空家等対策の推進に関する特別措置法の一部を改正する法律案についての会長声明


現在、第211回国会において、空家等対策の推進に関する特別措置法(空家特措法)の一部を改正する法律案(以下「改正案」という。)が審議されている。


改正案には、特定空家(空家特措法2条2項。放置すれば倒壊する危険があるなど放置することが不適切である状態にあると認められる空家等。)に至る前の段階の管理不全空家に対する指導・勧告措置や固定資産税の住宅用特例の解除、特定空家の除却の手続の円滑化を図るための修正等、空き家の発生抑制や空き家問題の除去に資する施策が取り入れられている点は評価できる。


しかしながら、空家等活用促進区域を指定し、その区域内における前面道路の幅員規制の緩和(改正案7条6項)、市街化調整区域における区域指定(改正案7条8項)、用途の特例(改正案7条9項及び10項)などの特別な規制緩和措置を定めている点には、以下に述べるとおり、大きな問題がある。


接道に係る前面道路の幅員規制は、避難、消火・救助活動など安全確保のための規定であり、その緩和は、人の生命身体・財産保護に重大な被害をもたらすおそれがある。現行の建築基準法には、「交通上、安全上、防火上及び衛生上支障がない」場合には規制を緩和できる規定(建築基準法43条2項2号)があり、この規定により空き家を法令に適合した建物に建て替え、また必要な増改築をすることは可能である。これに加えて、改正案のように区域を別途指定して緩和措置を設けることは、当該区域の安全性を緩和措置前よりも低下させるおそれがあり、相当ではない。仮に法改正がされるとしても、改正案7条6項に規定する国土交通省令等の内容は安全を損なうことがないよう厳格に定められるべきであり、この点も含めて、国会で慎重に審議がされるべきである。


また、市街化調整区域は、開発が抑制される地域であり、乱開発及び地域のスプロール化を防ぎ、ひいては、空き家発生防止にもつながる重要な制度である。その市街化調整区域を促進区域に指定し、開発を認めることには大きな矛盾がある。さらに、用途地域指定も、生活環境の悪化を防ぐための重要な制度であり、それを一般的に緩和することは用途地域を指定した趣旨を減殺するものである。市街化調整区域も用途地域指定も、高度の必要性がある場合には個別の空き家についての特例許可で対応することができ、区域を指定して広く一般的に緩和措置をとることは、スプロール化や新たな空き家の発生、生活環境の悪化等のおそれがあるので相当ではない。仮に法改正がされるとしても、改正案7条8項に規定する協議及び同9項に規定する同意を要する協議の基準は厳格に定められるべきである。


そもそも、現行法の下でも、建て替え需要がある地域の空き家は、各種の努力により解体、土地売却、再建築に至っており、規制緩和が空き家対策につながるか疑問がある。その上、安全性を損ねかねない無秩序な開発の促進は、将来的に更なる空き家拡大につながるおそれがある。


当連合会は、1993年人権擁護大会「arrow_blue_1.gifまちづくりの改革を求める決議」、2007年人権擁護大会「arrow_blue_1.gif持続可能な都市をめざして都市法制の抜本的な改革を求める決議」、2010年8月19日付け「arrow_blue_1.gif持続可能な都市の実現のために都市計画法と建築基準法(集団規定)の抜本的改正を求める意見書」において、持続可能な住民主体のまちづくりを実現すべく、「計画なければ開発なしの原則」及び「建築調和の原則」を打ち立て、安全の確保の観点やまちなみ・景観との調和の観点、環境保全の観点などから適切な規制をすること、それを住民参加の下で行うことなど、土地利用の公共的コントロールの強化を提言してきた。これらの提言の趣旨に照らしても、今回の特別な規制緩和措置は適切ではない。


さらに、今回の緩和措置は、事前に空き家対策を検討してきた社会資本整備審議会住宅宅地分科会空き家対策小委員会でも議論されていなかったにもかかわらず、法案策定段階で突然に加えられたものであり、政策形成の健全性及び透明性の観点からも問題があると言える。


以上より、当連合会は、改正案のうち、空家等活用促進区域を指定し、空き家対策の名の下にその区域内において接道に係る前面道路の幅員規制や用途変更を緩和するなどの措置をとっている点について、国会での慎重な審議を求める。




2023年(令和5年)5月10日

日本弁護士連合会
会長 小林 元治