「日野町事件」即時抗告棄却・再審開始維持決定についての会長声明


本日、大阪高等裁判所第3刑事部(石川恭司裁判長)は、いわゆる日野町事件の第2次再審請求について、故阪原弘氏(以下「阪原氏」という。)の遺族が申し立て、2018年(平成30年)7月11日に大津地方裁判所において出された再審開始決定(以下「原決定」という。)を維持し、検察官の即時抗告を棄却する決定をした(以下「本決定」という。)。


当連合会は、第1次再審請求申立て直後から本件を支援しており、原決定を維持し、再審開始を認めた本決定を、高く評価するものである。


本件は、1984年(昭和59年)12月、滋賀県蒲生郡日野町で発生した強盗殺人事件である。1988年(昭和63年)3月に阪原氏が逮捕され、自白調書が作成されたものの、その後自白を撤回し、以後一貫して無実を訴えてきた。しかし、2000年(平成12年)9月に上告棄却により無期懲役判決が確定した。


本件の確定判決は、直接の物的証拠がなく、情況証拠も阪原氏と犯人を結び付けるものではなく、任意性と信用性に疑問のある自白調書しかないという脆弱な証拠に支えられたものであった。2001年(平成13年)11月に申し立てた第1次再審請求においては、多数の新証拠が提出され、自白の重要な部分が客観的証拠と矛盾していることが明らかになったが、2006年(平成18年)3月、大津地方裁判所は、不当にも再審請求を棄却した。即時抗告審係属中の2011年(平成23年)3月、阪原氏が病死し、訴訟手続が終了したが、2012年(平成24年)3月、遺族が第2次再審請求を申し立てた。そして、2018年(平成30年)7月11日、大津地方裁判所は、再審開始を決定したが、検察官が即時抗告を申し立て、大阪高等裁判所に係属していた。


本件では、証拠開示が大きな役割を果たした。第1次再審請求審では、裁判長の勧告により、全ての送致書、証拠品目録等が開示され、証拠の一覧表が作成された。第2次再審請求審でも、金庫発見場所や死体発見場所への引当捜査に関する写真とネガ、アリバイ捜査に関する捜査資料等、多くの重要証拠が開示された。その中には、引当捜査の任意性に重大な疑問を生じさせる証拠など、再審開始を導く重要な証拠も含まれていた。


原決定は、新旧証拠を総合的に判断し、旧証拠についても改めて評価した結果、阪原氏の自白供述について、信用性・任意性のいずれにも合理的疑いがあるとした。そして、阪原氏と犯行を結びつける間接事実についても、新旧証拠を総合的に判断すれば、阪原氏を犯人であると推認することはできず、間接事実中に阪原氏が犯人でないとしたならば合理的に説明することができない、あるいは少なくとも説明が極めて困難である事実関係は含まれていないとした。


本決定は、死体発見場所への引当捜査についての状況への疑問から犯人性推認の判断は維持しがたく、アリバイについての新証拠により、虚偽のアリバイ主張をしたとも言えない等、原決定の判断を支持して維持したのであり、このことは十分に評価できる。


本決定により、再審における証拠開示がいかに重要であるか再認識させられたと同時に、最高裁判所白鳥・財田川決定のいう総合判断の手法の重要さが、一層明らかとなった。


本件については、検察官の即時抗告によって、原決定から本決定に至るまで実に4年7か月もの年月が経過したが、いまだ再審公判は開始されていない。阪原氏の早期の名誉回復を図るためにも、本決定については検察官が特別抗告することなく、早急に再審公判が開始されるべきである。


当連合会は、日野町事件の再審開始が確定し、阪原氏の無罪が確定するまで、引き続き支援を行うとともに、再審請求事件における全面的証拠開示、再審開始決定に対する検察官の不服申立て禁止を始めとする、えん罪防止のための再審法改正の実現を目指して、全力を尽くす決意である。



2023年(令和5年)2月27日

日本弁護士連合会
会長 小林 元治