、同条第6項は、企業の従業員は「業務に関して知り得た装備品等秘密を漏らしてはならない。装備品等秘密の取扱いの業務に従事しなくなった後においても、同様とする。」と定めて、企業の従業員に生涯にわたる法的な守秘義務を課している。その上で、同法案第38条第1項第2号は、「装備品等秘密」を漏らした者は、1年以下の拘禁刑又は50万円以下の罰金に処するとしている。


このような法制度は、特定秘密の保護に関する法律(以下「秘密保護法」という。)が特定秘密取扱者に対する情報統制を罰則をもって行うのと同様であり、罰則による情報統制を武器産業従事者にまで広く拡大するものである。


しかし、同法案については、秘密保護法の特定秘密の指定等や適性評価の実施状況をチェックするため衆参両議院に設置された情報監視審査会のような第三者による監視措置を設けることなどは検討されておらず、違法な秘密指定等を防ぐ手立てが全く講じられていないと言わざるを得ない。


装備品等契約における秘密は、防衛という国政上の重要問題についてのものであって一定程度保全する必要があるとしても、これを違法な秘密指定等により過度に保全すれば、市民の知る権利と表現の自由が侵害されることとなる。そこで、同法案を参議院で審議するに当たっては、第三者機関による監視措置を設けるなど、違法な秘密指定等を防ぐ手立てについても十分な審議を尽くすことを求めるものである。




2023年(令和5年)5月26日

日本弁護士連合会
会長 小林 元治