脱炭素社会の実現に向けた電気供給体制の確立を図るための電気事業法等の一部を改正する法律案についての会長声明


政府は、2023年2月28日に「脱炭素社会の実現に向けた電気供給体制の確立を図るための電気事業法等の一部を改正する法律案」(以下「GX脱炭素電源法案」という。)を閣議決定した。同法案は、これまで上限とされてきた60年を超えて原子炉を運転することを可能とするとともに、運転期間に関する規制を、従来の「核原料物質、核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律」(以下「原子炉等規制法」という。)から、経済産業省が所管する電気事業法で規定すること等を内容とするものである。しかし、同法案に関しては、審議会等の構成員が原子力利用に積極的な委員に偏り、国民の意見が十分に反映されないまま、短期間でとりまとめるなど、不十分な議論状況であるとともに、以下に指摘する点において、当連合会の表明する、原子力発電所をできる限り速やかに廃止すべきという意見等に反するものであり、容認できない。


1 改正理由等について
GX脱炭素電源法案は、まず、原子炉の運転期間の延長の判断要素として、脱炭素社会の実現や電気の安定供給の確保などの観点を加えている。また、原子力基本法を改正し、第1条の目的規定に、「地球温暖化の防止」を図ることを追加し、新たに国の責務として、原子力発電による「電気の安定供給の確保」、「脱炭素社会の実現」に向けた必要な措置を講じる責務を明記している。そして、それらを実現するために、原子力を含む「非化石エネルギー源の利用の促進」、「電気の安定供給の確保等の観点から発電用原子炉の運転期間を定める」とし、原子力発電の利用を推進している。

しかし、電気の安定供給や経済性を理由として、原子力発電の安全確保を軽視すべきではない。福島第一原子力発電所事故を踏まえて定めた、可能な限り原発依存度を低減するという第6次エネルギー基本計画の方針を変更すべき理由はない。



2 原子炉の運転期間制限の上限撤廃について
GX脱炭素電源法案は、原子炉の運転期間につき、再稼働の審査で停止した期間等を運転期間から除外し、現行の制度である最長60年の期間を超えて運転することを可能とするものである。

運転期間を40年間とし例外的に最長20年間の運転延長を認める現行法制は、経年劣化による不確実性の大きいリスクを低減するために設けられた規定であり、運転停止期間中の劣化をも考慮して一律に使用前検査の合格の日からの期間とされたものである。現行法制は、福島第一原子力発電所事故を踏まえて、原子力発電所の安全性を高めるために導入された安全基準であるところ、GX脱炭素電源法案はこの安全基準を骨抜きにし、老朽化した原子力発電所の運転延長を認めて、経年劣化のリスクを高めるものであり、到底許されるものではない。

当連合会は、2013年以来、原子力発電所を新増設しないことはもとより、既存の原子力発電所はできる限り速やかに廃止すべきことを基本とすべきことを求めてきたものであり、上記のような更なる長期運転を認める運転期間の上限撤廃は、撤回すべきである。



3 運転期間の規制を経済産業省が所管する電気事業法で規定することについて
福島第一原子力発電所事故後、原子力発電所の規制組織は経済産業省から分離され、独立性の高い三条委員会として安全規制に特化した原子力規制委員会が設立された。この規制と推進の分離は、福島第一原子力発電所事故を踏まえた極めて重要な改正であった。

ところが、GX脱炭素電源法案は、原子炉の運転期間に関する規定を、原子炉等規制法から削除し、経済産業省が所管する電気事業法で改めて規定するとしている。

このような規制と推進の分離の逆戻りは、福島第一原子力発電所事故後の安全規制の根幹を覆すものである。


以上のとおり、今回のGX脱炭素電源法案は、内容及び政策立案プロセスの両面から、到底容認できるものではなく、撤回を求める。



2023年(令和5年)3月3日

日本弁護士連合会
会長 小林 元治