GX実現に向けた基本方針及び脱炭素成長型経済構造への円滑な移行の推進に関する法律案についての会長声明


政府は、2023年2月10日に「GX(グリーントランスフォーメーション)実現に向けた基本方針」(以下「基本方針」という。)及び「脱炭素成長型経済構造への円滑な移行の推進に関する法案」(以下「GX法案」という。)を閣議決定した。基本方針では、2050年カーボンニュートラルの国際公約と産業競争力の強化・経済成長を同時に実現していくとし、GX法案において、脱炭素成長型経済構造移行推進戦略(以下「移行推進戦略」という。)の策定、今後10年間の脱炭素成長型経済構造移行債(以下「移行債」という。)の発行、成長志向型カーボンプライシングの導入として賦課金及び特定事業者負担金の導入等を定めている。それらの内容は経済産業大臣が策定する移行推進戦略で定めるとされている。


危険な気候変動の回避及びエネルギーの安全かつ長期的安定需給の在り方は、国民、とりわけ若い世代にとって極めて重要な問題であり、気候変動に関する政府間パネル(以下「IPCC」という。)などの科学の知見を踏まえた国民の理解と関与が求められる。しかしながら、今回のGX法案取りまとめにおいては経済産業省における審議会等を構成する委員が業界関係者に偏り、GX実行会議は公開されておらず、必ずしも国民の参加と理解を前提とした政策決定プロセスによるものとはいえない。


さらに、基本方針及びGX法案は、当連合会が表明してきた危険な気候変動を回避し、地球規模及び日本における持続可能な経済社会の構築の観点から、以下のとおり看過できない問題がある。


1 目指す方向性について
当連合会は、パリ協定で示された平均気温の上昇を産業革命以前に比べて1.5℃未満に抑えて気候危機を回避することの必要性と、そのためにIPCCなどの科学の知見を踏まえた国際合意に基づき2050年カーボンニュートラルだけでなく2030年までにCO2の排出量をほぼ半減させることの重要性を指摘し、同年までに石炭火力発電所を段階的に廃止するとともに、再生可能エネルギーの導入を飛躍的に拡大させることを求めてきた。しかしながら、基本方針及びGX法案はエネルギーの安定供給を大前提とするもので、1.5℃目標の実現を前提に経済成長を目指すものではなく、とりわけ喫緊の課題である同年までの排出削減に貢献するものとはいえない。


2 移行債の発行とその使途について
基本方針では2023年度から2032年度までの10年間に20兆円規模の移行債を発行するとし、GX法案附則で2023年度に約1兆1034億円が予定されている。関連資料等によれば、移行債の対象事業として、石炭火力発電での化石燃料由来のアンモニア混焼実証、CCS(CO2回収・貯留)の社会実装、原子力発電における次世代革新炉の研究開発などが挙げられている。しかし、石炭火力発電は段階的に廃止されるべきであるし、アンモニア混焼は開発中の技術であり、CO2排出削減効果も限定的である。また、当連合会は、原子力発電所を新増設しないことを求めてきた。これらを移行債の対象とすべきではなく、公的資金は省エネ・再エネの推進に集中的に投入するべきである。なお、基本方針では天然ガス火力発電所の新設が予定されているが、天然ガス火力は既に8000万kWに及ぶ発電所が存在し、稼働率も低く、追加新設の必要性はない。


3 カーボンプライシング(CO2価格付け)について
基本方針では、カーボンプライシングとして、自主参加型の排出量取引制度の2026年度からの導入、電力事業者の排出枠に対する負担金の2033年度からの導入及び化石燃料に対する低額での賦課金の2028年度からの導入を掲げている。また、GX法案では、賦課金及び負担金の徴収について定め、その内容は経済産業大臣による移行推進戦略に委ね、法施行後2年以内に法制上の措置を行うとしている。当連合会は脱炭素経済への早期移行に不可欠な制度として、大規模排出事業者に対するキャップアンドトレード型排出量取引及び実効性のある炭素税の導入を求めてきた。しかし、GX法案における排出量取引は自主参加型で排出上限枠もなく、炭素賦課金とともに、上記移行債の償還財源との位置付けである。そのため、各導入時期を先送りし、関係資料によれば化石燃料に係る負担金及び炭素賦課金の負担を低くすることとされている。これは、当連合会が求める国際標準のカーボンプライシングとはいえず、脱炭素成長型経済構造の移行を推進するものとはいえない。排出削減の経済的インセンティブとなる水準での実効性のあるカーボンプライシングを制度化し、速やかに導入すべきである。


以上のとおり、基本方針及びGX法案には重大な問題があり、根本的に見直しを求めるものである。



2023年(令和5年)3月3日

日本弁護士連合会
会長 小林 元治