大阪府の特定複合観光施設区域整備計画認定に関する会長声明


本年4月14日、国土交通大臣は、特定複合観光施設区域整備法に基づき大阪府から提出された特定複合観光施設区域整備計画(以下「本整備計画」という。)を認定した。


当連合会は、2014年5月9日に「arrow_blue_1.gif「特定複合観光施設区域の整備の推進に関する法律案」(いわゆる「カジノ解禁推進法案」)に反対する意見書」を公表し、それ以降、カジノ解禁には暴力団対策や、マネー・ローンダリング対策の問題に加え、ギャンブル依存症患者の増大、多重債務問題の拡大の危険性及び青少年の健全育成への悪影響等の多くの弊害があることを理由に、一貫して反対するとともに、慎重かつ透明性を担保した審査を求めてきた。


また、市民からは、本整備計画について、上記のカジノ解禁に伴う各懸念に加えて、土壌問題に起因して見込まれる自治体の費用負担をはじめ想定されている計画の実現可能性を含めた様々な点から疑問が示されていた。IR事業用地の借地権設定契約の差止め等を求める住民監査請求に基づく監査では、監査委員の中からも借地権設定契約の締結の差止めを勧告すべきとの意見があり、合議不調の結果を受けて、住民訴訟が提起され、現在、訴訟係属中である。


これらの疑問を払拭するためには、有識者により構成される特定複合観光施設区域整備計画審査委員会(以下「審査委員会」という。)の会議を公開した上で、市民の懸念の声を聴くためのヒアリング等を実施し、開催日や審理対象・審議結果等の審査状況に関する議事録ないしは議事要旨を、適宜公開するなどすべきであった。


しかし、審査委員会による会議は非公開とされ続けた上、ヒアリング等も実施されず、「大阪・夢洲地区特定複合観光施設区域の整備に関する計画」審査結果報告書(以下「報告書」という。)も今般の認定後にようやく公開されるなど、透明性を欠いている。他方、報告書では審査委員会における認定審査の結果及び各項目の評価が一応示されているものの、審議の過程は不明のままであり、また、「特定複合観光施設区域の整備のための基本的な方針」で示された評価基準に従い、審査委員会が評価したものであるものの、同方針で示された要求基準(認定を受けるために必ず適合していなければならない基準)に本整備計画が適合するとの判断過程は何ら開示されていない。これでは、当連合会が求めてきた慎重かつ透明性を担保した審査手続とはいえず、手続保障が不十分であるという問題は払拭されていない。


さらに、報告書によれば、様々な問題点が指摘されている。例えば、「23.地域との良好な関係構築のための取組」については、「地域住民への対面での説明の場を設けるといった能動的な理解促進のための取組の計画が乏しいように見受けられる。」などの指摘もされており、当連合会が求めてきた地域の合意形成が不十分であることが示されている。また、「25.依存症対策」についても、「若者以外も含めた実効性のある早期発見・早期介入のための取組の記載があまり見られず、今後の具体化が必要である。」などの指摘もされている。当連合会が指摘してきたギャンブル依存症の拡大の懸念は残ったままである。


本整備計画の認定に当たっては、「地域との良好な関係構築」や「日本人の依存防止対策を始めとして実効性を持って取り組むこと。」を含む7つの条件が付されたことが公示されているが、今後、これらの条件が確実に成就されるかは不明であり、何らの検証やその過程の公開手続きもないままに計画が進められるべきではない。そもそも、これらの条件を付さなければならないのであれば、本整備計画の認定自体すべきではなかったというべきであり、このような状況で、刑法が賭博を犯罪とし、刑罰をもって禁止してきた従来の法秩序を変更するカジノの解禁を認めることは問題だと言わざるを得ない。


当連合会は、本整備計画の認定にあたり、以上のような様々な懸念や課題があることを踏まえ、改めてカジノ解禁について反対の意見を表明するとともに、カジノの問題点を今後も訴え続けるものである。



2023年(令和5年)4月26日

日本弁護士連合会
会長 小林 元治